墜ちていく姫君
なかなか進みません。おかしいな掘削始まってる筈なのに
[乱流]
「ムチャ揺れるし」
マリコはトイレにいくのに壁に沿って付いているバーから手を離せない。真っ直ぐ歩けないのだ。
虎治はベッドに腹這いになって酔い止めが効くのを待っている。
シャオは木目とリンクしているだけだが、あるいはリンクしているからこそ、転びまくっていた。今回はヴァルハラではなくて工作艦の方に乗っていた。
「まいったな、土台の底がこんなに気流が悪いとは」
普通に考えれば、あり得ない状況だ。城が宙に浮いているだけなら、風に流される。風に流されれば、風と同じ速度になる。詰まり、無風になる筈なのだ。
「浮力を産み出している魔力の乱流が大気を描き乱していると推定」
何度目かの転倒から、壁のバーに取り付くのに成功した木目シャオが言った。
「シャオの真空と、同じ原理じゃねえのか?」
「根本的に違うと思われる。真空で二万メートルで安定させるのは効率が悪すぎる」
「まっ、やる事は同じだがな」
なぜか乗っている、工廠長は矢継ぎ早に指示を出す。
工作艦の上部には衝突回避のポールが数本付き立っていた。しかしこの乱流で役に立つのだろうか。ほぼ全員が訝っていた。
[留守番]
サルーは落ち着かない。重要な作戦で留守番は始めてだ。しかし上に上がってもやることが無いのだ。鷲型は上がれないし、艦橋にいても専門外のトラブルにも人形のように突っ立ってる事しか出来ないだろう。
空戦の指揮も城の底に張り付いたままでは、状況の確認のしようもないし、そもそも遠話が底面から放散される魔素に阻害されるのでは指揮の取りようがない。なので、軍府の司令官室でウロウログルクル動き回っている。
傍受オンにしてある、遠話缶から興奮した森人語が発せられる。シャオの声はない。
[カマーンチュ]
カマーンチュは善戦していた。クーグンから貰った弓無しでも射れる太矢を風竜の脇腹に突き立ててやった。魔法由来ではないからか手傷を負わせる事が出来た。
だが浅い。これが十本もあればとカマーンチュは思う。立て続けに同じところに当ててやれば内蔵まで通る筈だ。
だが小さい。カマーンチュの丸太は参加した物の中でも一等小振りで、三本しか太矢を載せられなかった。
当てた事で機が緩んだのか、別の風竜がブレスを吐こうとしているのに気付くのが遅れた。周りから怒号が飛ぶ。
「ヌーシチョーガ!!(回避しろ!!)」
「トットイ!クルットミ!!(馬鹿野郎!周りを良く見ろ)」
[城の底]
何本かの支柱を折った後、シャオが即興で真空気室を緩衝材代わりに工作艦の上部に設置して、漸く目処が付いた。
十数本のアンカーを打ち込みワイヤーを巻き取る。
風の様子を伺いながら、ソロリソロリと巻き取る。
気室が密着した。
徐々に収まってきていた揺れがほぼ収まった。
残ったのは気室の弾性分の揺れだ問題ない。
後は、気室が安定している間に支柱を取り付け直せば良い。
歓声が上がった。
ワルキューレは哨戒任務に出る。
見つからぬ様に隠蔽を掛ける。
これだけ魔素が乱れていれば察知される事はない。
乱流に巻き込まれ、底部に叩き付けられぬ様、下げ舵一杯慣性バイアスも下方最大で飛び出す。
「もたもたしたら、舵とバイアスが効くまでに叩き付けられる。艦首、交わしたら出力最大だ」
一個分隊づつ、まずミーティアと虎治が飛び出した。
帰艦が問題だが、ミーティアは心配していない。
それだけの腕を持つ者を連れて来た自信がある。
「ザあザザすかザ」
飛び出して直ぐに、虎治が何かを言って来たが雑音が酷くて聞き取れない。しかし、直ぐに虎治の言おうとした物を、ミーティアは見付けた。
墜落していく丸太だ。
と、虎治が全速でその丸太に追随しようとしている。
「やめろ!ばか!風竜にみつかるぞ!」
しかし、声は届かない。
[コア]
コアは、木目人形の中継を借りて虎治をモニターしていた。もっと早くこの作戦を知っていたら、人形を何体か割り込ませる事が出来たのだ。
例えば危険な処へ送り出すのに便利との宣伝も出来た。そうなればもっと立体的なモニターが出来ただろう。艦を飛び出したのでモニターが切れた、と思いきや直ぐに繋がった。ダンジョンの管理領域に入ったのだ。
「やっほー、美少女発見」
「何をしているのですか?」
工作艦の護衛任務では無かったのか?
「あ、コア、エルフの美少女が墜落中なんで、レスキュー」
周囲を検索して、それらしき物を見付ける。落下速度は意外に小さい。気室が幾分か生きているのだろう。慣性コントロールが出来ていないのは、魔石が砕けたか。速度が小さいとは言っても、このままでは地表に激突する。
乗員は助からない。
「十分追い付けますが、どうやって助けるのです?」
「飛び移って、操縦捍をグイッと」
「森人の丸太気球には操縦捍はありませんよ」
「まじ?」
「お手伝い致しますから、接近してください。出来れば密着するぐらいに」
考え無しの虎治に、なぜか楽しいと感じているコアだった。
念話は遠話と違って割りと届きます。結節点の検索網を利用しているからです。




