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異世界転生

――そこはあたり一面真っ白な何もない空間が広がっていた。

 

 壁や天井といった物も認識できない、四方八方地平の彼方まで白い。

 キョロキョロと周りを見渡しても得られる情報はそのくらいだった。


 自分はなぜこんなところにいる?

 辺りから情報を得られない以上、自分が何をしていたのか記憶を辿ってみる。



――新野 奨 30歳 プロセスチーズ工場で製品開発に携わるサラリーマン 未婚 家賃5万のワンルーム暮らし。

 

 少なくとも自分の事は問題なく思い出せた。なら直前まで何をしていた? ゲームでもしていたか?動画サイトでも見ていただろうか?

 

 直前の事が思い出せない。幼少期や学生時代の事などは思い出せるのに。


「死んだんですよ、あなたは」

 

 突如背後から声をかけられた。いつの間にか背後に長いブロンドヘアーの女性が立って、こちらに微笑みかけているではないか。

 

 なんとも神々しい神秘的なオーラをまとっており、思わず見とれてしまった。


「もしも~し?聞こえてますか~?」

 

 俺の目の前で小首を傾げ、手をふりふりしている姿はかわいらしさと美しさを併せ持っていた。


「す、すみません。突然のことでびっくりしっちゃって」


「こちらこそごめんなさいね。驚かせるつもりはなかったんだけど」


「い、いえ、大丈夫です。それよりここは? それにあなたは誰です? いや、それよりさっき死んだって……」

 

 気になる事だらけだが、いきなりおまえは死んだなんて言われても理解できないし、納得もできない。



「落ち着いてください。ひとつずつ説明しますから」

 彼女はやさしいにこやかな顔から真剣な顔へと変えて言う。


「死んだっていうのはそのままの意味です。覚えていませんか?」


「はい……自分が何をしていたのか、どこにいたのか全く……」


「あなたはいつもの様に遅くまで残業していて、過労で倒れ心筋梗塞で亡くなったのです」

 

 その一言を聞いたとたん、頭の中に記憶が流れ込んできた。いつもの様に残業で最後までデスクワークをしてたはずだ。明日までに仕上げておかないといけない書類が何枚もある。



「そうだ! 俺まだやらなきゃいけない仕事が……」

 

「もういいのですよ。死んでまで仕事になんて縛られる事ありません」

 

 俄かに信じがたい話だが、夢特有の曖昧さや浮遊感が無い、なにより倒れる寸前の記憶も思い出してしまった以上は全否定する事もできない。



「今更ですけが私はキュリオスと申します。人々には神様などと呼ばれております」

 神様を自称するキュリオスは深々と頭を下げてきた。



「こちらこそ名乗るのが遅れて申し訳ありません。新野奨と申します」

 

 いつもの癖でぺこぺこと頭を下げてしまう。頭を下げるのと、すみませんの連呼は仕事を始めて身に着いた悪い癖だ。



「フフッ、知っていますよ。神ですもの」


「この場所についてですけど、あの世とこの世の狭間とでもいいましょうか」

 

 目の前の彼女は神様で、ここはあの世との狭間。あまりに非日常過ぎて理解が追いつかない。

 


「単刀直入で申し訳ないですが、あなたには別世界に転生していただきたいんです」


「はい!? 転生? 意味が分からないんですけど……普通死んだら天国か地獄に落とされるものだと……」

 

「人間だけでなく生きとし生けるもの全てに魂が存在します。魂の選定には時間がかかる上、選定する数が膨大で捌ききれてないんですよ。そこで、無作為に選んだ魂を別世界で転生させて順番待ちを減らそうって話になったんです」


「むしろ転生なんてさせる方が時間かかりそうですけど……」


「まあ、建前ですしね。本音は別のところにあります。言えませんけど」

「難しく考えなくて良いんです。あなたが人生リトライしたいかどうかの気持ちだけなんです」

「その代わり、ってわけではないですけど、転生する方には特別な力を授けています」

 

 満面の笑みでそんな事を言うキュリオス。正直うさんくさいが、特別な力という響きに興味がそそられた。心の奥底に眠る少年心が燻りだしてしまった。まるで漫画やアニメの勇者ではないか!

 

 両親も既に他界し、特別仲のいい友人がいるわけでもない。恋人を残してきたわけでもない。元の世界に固執する理由なんて無いのではないか? 次第に、そんな事ばかりが頭に浮かんでくる。



「特別な力……それってどんな物なんですか?」


「何を授かるかは、実際に転生してみないことには分かりませんね。ただ、生前に固執していたことや、あなたの人生に最も大きく影響を与えた事に関する能力が授けられます」


「人生に影響を与えた事……転生ってのはまったく別人として生まれ変わる事になるんですよね?」


「いいえ。いちから生まれ変わるわけではないです。あなたの望む姿かたちで、って言うわけにはいかないですけど若い頃の姿でなら転生させられますよ」

 

 社蓄として生きてきただけの灰色な人生をやり直せるのか……未練だらけの人生を……

 

 自分はまだ何も残せていない!


 何も成し遂げられていない!!


 知り合いや同期が結婚して家庭を築いたり、社会的に成功していくのを横目に自分は何をしていた?

 

 ただその日、その日を仕事で消化していくだけの無味乾燥な毎日。行動を起こす事すらせずに、不平不満を溜め込んで愚痴をこぼしていただけではないか!


 せめて自分の生きた足跡を残したい……このまま死んで忘れられて終わりだなんて……嫌だ!


「どうしても嫌なら無理強いはしませんよ。他にも転生したい方は山ほどいるでしょうし……お鉢が別の方に回るだけです」

 

 他にも候補がいるのか! せっかくのチャンスをみすみす他の奴に譲る義理も無い。


「待ってください! 死んだって事に実感わかないですけど、生き返れるなら……お受けします! 転生させてください! あ、でも、ひとつ気になる点が……」


「まあ! 本当ですか! なんです?なんでも言ってください。答えられる事なら答えます!」


「日本語しかしゃべれませんよ? 流石に通じないですよね?」

 

 生まれも育ちも日本で、世界共通言語の英語ですらまともに習得できなかった自分に、今更異世界語を覚えろといわれても無理がある。何年かかるかわかったもんじゃない。



「大丈夫です! お気になさらず。会話は問題なくできるようにしておきますから。それでは早速、あなたの気が変わる前に転生させちゃいますね!」


 そういうや否や、俺は光で包み込まれた。途端に眠気のようなまどろみが襲い掛かってくる。体を動かす事ができず、抗う事もできず、身を委ね受け入れるしかなかった。

 


――ため息を漏らし、感情無くキュリオスは呟きながら人名の記入された本をめくる。


「ハァ、最近パッとしない奴ばかりだったからそろそろ当たりだといいのだけれど……次はどれにしようかしら……こいつなんてよさそうね…………もっと世界をかき乱して頂戴……フフッ……アハハッ」


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