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季節はずれの迷い子 10

「おはようございます。主様、使者様」

『よくぞ来た』

『よくぞ来た』

『よくぞ来た』

『よくぞ来た』

『よくぞ来た』

『よくぞ来た』

『頭を上げよ、キヨ』

 言われた通りゆっくりとキヨが顔を上げると、いつも通り尊大な口調に似合わないにこやかな表情に囲まれていた。嘗てキヨの祖先達は賊から村を守るために、畏怖していた六角峰の精霊に助けを求めた。初めは捧げ物をするなど関係を深めることに苦労したそうだがいつからが両者の関係は砕け、現在は毎日話し相手を務めることになっていた。今日もなんとか挨拶を終えられた、とキヨはほっとした。が、そう甘くはなかった。

『誰もいないな』

『また一人か』

『何故一人なのだ』

『皆はどうした』

『何故来ないのか』

『トウマはどうした』

『キヨ、答えよ。トウマは何故来ぬのだ』

「それは・・・・・。さいきんはとうさまは、すごくいそがしいんです。みんなもいそがしくてたいへんなんです。むらのそとからいろんなひとがきてるんです。すごくにぎやかでたのしいんですけど、それでいろいろやることがふえてるみたいで、みんなそとにでかけちゃってて・・・だからゆるしてください」もう一度勢いよく頭を下げると、急に新雪を巻き上げながら冷たい風が吹き抜けた。そしてその言葉を責めているかのように複雑に雪が舞い、暫く止むことはなかった。

『キヨ、トウマに伝えよ。いかなる訳があろうとも、我らは誓いを違える者を許さぬ。友好も仕舞いとする』

「え、まってください!みんなしばらくこれないだけなんです。だからおわりにするなんでやめてください!おねがいします」

『主様は絶対だ』

『誓いは絶対だ』

『人間と精霊の誓いだ」

『違えたら許さぬ』

『いかなる訳も許さぬ』

『それが誓いだ』

「そんな・・・・・」

『キヨ、もう下がれ』

「・・・・・わかりました。失礼します」一切取りつく島はなかった。よってそれ以上何も返すことは出来ず、キヨはしょんぼりとその場を離れるしかなかった。そしてとぼとぼと重たい足を引きずるように、雪の中を下っていった。

 その後キヨはまっすぐに帰宅する気にはならず、途方に暮れながらふもとをぶらぶらと歩いて回った。途中で大人たちに会ったどうしようかとも思ったが、不思議なことに誰とは会うことは無かった。そして日が暮れて寒さがより厳しくなった頃、ようやく気持ちを決めて自宅に向かって歩き出した。

「・・・・・本当に、よろしいのでしょうか?」

「そうだな。やはり・・・」

「もう決まったことだ!!今更そんなことを言うじゃない!」それは最近よく聞くようになった、激高する父と不安げな大人達の声だった。数年前から父を訪ねる村民が増え始めた。最初は今で和やかな様子で話していたのだが、徐々に奥の部屋を使うようになり、たまに聞こえてくる声も激しくなっていった。そして心配していた矢先何故か長年の風習を禁じるようになった。キヨは当然疑問を持ち尋ねたのだが、誰に訳を聞いてもまだお前は子供だからと何も教えてもらえなかった。そのためこれはまたとない機会だ、と思い息を殺してそっと戸に耳を近づけた。

「全てを守るためには、この方法しかないんだ」

「でも本当にこれで良いのでしょうか。村の平和は、主様によって守られてきたのですよ」

「そんなことは分かっている!!」

「失礼しました!ですがどうにかもっと穏便に進めることは、できないのでしょうか?」

「皆と話してみたがどうにもならなかっただろう。我々は完全に畏怖も念を忘れてしまっている。今は大きな問題は起きていないが、もしかすると取り返しのつかないことになるかもしれない。時間がどれほど残っているかもわからない。もう覚悟を決めるしかないのだ。主様達が本来何者なのかを、皆に思い出させるしかない解決方法はない」

「本当に大丈夫なのでしょうか。もしかしたら、村は・・・・・」

「もちろんただではすまない。だが村民の命だけは何があっても守る。村民さえいれば、何度でもやり直すことはできるはずだ。移動は進んでいるのか?」

「はい。あと残っているのは旦那様奥様お嬢様、私を含めて五人の使用人達だけです」

「まだ予兆はない。だが念のため、我々も村を出ることにする」

「なにをいってるのとうさま!」

「キヨ!いつからそこに。いや、それよりも何処から聞いていたのか」

「ぜんぶきいた」

「・・・・・そうか。聞いての通りだ。我々は一度この村を捨てることにした。出発は明日だ。用意は出来ているから一緒に来なさい」

「ぜったいにいや。そんなことしたら誓いをやぶったって、いまよりももっとおいかりになるわ」

「そう、なるだろうな」

「なんでそんなことしないといけないの。あたしは主様たちのことがだいすきだし、みんなだって主様たちがだいすきなのに」

「・・・・・それだけでは足りないんだ」

「ぜんぜんわかんない!」

「お嬢様、落ち着いてください。初めから説明しますと精霊というものは・・・って、お待ちください!最後まで聞いてください!」

「キヨ、よく聞きなさい。村民と主様は仲良くなりすぎたんだ。このままでは主様達の存在が、消えてしまうかもしれないんだ」

「それどういうこと!?なんできえちゃうの」

「なんだこの音は!?」

「これって、もしかして主様のこえ?・・・・・なんだか、あたしたちをよんでるみたい。とうさま、いきましょう。主様達のところに」

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