アサミインザスカイ
二千文字では足りないと実感
[版権]
森人の丸太と言えば個人個人でカスタマイズする所以で、形も性能も千差万別だと思っていたのだが、木馬型はほぼ同じだ。
魔素の経路でもある木目との干渉を最低限にするためか、鞍座の位置や脚の取り付け噴進器の設置法が微妙に違うが、森人製である事を考えれば、誤差の範囲だ。
全く同じ作りで良い筈のエルヴンボウにしたって、一目で誰の物か分かるようにしたがる森人にしては、変だ。
そこのところをシャオに聞いてみた。
「空軍がターゲットの交易品」
まじか。
てか、即日で十二機納品されたぞ、いくつ作ったんだ?
「三十機と聴いている」
うわっ三十機まで吹っ掛けられたのか。
「オリジナルはミーティア用に私が作った結婚祝い」
なんと、シャオに頼めばただだった。
ちなみに、ミーティアとは、通訳嬢改め通訳夫人のファーストネームである。
「それはない。版権はエルフにある。私は改良しただけ」
シャオは筋を通す女だった。
てか、版権てなんだよ、本じゃねぇし。
[混迷]
「いいなー」虎治は指を咥えていた。
女子教練小隊に新型の飛空艇が届いて、降下訓練の成績の良い順から空中作業の訓練が始まったのだ。
「教官、俺はいつ乗れるの?」
「いや、兵科が違うであります。あちらは航空士官科」
「えー、ずるいー」
相変わらずのお子様だった。そもそも、ダンジョンマスターが戦闘機に乗って何をしようと言うのか。
しかし、このキャンプは虎治の為にセッティングされたものが、無節操に拡がったものだ。始めから参加していて経緯をある程度飲み込んでいる兵曹には、突き放して良いものか判断が付きかねた。
シャオに相談すれば良いのだが、あまりに恐れ多く、気安いサルー指令に相談したのがその後の混迷の緒となった。
「いいんじゃね?」
能天気さで、虎治と良く似た資質を持つサルー司令は、遠話函の向こうで無責任にもそう言い放ったのである。
[ペガスス]
木馬型の操作性の良さは、鞍の前に突き出た操縦桿と鐙式のフットペダルだ。恐怖心から体幹がガチガチになってはびくりとも動かない丸太を、むしろそれをベルトで固定して、手足で操作するようにしたら、子供でも操縦できるようになったとさ。
ピーキーな機動では男性向けには負けるけれどバランスを崩さず綺麗に回れるので、格闘戦でも遜色ないそうだ。
件のミーティア女史が名誉森人になったのも、結婚したからではなく、空戦大会で初出場で撃墜判定五機の大戦果を挙げたからだそうだ。
全然一般的な女性枠に入らないじゃないか。
そういや、インメルマンターンやバレルロールが得意と言っていたな。
気球だとどちらも浮力が邪魔できれいに回れない技だ。
つまり、凄腕。
そのミーティア女史に空技教官をお願いしたそうだ。コミュニケーション大丈夫か?
木馬型丸太気球を制式配備する運びとなり、天馬型飛空艇と呼ぶことになった。もう飛空艇じゃないじゃん、との尤もな意見もでたが適当な呼び名も見当たらず、これに決まった。
いま迄の飛空艇とは操作性がガラリと変わったため、むしろ、まっさらな教練小隊の乗機にするのが効果的ではとの意見が採用され、ミーティアの出番となった。
そうだったのか。
「会議にはサルーもいた、なぜ知らない」「すまん、寝てた」
[混迷(中身)]
「降下訓練を終了する事、これは大前提であります」
理由は虎治でも分かる。否やはない。いままでと打って変わった虎治の訓練態度に教官達は慌てた。
これは思ったより早く終了するかもしれない。まだ空技カリキュラムの教官の目処が立ってないのだ。機体も確保しなければならないだろうが、その辺りの事はさっぱり見当も付かない。
こちとら陸戦屋だ。
困った挙げ句、割りと気安くしている通訳嬢改め通訳夫人のミーティア女史に相談した。空技教官をしているくらいだから、諸々詳しいだろうと思ったのだ。まさか、一月程前まで飛空艇に触った事も無かったとは、夢にも思わない。
軍属としても兵長待遇で階級的にも下なのだが、なぜか偉そうで兵曹待遇なのかと錯覚していたのも誤解に拍車を掛けた。
「いいよ、終わったら連れておいで」
ミーティアはミーティアで軍の管理機構のような物には無頓着だ。なにしろ一介の通訳嬢改め通訳夫人にすぎない。先生の宛のない可哀想な生徒を一人拾うくらいの感覚だ。
虎治の年齢的な物も味方した。ショタには少しトウが立ってはいるが、美少年を嫌いなご婦人と言うのはいない。虎治はギリギリ美少年の範疇に入らない事もなかった。
斯くて紫の薔薇小隊、最初にして最大の危機が訪れる事が決まった。まあ、シャオから見てだけど。作者としてはへたれオーバーショタの虎治に何が出来るのか些か疑問。(メタ)
[アサミインザスカイ]
最初は地上滑走訓練から始まる。OL時代に有給を使って何度もバンジーを跳んだ経験が物を言ったか、一番に降下訓練を抜けたアサミが前席、教官のミーティアが後席に座っている。
あれ?OL時代?
丸太にしては珍しい複座型だが、森人に手取り足取り教えると言う発想はなく、空軍工厰で取り急ぎでっち上げた物である。空中作業を修得出来れば良いので、性能はペラ型連絡艇に劣る、安全性と癖のなさが自慢の名機とは工厰長の言。初等教育用にはそれこそが肝なのだ。
「力を入れない、軽く握るだけにして」
前席と後席の操縦系統は連動している。
練習生の操縦に教官がいつでも介入出来る様にだが、
最初期には、教官の操縦をトレースする事で感覚を覚えて貰う。
なので墜落の心配のない地上滑走で教官の邪魔をしない様に、
力を抜く癖を徹底的に付ける。
飽きる迄続ける事と要綱には書いてある。
「それじゃちょっと飛んでみる」
教官が先に飽きてしまった。
「力抜け、このバカちんが!」
はい、そうなりました。
航空士官科と言うのはありません。候補生と言うか練習生の枠からはみ出しまくりの虎治に兵曹もテンパりぎみです。