表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/27

身体が元に戻せないにゃ

マドカのVR世界でのアバターはこちらです(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=126924

 めぼしいものは何も見当たらない純度100%の草原(くさっぱら)

 地平線が綺麗に直線を描いている。


 100万ドルの夜景とはまるで正反対。


 そんなところに一人置き去りにされて、これからどうしろというのだ。

 あの黒服め、絶対許さん。


「うぅ、アタシは世界一不幸な美少女にゃぁ……」


 お父さんお母さんごめんなさい。

 顔と身体だけは満足に産んでくれたというのに、アタシはもうここでダメそうです。


 ちょちょぎれる涙を(そで)(ぬぐ)い、ふと気が付いた。


 こんな袖の長い服着ていただろうか。


 そこで、ようやく自分が見知らぬ衣装に身を包んでいることに気が付く。


「なんニャこりゃぁぁぁ!? アタシの身体、どうなってるのにゃ!?」


 ダボダボの袖で手が隠れたジャケット、中には露出の多いタンクトップとスパッツ。

 おヘソまで出して、まるで見世物みたいに派手な衣装だ。


 おまけに、白いタンクトップには『(エン)』マークがデカデカ印字され、黒いスパッツは漢字の『(エン)』を模した悪趣味なデザインだ。


 どれだけ金が好きなんだよとツッコミたくなる。


 首には大きな鈴の着いたチョーカー、鈴の穴はもちろん『¥』の形。

 首輪とかアタシはペット扱いかい!


 長い黒髪は五円玉のような物で三つ編みふたつにまとめていた。

 よく見たら、前髪には魚の身体骨が『¥』の形になったヘアピンを付けている。


 そして何より驚いたのは、頭の猫耳と、お尻に生えた二股の尻尾の存在だ。

 二枚舌ならぬ二本尾である。


 ちなみに動かそうと思えば、まさに身体の一部として自在に動く。


 本物だ……!!

 いや、VR世界だから偽物かな?


 ともかく、口調だけではなく身体まで猫みたいになってしまっていたのだ。


「……ハッ!! そうにゃ、たしかあの黒服がキャラメイクとか言っていたにゃ! そんなものやった覚えはニャいけど、これがゲームなら戻せるはずにゃす!」


 どうやればいいのかは、さっぱりわからない。


 しかし、この無駄に媚びた猫語やとってつけたような猫なんて、恥ずかしいのでさっさと元に戻したかった。


 こんな状態で人前へ出たら、現実より先に羞恥心で死んでしまう。


 何かきっと、こう、メニュー画面みたいなのがどこかにあるはずだ。

 目を皿にして周囲を見渡す。


「うぉぉ、どこにあるのにゃぁ!!」


『ゼニャハハ!! 無駄だガネ、無駄無駄!!』


「んにゃ!? この憎たらしい笑い声はもしにゃ……」


 やたらと長い袖の中から声がした。


 あの黒服が夢ではなかったのだから、アイツがいても不思議ではない。


 恐る恐ると左腕の袖を捲る。

 露わになった腕には、猫の腕みたいな籠手と、そこにハメ込まれた携帯端末であった。


 あのエンドラゴン(クソトカゲ)の姿は無い。


 そもそもアイツは滅茶苦茶デカかったのだから、収まるわけもないか。


「にゃ? でも、確かにここから聞こえたはずにゃが……?」


『察しの悪い小娘だガネ! オレ様はココにいると言っているじゃないカネ!』


 今度はハッキリと頭の猫耳が声の出所を聞き分ける。

 腕にくっ付いている携帯端末の中だ。


 それに気が付くと同時に、小さいクソトカゲの頭がヌッと画面から飛び出した。


「にょわぁ!? お前、どっから出てきてるんにゃ!? 悪霊に憑りつかれたにゃす! お(はら)い、誰か祓い師を呼ぶにゃぁ!!」


『まったく、ピーピー煩い娘だガネ。 祓うも何も、オレ様とお前は円環の契約で結ばれたのだから、もはや一心同体、離れられないガネ。 ゼニャハハ!!』


「そ、そんにゃぁ……」


 なんとも厄介な貧乏神に気に入られたものだ。


 この金喰い虫とこれからやっていくなんて、やはり世界一不幸だと実感する。


『話を戻すガネ、お前のアバターはもう戻せないから無駄なことせず、さっさと金儲けの算段でもするといいガネ。 タイムイズマネー、時間の無駄だガネ』


「戻せないってどういうことにゃ!? というか、やっぱりお前がなにか悪さしてたんにゃろ!!」


『円環の契約だガネ。 魂が繋がったから、オレ様の一部が反映された結果ということだガネェ。 そもそも、内容も読まずに契約へサインしたヤツが悪いんじゃないカネ? ゼーニャハハハハ!!』


「グヌッ……!! それはそうにゃが……!!」


 この『ニャ』とかいう語尾や、やたらと金に執着するような見た目はコイツのせいだったのか。


 このクソトカゲをどうにか切り離さない限り、アタシの身体を元には戻せないらしい。


「んにゃぁぁ! だったら、さっさと出ていけにゃ!! クーリングオフにゃす!!」


 左腕の端末から飛び出したクソトカゲの頭を掴むと、大根のようにスポンと抜いて放り投げる。


 だが、クルクルと円を描いて放られたアイツは、突然空中で光の粒子となって消えてしまった。


『だから無駄だと言っとるガネェ。 魂レベルの結びつきをちょっと甘く見過ぎじゃないカネ?』


 声に驚き左腕へと視線を戻すと、画面から這い出す小さなクソトカゲの姿。


 今度は頭だけではなく身体全体を出しており、このサイズ感だと本当にトカゲみたいだ。


『さぁて、分かったらキリキリ働くガネ! ゼニャハハハハ!!』


 小さくても頭は高い。

 こんな、こんな口煩い小姑(こじゅうと)みたいなやつに、これから一生イビられ続けるの……?


「そ、そんにゃぁぁぁ!?」


 アタシの人生、マジで詰んだかもしれん。

評価や感想をいただけると励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ