出会い 3
「皆さん、安心してください。我々は警備隊の者です」
「暴れるな!!!!」
「皆さん、本当にだいじょっ・・・。お前、いい加減大人しくしろ!!!!」そろそろ良いだろうと翠玲葉がゆっくりと目を開くと、それを確認するよりも前に目の前の光景に言葉を失った。自分が意識を別に向けていたうちにここで何が起きていたのか、と考えようにも思考がうまく動かなかった。自分だけが時間に取り残されてしまったような、突然知らない場所に放り込まれた様で、男たちの怒号と人々の喧騒を何処か遠く虚しく聞こえた。
『もう一度訊く。お前。何故いる』数秒前に自分が言ったのと全く同じ台詞にはっとし、慌てて平坦すぎる声の主を探したが見当たらなかった。
『下。見ろ』もう一度聞こえた声の通りに視線を下げると、飛び込んできたのは自分をまっすぐに見上げる濃赤の目だった。そして袖を通せない代わりに首で括りつけられた深緑の外套にそこから見える黒という全体を捉え、何故私と私以外も眼の前にいることに全く気づかなかったのか、と固まった。それは依然として丹念に研がれた刃物のような鋭い眼差しで翠玲葉を向けていた。しかし不思議と恐怖や不快感は感じなかった。
『魔獣。違う。これ。話してる』翠玲葉の言葉を先回りするように告げると、人間が手を差し出すように右足をすっと前に出した。その脚には幅広の金色の足輪がついており、その中心についた小さな赤い石が不思議な輝きを放っていた。
「これは・・・まさか、魔法具?」見た目大きさはかつての記憶とは異なるが、おそらくこれは『魔法具』の一種に間違いないだろう。無機物に魔力を付与させて作られた道具で、制限付きで魔力を持たない者でも魔術を使えるようになる。初めは邪気を跳ね返したり傷を治すという程度であったが、徐々に生活に寄り添った効果を持つ道具が生み出されていったという。人間の発展に貢献したことから奇跡の品などと大げさな呼び方をして重宝がられる一方、それを独占し利益を集めようとする人間も発生した。それを生み出したという魔術師はこんなことになるとは、と頭を抱えたという噂もあった。
だがどう見ても人間ではない者でも所持しているということは、今では幅広く流通しているのだと分かった。この様なときにも関わらず翠玲葉はほっとした。
『すまなかった』
「それは、どういう意味だ。この騒ぎ、お前も関係しているのか?」表情を変えることなく黙って頷くと、早く続きを話せとばかりにじっと翠玲葉を見上げた。
『何が知りたい』
「何をって、それは・・・」急に言われても訊きたいことだらけでどこから聞こうか考えていると、結局口からでたのは自分でも意外な言葉だった。
「まずは、あなたの名前を教えてもらえますか」翠玲葉の言葉に耳がピクリと動き一瞬目が丸くなったように見えた。
「とりあえず『オオカミさん』と呼びますが、それで言いですか」
『構わない』
「押さえられている男と押さえている男、そして貴方は何者ですか。そして何故、ここに飛び込んできたのですか」有無を言わせぬように睨んで言葉を遮ると、すっと顔を扉の方に向けた。
『押さえてる人間達。警備隊。街の正式自衛組織。俺はその手伝い。押さえられてる人間・・・・・逃走犯。手分けして捜索。大道で発見。当初の俺が合流するまで尾行。合流後三人で確保に移行。だがすぐ気づかれ逃走。二人のみで強引に確保に移行。結果壁に激突。俺到着』そこで未だ騒ぎ収まらぬ人々視線を向け、人間がため息をつくように小さく息を吐いた。
『・・・現在応援要請中。到着後。説明開始』
「そう、ですか・・・」未だ収まらない人々を見ながらどうして次から次にトラブルに巻き込まれるのだろうか、やはり自分は招かれざる者なのだろうか、と大きくとため息をついた。
『その男。お前か。やったの』