まさしくん
「…よし、それじゃチカラはいただくわね」
「ちょっと待ってみようか」
「…無駄な時間をかけるより、さっさと引っこ抜いて次に向かうべきね」
「思い切りの良さを発揮するのは別の機会にして欲しい」
まだ可能性の理由を説明していないのだ。
「…じゃあ何?何が貴方にあるというの?」
「俺の名はまさしという」
「…それで?」
「まさしは正しいと書いて、まさしという」
「…だから?」
「だから、だ」
『ライトニングコンバージョーーーン』
「うおぉぉぉーーーーーー」
チカラが!
チカラが奪われるぅーーーーー!
「薄汚くも限りなく無能に近いチカラのような何かよ…私の意志をもって…
「待って待って待ってくださいお願いしますまだですまだ間に合います」
言い過ぎでは。
「…何よもう、無駄な時間をかける暇はないのよ」
「わかった、少なくとも俺は他のチカラと違う事だけは間違いないはずなんだ」
「なんでよ」
「光る人によれば、俺は誰かに選ばれたとかいう説があるんだ」
選ばれしモノは大変だぜ、やれやれだぜ。
「誰が呼んだのよ、貴方程度のチカラを」
「…選ばれるには理由があるんだぜ?」
「何が…」
「それは例えば…他にはない何らかの可能性が…
「可能性は、もういい」
「…例えば発想の転換だ」
「転換?」
「ひっくりかえしたり…折り曲げてみたりするやつだ」
なるほどー
「…つまり?」
「俺のチカラは感じる限りでは些細な物かもしれないが」
それは、ひどく小さくありふれた小石のような物かもしれないが。
小さくて頼りなく、どこにでも転がっているような物に見えるとしても。
「そんな小さな執念こそが、運命を変えるきっかけになる事があっても…いいと思わないか」
「…靴の中に入った小石は思ったよりもうっとうしいという事かしら…」
違います。
「まぁ、何だ…捨てても良い程度だったはずの物が、思いのほか上手く行ってしまうなんて…」
なろーではよくある話だろう?
「何よその、なろーって」
「なろーを知る者はなろーになる、という伝説だ」
チートをください。
出来れば無限に生まれる黄金をください。
「つまり、俺はそうだな…青い人が考えもしなかった何かで、その世界を救ったり救わなかったりするわけだ」
「…それならせめて救いなさいよ…」
「ああそうだな、きっと俺は…そうだな、その為にここに来たんだ」
ここで青い人に釣られて、こう言う為に呼ばれたんだ。
「俺が貴方の世界を、救ってしまっても構わないだろう?」
「………」
「なに、きっとそれはここから先の異世界全てを救う事より簡単だ」
「…言ってくれるじゃない」
「俺はきっと、そんな、思いもつかないふわっとした何かを秘めた誰か、だ…といいな」
「誰なのよ」
それは俺にもわからない。
わからないが、わからないからこそ。
「俺は、きっと、貴方に何かができると思うよ」
…まさしくんは、やっぱり、まさしくんだね…
…まさしはまさしくまさしくんだからね…
…まさしまさしく…
「それが超能力を信じた俺の…たった一つの伝説だからね」
「何もかもがわからないわ…」
「じゃぁあれだ、約束をしよう」
「…約束?」
「俺は誰かに選ばれたのかもしれないが、あえて貴方の世界へいこう」
「………」
「俺に与えられた何らかの可能性を、貴方の世界で示そう」
せめて俺を呼ぶのなら、俺の許可を得てから呼んでください、と。
そうでないなら拉致と変わらないのです。
「そうしたら、いまだ貴方の世界を救ってくれない何かに対してのうっぷんも晴れるんじゃないか?」
「…そう…かしら…?」
「言ってやればいいさ、私の世界はお前が思うよりもかけがえのない物だ、って」
「…あなたにそんなことができるの?」
「できるさ」
超能力は、無限大だからな。
俺は俺の可能性と超能力の可能性を合わせた奇跡とか何かを信じている。
「それによく言うだろう?」
「…何を?」
「やればできる、って」
「…それは違うと思うわ」
小さい頃のご近所ではそれはもう評判でした。
だいたい中学1年生辺りで失われる可能性でした。
「もしかしたら無駄になるかもしれないが、いいじゃないか、どうせ微かなチカラなんだとしたら」
「…そうね、どうせ今まで何度か試しても上手く行った事はないんだし…」
「それはそれで厳しいが」
可能性は無いのか。
無理だったとしてもできれば穏やかに一生を終えたいのだが。
「私の世界でチカラを残したまま、穏やかに一生を終えた者はいないわ」
「厳しすぎだろ青い人の世界」
「だから…せめて、世界を救えなかったとしても…」
「…そうだな、俺は貴方の世界で初めて穏やかに一生を終えた者となってみせよう」
ついでに救ってしまっても…
「ええ…構わないわ…できるなら…」
「超能力を信じることだ」
それは、世界を変革するチカラだ。