ほむんくるす
目が開かない。
「ふーむ、内蔵魔力はあまり…無いような…」
音は聞こえるが何も見えない。
「…というか…ゼロ…?」
「…ホムンクルスとしてありえるのか…?」
限りなく不穏な雑音は聞こえるのに何も見えないのだ。
超能力なら透視能力くらいは当然にあるべきではないだろうか。
「ホムンクルスは人間でいう血液の変わりが魔力だという程なのに…ゼロ…?」
「ではむしろ…何故形を保っていられるというのか…」
うーむ、見えない。
何かが足りないのか、パッションか。
「ぱっしょん!」
「むわっ!…またか…生きていて声は出るのに魔力は無いのか…どういう生体なのだ…?」
「ぱ、ぱ、ぱぁっしょーん!」
「ある程度の言語能力は既にあるようだが、いったい何時何処で何をダウンロードしたのやら…」
どうやら覚醒するにはパッションが足りないようだ。
まだしばらく、この不便な状況で耐えるしかないのか。
「やれやれだぜ…」
「…悪態をつきたいのは…こちらなのだが…」
「……」
「やはりこちらに対する反応はなし…自我は芽生えているが目は見えず声は聞こえていないのか?」
いえ、ばっちり聞こえています。
正直反応してもいいとは思うが、そうすると色々と面倒になりそうだ。
しばらくは様子見だな。
「…埒が明かないな…解剖する
「おはようお父さん、今日もいい天気ですね」
「…はぁ、そうだろうと思ったよ」
まぁ正直、言葉に反応したとしか思えない態度を何度かしているしな。
解剖が許されるのは両生類までだ。
…ホムンクルスは両生類より上の存在なのだろうか?
試験管で増殖可能な生物の貴重性を教えてください。
「…それで、君は何処の誰なんだい?」
「いやぁ、実はその辺りが全く分からないのですよ、これが」
何故か光る人から超能力をもらった時以外の記憶がない。
これはあれか、それ以外の記憶が謎の物凄い衝撃で失われたのだろうか。
謎のというか思い切り投げ捨てられてここにぶち当たった衝撃なわけだが。
誰だよ、俺をここに投げ捨てるなどという神をも恐れぬ行為をやりおったやつは。
「ふむ、ホムンクルス発現時の記憶消去は実施されたという事か」
「ほわい?」
「通常ホムンクルスは能力が発現する時にそれまでにあった記憶が消去される」
「ほほう?」
「前に話したと思うが、我々のホムンクルス製造は…転生の道と言われる通路を経過中の魂が転がり落ちた存在を拾い上げて作り出しているんだ」
…この人の独り言で聞いた悲しい存在の事だな。
まさかこの俺が輝かしいロードを上っている最中に道を踏み外した存在だったとは。
あり得るのか?
この俺が道を踏み外すなんて。
「転生後の世界ではチカラが足りない存在を廃棄しているという説がある」
「世知辛いな異世界」
もっと優しい世界でやってしまいたかった。
俺はただ、適当にのんびり輝かしい未来を生きたい、ただそれだけなのに。
「…君はチカラが少ない割に知能は高いようだな…」
「俺のチカラは分かる人にしか分からない類のアレだからな」
きっとな!
光る人なら以下略だ。
「とりあえず、目が見えるようにして欲しい」
「…通常なら、あと一か月はかかるだろう」
「まじか、ホムンクルスならもっと短縮できるんじゃないのか」
「…残念ながら、成長を短縮できる装置は永遠に失われた…」
「なるほど、それは謎の破壊行為に恨みをぶつけるしかないな」
「…まぁ、君がやったとしか思えないがね」
不可抗力である。
「仕方ないな、それじゃ目が見えるようになるまで、この世界の事を話してもらえるか?」
「…そうだな、ほとんどの装置が壊れしまったし…できることはもはや何もないか…」
「いやいや、色々と諦めるにはまだ早いだろ」
「……」
「俺は、世界を変革するチカラを持っているんだ」
「…それにしては…測定数値があまりに低いのだが?」
「世界を変革するほどのチカラが今の技術で測定できる程度の物だと?」
チートはそういった装置を破壊するか逆に判定できないのがセオリーだ。
どうかそうであって欲しい。
「俺の超能力が伝説を作る、そう信じている」
「…まぁ、今はなんにせよ、話をするくらいしかできる事はないが」
「そうだな、教えて欲しい」
この世界の事を。
それに、俺がここへ来た理由があるに違いない。
今は記憶にないが、何か、約束をしているはずだ。
俺がここに来た、選ばれたはずの何かを。
「超能力は、伊達じゃない」
「君のその、超チカラ?に対する信頼感は異常だな」
「もはやそれしかないといっても過言ではないからな」
そうであってくれと言うしかないだろう?
もうただの念動力でもいいくらいだ。
赤く光るだけというのは、いくらなんでも無しだろう?
頼むぜ光る人。
「…とりあえず、この世界の事を話そう」
「なるはやで頼むぜ」
「…本来ならここにあった装置で一括ダウンロード可能な事だったのだがな…」
「不可抗力です」
俺は悪くないはずだ。
全ては世界が悪い、何か偉い人もそのような事を言っているし。