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季節外れの迷い子 7

「この話はわしの父様達から聞いた話じゃ。その日は六角峰の麓だけでなく、このあたりも降り積もった雪により一段と冷え込んでおったそうじゃ。辺りが真っ白に染まった光景は幻想的ながらも寂しげで、村人たちの深い悲しみを表しているようじゃった」

「クルト。結末だけで良い」

「・・・。これからが面白いところなんじゃがな。」クルトは少し拗ねた様に呟いたが朱牙に無言で軽く睨みつけられると、やれやれと首を降り再び話し始めた。

「死者の正確な数はわからん。じゃがあそこまで重々しくゆっくりと進む人間の葬列は、見たことはないと皆が言っておった。披露された石像も人間でもここまでできるのか、と中々評判だったとそうじゃよ」

『・・・・・そんな物、見たことないぞ』

『ボクも無い。レーハちゃんも無いよね』

『クルトさん、それはどこにあるのですか』

「そうじゃの・・・供養のために作られたのならば、祠にでも納められたのではないかの。あどけない少女を模った真白な像だったそうじゃが、セイイチも見たことはないか?」

『祠。多分この村に、そんなちゃんとしたものはない』

「そうか、それならば・・・犠牲者の代わりに葬られたのかもしれんな。状況的に全ての亡骸を見つけるのは難しかったはずじゃ。もしかすると今もお主らの足元には・・・」

『おい、村を全部掘り返すなんてできないぞ。それに俺の話じゃ死んだのは村長の娘一人だし、もし見つけたって手がかりになるのか』

『それは、言わないでください」翠玲葉の困ったような声に皆が黙ってしまうと、朱牙は何か思案げに目を細め数秒間一点を見つめた。そしてそのまま右手を口元に近づけた。

「清一。お前の知ってる話を話せ」

『そうだよ。教えてよ』 

『・・・・・まあ、そうだな。分かった』














昔人々は雪崩を恐れながら氷という恩恵に感謝し暮らしていた。その思いは山頂の万年雪に宿って精霊となり、六人の分身を使って山を統治する様子から主と呼ばれるようなった。

あるとき、男が主に会うため山頂を目指した。男の目的は人間の立ち入りを許してもらうことであり、苦難の末対面した主はその姿を認めて許した。それから男は人々をまとめ上げて村を作り、男の子孫達が代々村の長を務めるようになった。

時は進み山は六画峰と呼ばれるようになって頃、村と主には異変が起きていた。誰もがそれを受け入れるしかないと思うなか、村長の幼い娘だけは諦めなかった。娘は来る日も来る日も山頂を目指し主と対面しようとしていた。その日も大人たちに気付かれないように、娘はそっと吹雪の晩に村を抜け出し一人山頂を目指した。

しかしその直後に村は主の怒りに飲み込まれ、彼女だけが二度と村に帰ることはなかった。

それから村は全てが真っ白に埋もれた村、真白村と呼ばれるようになった。











「・・・やはり、肝心な部分がわからんな」

『そうよ。こんな話おかしいわ』

『おい、冷気を出すなよ。俺が作ったわけじゃねえんだぞ』

『だって主様が意味もなく荒ぶるわけないわ』

『あ、そっか。ユキちゃんは毎日会ってたんだよね』

『毎日じゃないわ。兄様と姉様達が許してくれたときだけよ。それに人間との和解の話だけは、どれだけ頼んでもさせてもらえないの』

『なんで』

『時が来るまでは待て、ですって。でも待ってられないわ』

「千年も経っていれば多少不確かでもしょうがない、とわしは思うんじゃがな。シュガよ」クルトがなぜか楽しそうな口調で問いかけると、朱牙は通信機をじっと睨みつけていた。

「隠蔽。伝わらなかったんじゃない』

『朱牙さん。確かな手がかりが見つかっていないとはいえ、それは考えぎだと思いますよ』

「人間達に都合が悪いことがあった。そう考えれば辻褄が合う」

「まあまた、皆一旦落ち着きなさい。ところで御主ら、村の中で他に気になることはなかったのか?」

『うちの倉庫にあったのは、ここ2〜3年の町との取引控えだけだよ。だいたい小さい村なんだから、怪しい場所なんてない』

「住民が普段絶対に近寄らない場所はないか」少し苛立った清一と対照的に朱牙が淡々と問いかけると、騒がしい声が消え暫し風の音だけが聞こえた。

『・・・・・山頂へと続く山道』急に返ってきた風にかき消されそうな翠玲葉の感情の乗っていない声に、クルトは関心したようにほうと呟き朱牙は小さく広角を上げた。

『おい、雪の中に何か埋まってるなんて言うなよ。あの高さじゃ、掘り起こせないからな』

『あら、できるわよ』

『それはお前が雪の精製だからだよ。人間じゃ無理だ』

『そんなことないわ。年に何回か、風や日の光で雪が消える時があるの。その時なら人間でも掘り起こせるわ。そういえばセイイチの父様と会ったのもその日だったわ』

『え、親父が。何で』

『そっか。山道に行けば良いんだね。セイイチ、早く案内して』

『行ってどうするんだよ。今は雪はどかせないぞ』

『それならアタシに任せて。場所も分かってるからついてきて』

『え、ちょっと待ってください。まだ手がかりがあると決まったわけでは・・・だから待て』その翠玲葉の怒号を最後に通信は切れ、朱牙はそれに驚いたようにびくりと体を震わせ固まった。一方クルトは困っている子供を諭すように優しく目を細めた。

「・・・シュガ。これから為べきことは、もう分かっておるな?」

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