身体が元に戻せないにゃ
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めぼしいものは何も見当たらない純度100%の草原。
地平線が綺麗に直線を描いている。
100万ドルの夜景とはまるで正反対。
そんなところに一人置き去りにされて、これからどうしろというのだ。
あの黒服め、絶対許さん。
「うぅ、アタシは世界一不幸な美少女にゃぁ……」
お父さんお母さんごめんなさい。
顔と身体だけは満足に産んでくれたというのに、アタシはもうここでダメそうです。
ちょちょぎれる涙を袖で拭い、ふと気が付いた。
こんな袖の長い服着ていただろうか。
そこで、ようやく自分が見知らぬ衣装に身を包んでいることに気が付く。
「なんニャこりゃぁぁぁ!? アタシの身体、どうなってるのにゃ!?」
ダボダボの袖で手が隠れたジャケット、中には露出の多いタンクトップとスパッツ。
おヘソまで出して、まるで見世物みたいに派手な衣装だ。
おまけに、白いタンクトップには『¥』マークがデカデカ印字され、黒いスパッツは漢字の『円』を模した悪趣味なデザインだ。
どれだけ金が好きなんだよとツッコミたくなる。
首には大きな鈴の着いたチョーカー、鈴の穴はもちろん『¥』の形。
首輪とかアタシはペット扱いかい!
長い黒髪は五円玉のような物で三つ編みふたつにまとめていた。
よく見たら、前髪には魚の身体骨が『¥』の形になったヘアピンを付けている。
そして何より驚いたのは、頭の猫耳と、お尻に生えた二股の尻尾の存在だ。
二枚舌ならぬ二本尾である。
ちなみに動かそうと思えば、まさに身体の一部として自在に動く。
本物だ……!!
いや、VR世界だから偽物かな?
ともかく、口調だけではなく身体まで猫みたいになってしまっていたのだ。
「……ハッ!! そうにゃ、たしかあの黒服がキャラメイクとか言っていたにゃ! そんなものやった覚えはニャいけど、これがゲームなら戻せるはずにゃす!」
どうやればいいのかは、さっぱりわからない。
しかし、この無駄に媚びた猫語やとってつけたような猫なんて、恥ずかしいのでさっさと元に戻したかった。
こんな状態で人前へ出たら、現実より先に羞恥心で死んでしまう。
何かきっと、こう、メニュー画面みたいなのがどこかにあるはずだ。
目を皿にして周囲を見渡す。
「うぉぉ、どこにあるのにゃぁ!!」
『ゼニャハハ!! 無駄だガネ、無駄無駄!!』
「んにゃ!? この憎たらしい笑い声はもしにゃ……」
やたらと長い袖の中から声がした。
あの黒服が夢ではなかったのだから、アイツがいても不思議ではない。
恐る恐ると左腕の袖を捲る。
露わになった腕には、猫の腕みたいな籠手と、そこにハメ込まれた携帯端末であった。
あのエンドラゴンの姿は無い。
そもそもアイツは滅茶苦茶デカかったのだから、収まるわけもないか。
「にゃ? でも、確かにここから聞こえたはずにゃが……?」
『察しの悪い小娘だガネ! オレ様はココにいると言っているじゃないカネ!』
今度はハッキリと頭の猫耳が声の出所を聞き分ける。
腕にくっ付いている携帯端末の中だ。
それに気が付くと同時に、小さいクソトカゲの頭がヌッと画面から飛び出した。
「にょわぁ!? お前、どっから出てきてるんにゃ!? 悪霊に憑りつかれたにゃす! お祓い、誰か祓い師を呼ぶにゃぁ!!」
『まったく、ピーピー煩い娘だガネ。 祓うも何も、オレ様とお前は円環の契約で結ばれたのだから、もはや一心同体、離れられないガネ。 ゼニャハハ!!』
「そ、そんにゃぁ……」
なんとも厄介な貧乏神に気に入られたものだ。
この金喰い虫とこれからやっていくなんて、やはり世界一不幸だと実感する。
『話を戻すガネ、お前のアバターはもう戻せないから無駄なことせず、さっさと金儲けの算段でもするといいガネ。 タイムイズマネー、時間の無駄だガネ』
「戻せないってどういうことにゃ!? というか、やっぱりお前がなにか悪さしてたんにゃろ!!」
『円環の契約だガネ。 魂が繋がったから、オレ様の一部が反映された結果ということだガネェ。 そもそも、内容も読まずに契約へサインしたヤツが悪いんじゃないカネ? ゼーニャハハハハ!!』
「グヌッ……!! それはそうにゃが……!!」
この『ニャ』とかいう語尾や、やたらと金に執着するような見た目はコイツのせいだったのか。
このクソトカゲをどうにか切り離さない限り、アタシの身体を元には戻せないらしい。
「んにゃぁぁ! だったら、さっさと出ていけにゃ!! クーリングオフにゃす!!」
左腕の端末から飛び出したクソトカゲの頭を掴むと、大根のようにスポンと抜いて放り投げる。
だが、クルクルと円を描いて放られたアイツは、突然空中で光の粒子となって消えてしまった。
『だから無駄だと言っとるガネェ。 魂レベルの結びつきをちょっと甘く見過ぎじゃないカネ?』
声に驚き左腕へと視線を戻すと、画面から這い出す小さなクソトカゲの姿。
今度は頭だけではなく身体全体を出しており、このサイズ感だと本当にトカゲみたいだ。
『さぁて、分かったらキリキリ働くガネ! ゼニャハハハハ!!』
小さくても頭は高い。
こんな、こんな口煩い小姑みたいなやつに、これから一生イビられ続けるの……?
「そ、そんにゃぁぁぁ!?」
アタシの人生、マジで詰んだかもしれん。
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