円環の契約
マドカと契約した集円竜エンドラゴンのイメージ画像はコチラ(外部サイト)
https://tw6.jp/gallery/?id=123319
あの後、何があったのかあまり覚えていない。
たしか黒服に無理やり取り押さえられて、必死に叫んだっけ。
助けなんてこなかったけど。
それで車に連れ込まれて、そこから先はどうだったかな。
車の窓は黒塗りで見えないし、後部座席から運転席も見えなかった。
マジックミラーとかいうやつ?
目隠しもされちゃったし、背負われてたから降車してからどれくらい移動したかも分からない。
あと気が付いたら、何かの機械に繋がれて……
『生体情報をスキャンしています、力を抜いて動かないでください』
なんだろう、アナウンスみたいなのが聞こえて来る。
でも暗くて何も見えない。
黒だけがある、変な空間に浮いているみたい。
ここはもうVR世界というやつなのかな。
身体の実感がないというか、フワフワと地に脚着かない不思議な気持ちだ。
『生体情報スキャン完了……情報を基にアバターを生成しま、ままマ、ママ、m』
アナウンスの人、なんか壊れてない?
自分はこのまま、この何もない空間に残されてしまうのだろうか。
寂しいけれど、あの借金を背負うよりはマシかもしれない。
あんなもの、死んでも責任持ちたくなかった。
騙した奴が悪いのであって、サインした自分にはなんら非は無いはず。
このまま闇に溶けて逃げてしまいたい。
「ゼニャハハハハ! 臭うガネ、臭うガネ! 金に溺れ泥に沈んだクソの臭いがプンプンしとるガネ!!」
なんだこの失礼な声。
アナウンスの人ではないようだ。
黒しかない空間なので、本当に目を開けているか分からないが、ともかく目を開いて声の主を探す。
すると目の前には自分の何十倍も大きな、金色の恐竜みたいなヤツが居た。
恐竜というかデカいトカゲかもしれない。
ウロコは五円玉を紐で繋いだような、田舎の工芸品みたいな見た目。
鼻筋から伸びる角は¥マークのように枝分かれしたヘンテコな形。
一目で普通の生き物ではないことが判断できる。
もしかしたら不細工な玩具かも。
「ケッ! オレ様をトカゲ呼ばわりとは、失礼なのはどっちだガネ!」
喋っているつもりはなかったけれど、この金ピカトカゲは人の考えていることが読めるみたい。
ますます普通とはかけ離れた存在らしい。
「ゼニャハハ、そうだガネ。 オレ様はこの世界で産まれた特別な存在なんだガネ。 分かったなら、頭を垂れて敬うガネ」
なんとも図々しいトカゲだ。
これも演出の一部なのかな。
面倒だから早く終わってほしい。
「おぉ~っと、本当にいいんだガネ? お前、バカみたいな借金を抱えているようじゃないカネ。 そんな金、どうやって稼ぐ気だガネ? 非力なお嬢ちゃんの細腕一つでは、とてもやっていけるとは思えないガネェ?」
この悪趣味トカゲは、なんでその事を知っているんだろう。
乙女のプライバシー侵害だぞ。
こちらの弱みを握っているからか、これでもかとイヤらしくニヤニヤ嗤ってるのもムカツク。
だが実際、金を稼げと言われてもまるで当てがない。
どうしてこのVR世界にぶち込まれたのかすら良く分からないのが現状だった。
かといって、こんな怪しいトカゲを信じてやる気も起きないよね。
「ゼニャハハ、随分と言うじゃないカネ。 オレ様の名はシュウエンリュウ・エンドラゴン、この世界でほぼ最強に等しい存在だガネ。 そのオレ様の力も欲しくないと言うのカネ?」
終焉……エンド……なんとも物騒だが強そうな名前。
ゲームならラスボスとかに付けるやつじゃないかな。
それほどの力なら是非とも欲しい。
少しでも早く借金を返済し、この意味の分からない状況を脱したいし。
命短し恋せよ乙女。
こんなところで枯れている場合ではないのだ。
「うむうむ、良い心がけだガネ。 ならば早速、この円環の契約にサインするガネ。 お前とオレ様は魂の繋がりが結ばれ、互いにWinWinの関係になれるというわけだガネ」
自分と黄金トカゲ様の間に、円板型の書類のようなものと金ピカのペンが宙に浮かんでる。
どこかで見たようなデジャブを感じたが、今はそんなことどうだっていいよね。
この救世主がいつ気を変えるか分からないもの。
迷わずにペンを取り、『勝堀円稼』と署名する。
「これで契約完了だガネ。 あぁ言い忘れていたガネ、オレ様は終焉竜じゃなく『集円竜・¥ドラゴン』、金を喰って力に変える竜だガネ。 ゼニャハハハハハハ!!」
金を喰う?
このクソトカゲは何を血迷ったことを言っているのだろう。
ただでさえ借金で金が無いことを承知の上で、わざと契約を持ちかけて来たの?
人の弱みに付け込むなんて、本当に卑劣な奴。
騙すなんて詐欺だ、この契約は無効だよ、無効。
「現実で元気な頃は騙されなかったというのカネ? 100億円の借金はどうして出来たか忘れたとは言わせないガネ。 お前が変わらない限り、お前はずっと騙され続けるんだガネ! ゼニャハハ!!」
薄れゆく意識の中で、最後まであのクソトカゲのニヤついた目元が脳裏に残る。
変わらなければ。
コイツも、そしてクソみたいな借金を背負わせた社会も、全て見返してやるのだ。
ゆめゆめ忘れてはならない。
面倒臭いからと何も考えないこと。
話半分に聞き流し、書類にサインをしてしまうこと。
それらは自分の頭からすっかり抜け落ちた頃に、ふとした拍子でやって来る。
死神の鎌よりも恐ろしいモノを携えて。
『……を基にアバターを生成します。 生成が完了しました。 それでは《Your endless narrative》、通称《Yen》の世界をご堪能ください』
評価や感想をいただけると励みになります。
よろしくお願いします。