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へたれダンマス奮闘す  作者: 南雲司
10/18

薔薇の初陣

ワルキューレと言う薔薇の品種の色はピンクに近い薄紫です。が、[ピンクに近い薄紫の薔薇小隊]では流石に締まりませんので、強引に紫と言う事にしました。異世界じゃこの色なんだよ!論法の発動です。

[ま、いいか]

「え?出撃()ちゃった?」

 隊舎に遠話を繋げると、緊急訓練とか言う何だか良く分からない名目で出撃した後だった。

 ま、いいか、天馬型なら大抵の敵から鼻唄で離脱できるし…。遠話を切ると同時に、遠話缶が接続要請音を鳴らした。どこからだ?

「大至急言うことで、書類無しで搭載したので早急に送付願います」

 工廠の兵器管理課からだった。

「確認するけど、何を積んだの?」

「一機あたり対大型竜種用自立ボルト三本」

 あー、追尾が付与されてる奴か、良い選択だな。

 ミーティア空軍にスカウトしたいな。

 階級はどうするかな。

 シャオと違って義塾出てないから士官では採用できないのか。

 戦争中なら曹長で採って戦時任官って手もあるんだが。


[改修]

 アサミは、最初天馬型に乗った時「なんか卑猥」と呟いた。跨がった足の間から、操縦桿が突き出ているのだ。乗る時もその操縦桿が邪魔で余計に大きく足を振り上げなければならなかったのも、卑猥な感じがした。

 複座の練習機などは、先に前席に乗って頭を蹴られた事もあった。罰とかではなく、教官の振り上げた足が当たっただけの事ではあった。爾来、ミーティアが乗る迄機体の側で待つ事にしていたが、「セレブ待ちの運転手かよ」感がなんとも間抜けな気がしたものだ。

 それが、二月(ふたつき)程前に大いに改善された。鞍座の前が大きく抉れ足を振り上げる必要がなくなった。鞍座の側面も左右が狭まり跨がると言うよりは座る感じに近くなった。また狭まった分左右の足元に床が出来、鐙型のペダルはその床上に設置され、使いやすくなった。

「スクーターみたい」

 新型を初めて見た時のアサミの感想である。なお、この改造の所以でバラバラになった魔素経路を繋げる為に被服したミスリル線が結構使われているらしい。


[虎治]

 未確認竜種は剣山の方角から飛来し、ゴブリン村上空を数度旋回した後帰って行ったと言う。

「ゴブリン村で情報収集する、第二分隊は上空警戒に当たれ」

 一度馴染んでしまえば、ゴブリンは気の良い連中だった。10日に一度の休暇には、コアの、眷族の状態を常に把握するのはマスターの務めとの、ブレードをちらつかせながらの、強い薦めで顔を出すようにしたのだが、なぜか仔ゴブリン達に懐かれた。

 帰ろうとすると、泣いてしがみつくのだ。

「能天気のレベルが同程度だからでしょう」コアはそう評した。

「俺、代わって貰って良いですかね、俺が降りると長くなりそうなんで」

「そうなのか?サスケラ、虎治と交代だ」

 虎治は別に嫌がった分けではない。休暇前日は、今度はどんな遊具を持っていこうかと算段する程で、寧ろ虎治の方こそ懐いているとも言える。

 任務を優先する思考は、ここ半年の虎治の成長の証かもしれない。


[アサミ]

 少し気まずい、アサミはそう感じている。何しろマスターを二番機(四番機)に置いているのだ。空軍では階級に関わらず優秀な者が番機を取る(隊長機になる)のは普通の事だが、アサミはまだその事を知らない。

 それに一度も休暇に帰っていない。その事をどう思っているのか、あるいは気付いているのか、左後方に付かれていれば、気になりもする。

「ねえねえアサミ、なんで帰らないの?」

 うわっ、直球で来た。と言うか虎治は直球しか持っていない。

「任務優先ですので」

 頭の中で、じゃ他の[嫁]達はどうなの、と突っ込みが入る。いかん、テンパりぎみだ。

「ふーん、アサミ、ダンジョンの代表だもんね」

 納得してくれたようだ。

「でも、欲求不満にならない?」来た、閨の事だ。

「訓練に集中していれば、欲求不満になる暇などありません」

 これは、嘘だ。ばれない事を祈る。いつだって欲求不満だ。虎治が恋しくならない夜はない。だが粗雑(ぞんざい)に扱われるのが分かっていて、身を委ねたいと思う程アサミのプライドは安くない。

「へー、アサミって凄いね。俺、全然集中足りてないんだな」

 虎治は色々な意味で大物らしい。


[ゴブリン村]

 ゴブリン語で構わないと言ったら、ゴブ村長は、息を堰切(せきき)った様に語りだした。情報量が多い。イバーラク語では言いたい事の一割も言えなかったのだろう。

 それでもキチンと要点を伝えられるのは、この村長に語学の才能があるのかもしれない。ゴブリン語で感謝の意を伝えサスケラに声を掛けた。

「サスケラ、上がるぞ…、何をしている?」

 サスケラは虎治の代わりに仔ゴブリンの玩具(おもちゃ)になっていた。順当な代役であったようだ。


[回避しろ!]

 情報収集が早く終わった事で、予定していた交代での休憩は省略することにした。と言うより、仔ゴブリンが大敵だ。休憩すれば却って疲労しかねない。

「未確認竜種の正体が概ね判明した」

「マジっすか」

「だまって聴け」

「恐らく、風竜、大型一頭小型五頭、無駄弾を撃つな、強敵だ」

 巣があると(おぼ)しき東の尾根に向かう。緊密編隊を解き、相互距離を五十メートル程にする。緊急機動を容易にする為だ。

「全機、隠蔽を解け。風竜は魔法感知が高い、却って見付かる」

「高度を上げ、雲の上に出る」

 矢継ぎ早の指示に緊張感が増す。

 突然空が陰った。

「上だ!虎治、回避しろ!」

 空戦はしばしば突然始まる。

 初陣でそれを知ったのは幸運と言えるかも知れない。

 生きて帰れればだが。




息をセキキルは、辞書的には[息を急き切る]が正しいのですが、溜まりに溜まった思いを語るゴブ村長を思えば、「堰を切る様に」の意味合いで[息を堰切る]としました。文芸ですし、言語の破壊はある意味義務。

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