脱兎のごとくにゃ
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「へぇ……初めてなのに随分と大口を叩くじゃないか、円稼くん。 せっかく集めた大金をどう使うか、お手並み拝見かな」
そう言いながらも、月兎はこちらへ向かって駆けだして来た。
前言通り、待ったは無しということか。
お手並み拝見じゃないのかよ!
まだまだ戦闘が不慣れな分、少しくらい肩慣らしがしたかった。
しかし、相手がそんな悠長な暇を与えてくれないとなれば話は別だ。
「ええい……こうニャったら、挨拶代わりに終了のゴングも鳴らしたるにゃす!」
相手は戦闘慣れしたプレイヤー。
小手先の攻防戦なんてしても、すぐにこちらのボロが出る。
ならばここは大金星に向けた攻め一択。
チュートリアルステージで使った、あの大技に賭けるしかない。
どうせここでしか使えない金なら、借金が増えることなど気にしなくていいのだ。
盛大にブチかましてやろう。
「ポチっとにゃ!」
左腕にハメ込まれたデバイスの液晶をスルスルっと操作し、技を選択する。
すると、両腕に装備しているガントレットが燃え盛り火の粉を飛ばし始めた。
登る蜃気楼が世界を歪め、地獄の業火が会場をさらにヒートアップさせていく。
『『ワァァァァ!!』』
灼熱の拳をカチ鳴らし、ボクサーのようにファイティングポーズを取ったら準備万端。
あとは勝手にリーチ内へと走って来るカモを鍋にしてやるだけだ。
「さぁ来いにゃぁ!!」
「なるほどね。 ユニークジョブだから、初めから一通りの技を持ってるのか。 盲点だったよ、でもね……!!」
走り出た人間がそう簡単に止まれるものではない。
攻撃の構えが見えていながらも、月兎の脚は動き続けている。
既に拳を交える距離に達した、今だ!
「喰らえ、必殺……爆¥・ゴールドラッシュにゃぁ!!」
勝利を掴む栄光の両拳が、真っ直ぐに月兎の懐へと伸びていく。
喧嘩慣れしていないにしては狙いが正確。
頭などの狙い難い部位を選ばなかったのが功を奏したのだろう。
まず間違いなくクリーンヒットを得られるはずだ。
「勝った……にゃ!!」
勝利を確信すると、思わず口角が吊り上がり目元が緩む。
ニタリと笑った口から、猫の八重歯が獲物を狙いキラリと光った。
「そういうのは口にすると負けフラグなんだよね。 レディ、ムーングラビティだ!!」
『了解しました、ゲット。 スキルを発動します』
まさに炎の拳が相手の土手っ腹を貫こうという、その瞬間。
まるで煙でも殴ったかのようにフワリと空を叩き、盛大に空ぶってしまった。
「な、なんにゃぁ!? どこいったのにゃ!!」
拳の感覚だけではない、本当に目の前から煙のように消えてしまった。
辺りを見渡してもどこにもいない。
リングにポツンとアタシだけが佇んでいる。
妙な孤独感と静寂、ただゴウゴウと拳の燃え盛る音だけがなっていた。
『『オオォォォォ!!』』
その静かなコロシアムに、なぜか割れんばかりの喝采が響く。
「にゃ……? もしかして、アタシが強すぎて勝っちゃったんにゃす?」
「残念ながらそうじゃないさ! なぜなら、僕はまだココにいるからね!」
声は上から聞こえる。
ハッとなって見上げると、10mは軽く跳び上がった月兎の姿があった。
地球に縛られない、月の重力のようなジャンプ力。
脱兎のごとく、拳のリーチから逃げられてしまった。
おまけに天井のライトを後光にしているせいで、やたらと神々しいシルエットなのが腹立つ。
『必殺技の利用料金が支払われます』
「にゃにゃんと!? もう技が終わったんにゃす!?」
頭に響くアナウンスで、ようやく手元の焔が消えていることに気が付いた。
ラッシュというだけあり、拳を振り続けないと終わってしまうのか。
隙の大きい、あまりにも大味な技だなこれ。
「おっと、余所見していていいのかな? ターゲット、レディ!!」
『ターゲットマーカー射出します』
頭上の月兎が左手を指鉄砲の形にすると、その指先から光の弾が放たれた。
「うにゃ!? しまったにゃす!!」
試合中だというのに、相手から目を離すべきではなかった。
弾丸のように最短直線距離で飛んで来るそれを避けるにはもう遅い。
思わず目を瞑って、腕を前に組み身体をすくめる。
反射的に動いた、こころばかしの防御態勢だ。
もっとも、技を駆使するこの世界でどれほどの意味があるのかは分からない。
「……なんにゃ? 全然なんともニャいんにゃが?」
ビクつきながらも薄らと目を開けるが、土煙ひとつ立てず平穏そのもの。
会場は依然として戦闘中のままだ。
様子を窺っていると、最初の位置に月兎が着地して戻って来る。
これでまた、互いの距離が開いてしまった。
「先に技を当てられたのは、僕のようだね。 視聴者はコチラへ傾いたみたいだよ、ほら」
『『ワァァァァ!!』』
万雷の拍手と共に、『応¥貨』が彼の元へと集まっていく。
しまった。
大技をミスした今、手元には金が無い。
「ちょ、ちょっと待てにゃ!! チョロっと避けて、痛くもない攻撃を当てただけなのにオカシイにゃろが!! 納得いかニャいから、こっちにも投げろにゃぁ!!」
「痛くない? はたしてそれはどうかな。 技を放つのに十分な金額も貯まったし、これからそれを証明してあげるよ」
月兎が不敵に笑うと、足元のコインが一つ残らず左腕のデバイスへと吸い込まれていった。
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