へたれダンマス
前作、空戦録が終わって歪なダンジョンにコア達が帰って来たところから、始まります。
[大掃除]
「うわー、なに?これ」
コアルームに足を踏み入れると、いや、踏み入れようとしたのだが、足の踏み場がなかった。エネミーが破壊するだけ破壊したのだろう。浴槽も壊されたらしく床がびちゃびちゃだ。
「コアえもーん」
コアにサクッと吸収して貰おう、虎治はそう考えた。
「50キロ当たり1DP頂きます」
「えー、いままで只だったじゃん」
「再召喚の資源として加工が容易ならただでも良いのですが、これではさすがに原子レベル迄分解しないと使えませんので、その手間賃とお考えください」
「手間賃取るんだ」
「破格のお値段ですよ?」
そう言いながらコアは一輪車を召喚した。
あれ?コアに頼めば好きなもの自在に召喚出来るんじゃ?
質問する前にコアは作業の指示を出す。
「細かくて手間の掛かる物と、重すぎてマスターの手に余るものはお引き受けします。運べる物はご自分でお運びください」
勿論人形達も動員する。マスターだけだと何日掛かるか分かりはしない。
「嫁達も呼んでよ、みんなで、わーっと」
「戦力になりません。手荒れを嫌ってチマチマ作業では、却って時間が掛かります。明白に足手纏い」
足手纏いと言えば、このへたれマスターこそが最たる者かも知れないが、折に触れ鍛えねばいつまでもへたれのままだ。エルフの森と同盟を結んだとは言え、このままでは簡単に滅んでしまう。
「もういやだ」
小一時間もしない内にごね出したマスターに、コアは空中にシュランとブレードを出現させる。
「ひっ」
「それならば、邪魔なので死に戻って貰います」
「も、も、森の方がいいや」
痛いのは一瞬で、後は嫁達を召喚してイチャイチャしていよう。
「いえ、死に戻りポイントはコアルームに戻してあります。あそこです」
ブレードで指し示した場所は、祭壇のあった場所で石質の瓦礫がゴロゴロとゴロゴロと、痛そうに積み重なっている。
「仰向けに祭壇の高さから落ちますから、背中が血だらけになりますが死ぬことはありませんのでご安心を」
マスターはべそをかきながらその日1日働いた。
[召喚リスト]
「なんだかなー」
気が向いたので召喚リストを開いてみたのだが、石鹸箱ばかりが並んでいる。まぁそれは言い過ぎにしても、凡そ4分の1が石鹸箱なのだ。
「浴槽に潜在意識が引き摺られましたね」
「なにそれ」
「お風呂用品が欲しいなと、無意識に願ったのだろうと言う事です」
「でも好みのとはちがうよ?」
虎治の好みとは萌えキャラプリントなのだが、さすがに持っていた事はない。
「ガチャですから、欲しい物にある程度近ければ排出されます」
「セツジツに食べ物が欲しいんだけど」
リストにはそれなりに食品も載っている。冷凍のさんま、スーパーの安っぽい冷凍ピザ、お徳用のウインナーの大袋、うどんの玉。
「当たりを引く迄がんばるしかないですね」
でっかい中華鍋と卵焼き用のフライパンもあるが、カセットのボンベが有って肝心のコンロがでて来ない。尤もカセットコンロに乗っかるような中華鍋では無いのだけれど。
衣類はサッパリガチャから出ないので、ダボティーを吸収させて量産し嫁達に着せている。エルフの服も貰えたので吸収させたがリストには載らなかった。載らないと言えば、ジャージのズボンもそうで、永遠に消えてしまった。
幸いトランクスは載ったので嫁共々ダボティーにパンツが虎治ダンジョンの正装だ。スニーカーは試していない。靴下は片方だけ吸収させてみた。ちゃんと載った。
例の会談の際もその格好で出たわけだが、異世界人の服装等誰も知る筈もなく問題なかった。
ダボティーは活躍した。
四つ足人形達に適当な幅に割いて貰って紐を量産した。嫁達の足元にも使えた。最初は沓代わりに足にぐるぐる巻き付けていたが、今は木の皮のサンダルの鼻緒に成っている。
[パペット(人形)]
「新ダンジョンのゴーレムだが、あれ本当にゴーレムなのか?」
定例会議の席上で工厰長が質問した。
なんでも魔石がないらしい。
「シャオ、魔石なしでゴーレム動くのか?」
ここは専門家に聞こう。
「各部位を魔石に紐付けて、相関位相変換で擬似的な自立運動を実現したのがゴーレムとされている」
「えーと、ゴーレムじゃないって事?」
「かなり高度ではあるが、魔石を体外で紐付けて遠隔操作の可能性もある」
「そいやアーカイブを経由して制御するとかいっていたな」
「それは命令系統、少し違う」
あの時シャオはいなかったが念話を繋げてモニターして貰っていた。
「高度なゴーレムて事でいいのか?」工厰長。
「不明、しかしパペットである可能性が高い」
「パペット?」
「極めて自立性の高いゴーレム、内蔵型魔石では容量が足りない為、体外に制御機構を置いている可能性」
[しょーばい]
「エルフと貿易出来ないかな?」
「貿易ではなくて交易ですね、それと森人と言う癖を着けておいた方がいいでしょう」「死に戻りは1日一回だけですから」
「へ?」
虎治の発した疑問符は、いつもの如く置き去りにされ、コアは話を進める。
「必要な物資を外部から調達出来れば、安定度が増しますね。交易品として何を考えてますか?」
「石鹸箱?」
「ふむ」
化石燃料の枯渇したこの世界でプラスチック製品は貴重かもしれない。
誤字脱字、教えていただけるとありがたいです。