小さなアリア
「それじゃ、貴方のカスのようなチカラに私のチカラを少し分けてあげるわ」
「カスはやめてください」
カスにもそれなりの誇りってやつがあるんだ。
…いやカスじゃないが。
「貴方のその、超チカラ?とかいう意味不明なアレに青の称号を授けましょう」
「ほほう、つまり炎に加えて氷の要素が加わってパッション!って感じになるんだな」
「ならないわ」
「そうか…じゃあどうなるんだ?」
「そうね、青の称号は…まずエネルギーの消耗が減少するわ」
「ふむ、省エネってことか」
10回使えるパイロ的なアレが20回使えようになるとか。
「そこまでではないわ、よくて11回とか12回…かしらね」
「良くて2割増しか…まぁ…悪くはないか…」
「それでもかなり凄いのよ、普通は無理なのよ?」
「ああ、ありがたく貰っておくよ」
ただ飯より旨い物はないからな。
むろん高額なおごりであればあるほど良いのは間違いないが。
「あとは…青の領域では威力が向上するわ」
「なるほど、よくある属性的なやつだな」
青いマスは水属性の攻撃力が150%になるんだ。
…炎の俺には無意味では?
「そこまでではないわ、良くて110から120よ」
「だよな」
知ってた。
しかも効果がない可能性すらありそうだ。
「最後なんだけど、これはあなたには言わないでおくわ」
「ほほう、伏線…ってやつだな」
結局回収されないまま何だったんだとなるやつだな。
出来れば俺が元の世界に戻れる何かであってほしい。
不法投棄を、燃やしたい。
「伝えることは、それくらいかしらね」
「ふむ、きっと俺の超能力がすべて上手くやってくれるさ」
「何かしら、あなたのその超チカラへの信頼感は…」
「超能力は果てしないからな」
知らないトビラだって無理やり開いてしまう程だ。
超能力は伊達じゃない。
「…やっぱりチカラだけ回収して、次の可能性にかけた方が…」
「おっと、そんな謎の可能性にかけられるのはごめんだな」
しかも意外と次のチカラの方が凄かったりするからな、なろーってやつは。
まったく困ったセカイだぜ。
「それじゃ、送ってくれるか、青い人」
「青い人はやめなさい、私はアリアよ」
「あはん的なやつか、やはり竜の子問答か」
「違うと思うわ」
きっと次は、目覚めなさい私のかわいいボウヤーだぜ。
俺は知ってるんだ。
「俺の知っているパターンからすると、次は赤子からスタートってやつか?」
「そのパターンがなにかわからないけれど、あなたは人造人間として生まれるわ」
「ほわっつ?」
いきなりホムンクルスかよ。
テンション上がってきたな。
「私の世界はヒトという種族が滅びかけた後から数百年たった状況なの」
「おかしいって、始まりの世界にしてはハードモードすぎるって」
「そして残された遺伝子の復元に失敗しながらも無理やり生命体を作り続けているわ」
「どう考えてもデストピアまっしぐらなわけだが」
「その中で、たまたま成功例として生まれてくるのがあなたのようなチカラを持った存在なの」
「救世主爆誕伝説」
異世界は世知辛いぜ。
出来れば適当な貴族の下に生まれてやっちゃいましたがよかった。
「きっと私の世界はあなたにはつまらないんだろうけれど…」
「そんなことはないさ、むしろ可能性すら感じるぜ」
超能力は、世界を変革するチカラだからな。
旧世界に残された素敵なサムシングを見つけ出して時代をひっくり返すんだぜ。
「これはもう、わくわくしてきたな」
「…そう、それはちょっと…頼もしいわね」
「ああ、きっとこれは…貴方が忘れられた記憶を取り戻す伝説なんだろうな」
「…何かしらそれは…」
「俺は知っているんだ」
世界を救いたかった女神の祈りは、今も続いている…か。
あれだな、何とかオブ何やら的なやつだな。
「…何か適当にそれっぽいことを言ってごまかそうとする生き物によく似ているわ…」
「そういうニュアンスも嫌いじゃないぜ」
「…もう深く考えないことにするわ」
「ああ、パッションを信じろ」
だいたいパッションとファッションで世界は回っているらしいぞ。
「…私はこれからもチカラの回収を続けるわ」
「そうか、出来れば意思のあるやつにはどうするかを聞いて欲しいがな」
「…そうね、あなたのような意思の強いチカラには、話を聞いてみるわ…」
「ああ、きっとそいつは何かやってくれると思うぜ」
それがもしなろらーだったら必ず力になるはずだ。
チカラはどうかわからないが…
「…それじゃ、私の世界を…小さなアリアを助けてあげて…」
「…ああ、まかせろ」
俺の超能力が伝説なら、世界くらい救ってみせるさ。
「それじゃ…」
ガッシ
俺は青いアリアにわしづかみにされた。
「ん-」
そのまま大きく振りかぶって…
「えーい!」
ズギュゥン
遠投よろしく光の彼方へ投げ飛ばされた。
「じゃーね、向こうで頑張ってね」
「雑っ!」
そこは召喚的な何かで上手いことやってくれるべきじゃないのか!
せっかくの感動のアレが台無しだ。
「あぁ、でも、流れる星のように光の中で赤く輝きながら炎の尾を伸ばす俺の姿は…」
まるで炎の矢のようで、俺の心はそれなりに満たされた。