始まりの街に到着にゃ
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「うぅ……なんでこんニャことに……」
元々貨幣しか口にしていないスカンピッグは、胃の中の物を吐き出したところで不純物は無い。
それでも唾液でべっとりした大量の小銭が、辺り一面へと転がる大参事であった。
なんかもう、絵面が酷い。
「ふごぅ……ぷぇっぷ」
当の貯金豚の方は吐き疲れたのか、ぐったりと床に伏していた。
流石に食い気も引いたらしい。
グロッキーな表情で舌を出しながら目を回している。
だが、金を横取りする邪魔者が大人しくなった以上、この好機を逃す手は無い。
ぬめった粘液に包まれた硬貨を嫌々ながらも拾い集めることになったのだ。
「何が悲しくて、こんな物乞いみたいな情けニャい姿を晒さなきゃならんのにゃす……」
これだけ我慢し苦労しても、手に入るのは額の小さい僅かな小銭ばかり。
それをセコセコと集めている今この瞬間ですら、カメラに捉えられて笑いものになっているのだ。
乙女どころか、人間としての尊厳すらズタボロである。
『100円の声¥札が投げられました』
「んにゃ゛ぁぁ!! 下手な同情はいらねぇのにゃ!! うぅ……余計に情けなくニャってきたにゃす……」
こんなのでも金は金。
少しは服の足しにはなるだろう。
もっとも、視聴者的には服を復元しない方が得なため、滅多に金を投げる者は現れない。
このスケベどもめ!!
そんなに女の胸が見たいのか!!
もちろんコチラだってタダで見せる気はない。
片腕で器用に隠しながらも、金を拾い続けている。
「なにが最強の力にゃ、なにが無限のサイクルにゃ……これじゃ、人生大損じゃニャいか……」
零れそうになる涙をグッと堪えて、根気よく拾い続ける。
ようやく貯まったのか、胸周辺にデータの集積が始まった。
毛糸のセーターを高速早回ししているようなソレが終わると、ついに元の服装の姿が日の目を浴びる。
「きたー! やっと元通りにゃぁ!!」
『1000円のコメント付き声¥札が投げられました:おめ』
「うるせーにゃ! 今更おせーにゃよ!! 喧嘩売ってるんにゃか!?」
コメント機能なんてあったのか。
この浮遊するカメラに意思のようなものが在ると分かった途端、急に憎たらしくなってきた。
いつまでも画面の向こうで悦に入っていられると思うなよ!
絶対に見返してやるからな!!
「ええい、こうなりゃまずは金にゃ! 戦闘の度に毎回すっ裸にされてたら堪らニャいにゃす! エンドラゴン! どこいったんにゃ!」
チュートリアルを受けていないため、このVR世界のことは何も分からない。
頼りたくは無いが、あのクソトカゲからこの先のことを聞き出すしかないのだ。
あらかた小銭を拾って場も開けていたが、あのやたらと目立つ黄土色のトカゲは影も形も見当たらない。
どうしたものかとスカンピッグの方を見ると、ブタの口から尻尾のようなものが飛び出ていた。
「こんなところでサボってたんにゃか、さっさとアタシのために働けにゃす!」
むんずとソレを掴むと、一気に口の中から引きずり出した。
すると、唾液にまみれて焦燥したクソトカゲが逆さ吊りの状態でコチラを睨む。
『オエ~ップ……オレ様、自分にエンガチョしたいガネ……』
腹に貯まった金のプールで優雅にしているなんて、やはり強がりだったのか。
無駄に強情な奴め。
「お前のことはどうでもいいのにゃ。 とりあえず、この何もない原っぱから抜け出す方法を教えろにゃす! こんなところじゃ、何時まで経っても稼げニャいにゃ!」
『弱ってるんだから、耳元で喚くんじゃないガネ。 ほれ、これでいいカネ?』
クソトカゲが、その身体のわりは短い腕を振る。
するといつものようにデータの集積が始まり、扉のようなものが現れた。
また騙されるかもと一瞬心に浮かんだが、こんな場所にいるよりは何倍もマシだ。
ええいままよとばかりに意を決し、その扉を押し開ける。
瞬間、自身の周囲が白い光に包まれ視界を奪われていく。
「んにゃ!?」
次に目を開けた時、そこには見知らぬ近未来的な街並みの風景が広がっていた。
そよ風しか聞こえなかった音は、今や雑踏と喧騒に溢れる。
動くモノなど雑草しか無かった色も、空中に浮かぶ電子表示や色とりどりの店や人で目移りするほど。
『このゲーム、Yenの始まりの街だガネ。 周りにいるのはほとんどがお前を同じ初心者ばかりガネ』
尻尾を握っていたはずのクソトカゲは、いつの間にか左腕の端末に移っていた。
先程の閃光の瞬間に抜け出したのか。
「で、ここでニャにすれば手っ取り早く稼げるのにゃ?」
周囲を見渡し一通り目に収めていくが、どこもかしこも案内板だらけ。
コンテンツが充実しているのは良いが、初心者に優しくないなと初心者ながらに思ってしまう。
「やぁ! そこの可愛いお嬢さん! このゲームは初めてなのかな?」
キョロキョロしているのが目立ったのか、見知らぬ優男が軽快に話しかけて来た。
白いスーツっぽい衣装のキザったらしい見た目で趣味が悪そう。
「なんにゃお前?」
「ふふ、僕は足羽月兎。 このゲームでもそこそこ名の知れたプレイヤーさ、気軽に『ゲット』と呼んでほしい。 今は先人として、君のような初心者に手ほどきをするボランティアをしてあげているんだ」
やたらと仰々しい身振り手振りで自分を大きく見せようという、必死さが見ていて痛い。
見えている地雷なのは一目瞭然。
左腕の端末へ口を近づけ、小声でクソトカゲに相談してみる。
(実際のところはどうなのにゃ?)
(ありゃ、いわゆる出逢い厨ってやつカネ。 女子に優しくしてワンチャン狙ってる類のバカだガネ)
(にゃるほど、つまりカモにゃ……!!)
新天地、そこで思わぬ金ヅルにいきなり出逢えたようだ。
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