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へたれダンマス奮闘す  作者: 南雲司
9/18

ワルキューレの騎行

はい、白状します。これが書きたかっただけです。

[8の字宙返り]

 最初の飛行に(いささ)か問題はあったが、その後のアサミの飛行訓練は順調に進んだ。

「今のが8の字宙返りだ、やってみるか?」

「はい!」

 8の字宙返りとは、

 正円を縦に二つ繋げた軌跡を辿る、

 浮力を切ってインメルマンを決めた後、

 強引に浮力を最大にして上昇、

 宙返りを決め、

 即座にロールを打って背面急降下からの急旋回で、

 最後の円弧を完成させる荒業で、

 浮力の加減オンオフ、

 出力の上げ下げ、

 当て舵の加減、

 全てに精度を要求される、

 ベテランでもきれいに回ることが困難な超上級の技だ。


 翼の揚力だけで飛ぶ形式の航空機には不可能とされている。

 案の定、頂点では尖りすぎ、最下部では十メートル程下がりすぎ、右へ数メートルずれ、方向も数度狂っていた。

 だがミーティアはご満悦だ。

「初めてにしては上出来だ、精進しろよ」


 一般的なベテランと同程度の出来であったからである。

 てか、そんなの練習生にやらすな。


 一週間後のアサミの単独飛行が決まり、マリコもその翌日となった。アサミのお陰で目立たないが、マリコも地味に天才であるらしかった。

 他の候補生はまだ目処がたっていない。


[特殊戦部隊]

 陸戦隊の精鋭、一個分隊が森に到着した。階級は上等兵から上等兵曹まで。森林戦教育を受ける為の来森で、教育が終われば、兵は三曹に曹は一階級づつ昇進する事に為っている。

 但し教育中は一律、兵長として扱われ、候補生と呼ばれる。

 教官は森人、通訳が付く。隠蔽も教える都合から、候補生達は魔力の高い者を中心に選抜された。


[薔薇の君とおまけ]

 この日紫の薔薇小隊ワルキューレプラトーンに二人の編入配属があった。内一人は初等飛行課程を終える迄の臨時でなんと男性だった(棒)

 尤もこの小隊(プラトーン)の初等では8の字宙返りを教えるのだから、果たして任期中に課程を終えることが出来るかは、甚だ疑問ではある。

 女所帯と言う補正もあって、美少年ぶりが三割方上がった虎治、そう虎治なのだ、にキャーと言う嬌声が上がらなかったのは、(ひとえ)メデューサの眼(教官の一睨み)のおかげである。

 二十二対の白けた眼差し(まなざし)もあったが。

「マスターなに考えてるか、まじわかんねっす」


 もう一人は、こう自己紹介した。

「サスケラ=イーバラクだ、宜しく頼む」

 風貌に似つかわしいイケメンな語り口の美少女に、今度は[メデューサの眼]の効果も効かず、盛大などよめきが起こった。

 事情を知らない二十二名プラス虎治は置き去りである。


 どよめきの理由を掻い摘(かいつ)まんで説明すると、その名は先の王都陥落の折り、死んだとも辛くも逃げ延び身を隠したとも噂される、姫太子の名前だつたのだ。

 ちなみに太子が女性である事は秘密にされていたが、国民に知らぬ者はいなかったと言うお粗末。

「殿下!」

 感極まって、涙声で叫ぶ者がいた。

「もう王族ではないのだ、殿下は勘弁してくれ」

 困った様な顔もイケメンだ。


[新たな関わり]

 騎士団の飛空艇の機体は、新樹の森で生産されていた。ある意味仮想敵でもある騎士団の手伝いをする事にもなるのだが、作業している森人達は頓着していない。

 隠蔽も付与されず、真空圧縮強化もないこの機体では、森人空軍に抗すべくもないのだ。それよりも、ただでさえ乏しい騎士団の資金を合法的に(むし)り取るのだ、痛快ではないか。

 ただし、手抜きは一切しない。沽券に関わる。


 森人と騎士団に新たな関わりが出来た。副団長の理想に近付いたのかも知れない。


[初陣?]

「飛竜?」

 サルー司令の許へ急報が届いたのは翌年の春、正式に神樹の森兵学校が発足し新入生の受け入れを始めたばかりの頃であった。

 すわっ、またぞろ勇者か、とシャオに訊けば…。

「神樹は感知していない、恐らく翼竜かワイバーン」

 しかし、その程度なら空軍に急報が入るだろうか。

「特異な進化をした個体かもしれない」

 取り敢えず、偵察だな、よし、久々に…あいたっ、何をするシャオ。

「たまには、部下に手柄を譲るべき」

「それ、うちにお願い」

 たまたま居合わせたミーティアが小隊(プラトーン)の訓練に使いたいと言って来た。

 大丈夫か?実戦になるかもしれないぞ?

「司令の初陣より、遥かに訓練を積んでいると指摘」

 うん、俺より模擬戦強いしな。いっか。

「紫の薔薇小隊に告げる。未知の脅威を確認、可能ならこれを排除せよ」

「排除はやりすぎ」

 でもさシャオ、実戦に勝る訓練は無いぜ。

「初陣は軽めにすべき、誰もがサルー並みの悪運とは限らない」

 まあ、そうだな、優秀な兵ほど初陣で死ぬとかも言うしな。

 命令撤回って、あれ?ミーティアどこいった?


[ワルキューレの騎行]

 脱兎のごとく隊舎に帰り着いたメデューサ(鬼教官)は非常呼集を掛けた。時間との勝負だ、司令がシャオに屈する前に出撃するぞ。あちゃ、明日は休養日か、使えるの残っていてくれよ。


 一番機は小隊長と第一分隊長を兼ねる。第二分隊長は二番機ではなく三番機だ。なので編成はこうなった。

「一番機は私、二番機虎治、三番機アサミ、四番機太子、即座に編隊を組め」

「空中で編成か流石は空軍、実戦的だが太子と言うのは止めてくれ」

「サスケラちゃん敬語使わないと頭叩かれるっすよ」

「頭を叩かれるのはお前だ、虎治、私語は慎め」

「教官、臨時実戦訓練の内容を聴いてません」

「いい質問だ。これから、飛竜に誤認されていると思わしい竜種を討伐する」

 虎治とアサミの脳内でワーグナーの名曲が高らかに鳴り響いた。


 

マリコ達は里帰りしてます。なんでもダンジョンでコスプレが流行っているとか。

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