季節外れの迷い子 6
「アタシも会ってみたかったわ。そのシュガって人間」
「シュガはニンゲンじゃないよ。オオカミの半獣だよ」
「半獣?ますます会ってみたいわ!」
「でしょう!ボクもはじめてのときは・・・あ、やっぱやめたほうがいいかも。シュガ、はじめてだとゼンゼンしゃべんないんだ」
「シオンさん、関係ない話はやめてください」
「あ!レーハちゃん、シュガのマネしてる。シュガもね、すぐそういうんだよ。それでじぶんのこと、ゼンゼンいわないんだよね。それにボクはボクのこときいてほしいのに、ゼンゼンきいてくれないし」
「それは大変ね。でも隠されると余計に訊きたくなるわ」
「そうでしょう!わかってくれたの、ユキちゃんがはじめてだよ。すっごいうれしいな!!」
「いい加減にしろ!」
『・・・・・あの。もう用意できてるんですけど、読み上げても大丈夫ですか』
「あ・・・・・すみませんお願いします」翠玲葉はシオンを一睨みし少々強引に話を終わらせると、残り二名の視線を無視してハングルに話しかけた。
『今から千年前、六角峰麓の村は大規模な雪崩に見舞われた。多くの命が失われ以降も村人達は主と山を恐れている』シルキーの反応を聞いた反応は三者三様だった。シオンはつまらなそうにあくびをし、翠玲葉は落胆してため息を付き、清一は何やら不思議そうに首を傾げた。
「私が出発前に読んだ内容と同じです。他の資料はないのですか」
『それが探してみたんですけど、屋敷にある真白村にの資料はこれだけだったんです。・・・あ、マダム。どうしてここにいるんですか』
『念のために参りました。問題は起きていませんか』すぐ答えないシルキーに翠玲葉は申し訳なさを感じ、代わりに口を開いた。
「折角彼女に調べてもらったのですが、村が主の怒りをかった原因につながる情報は見つかりませんだした」
『申し訳ございません。ここにある資料の多くは200年前に記されたものです。その上当事者ではなく後の時代に街に住む者たちに伝わる話をまとめたもので、歴史的資料ではなく民話集に近い書物になります』
『その人間ももういませんよ』
『人間だけでなく、一応様々な種族から話はきいていますが・・・・・あら、ドワーフのクルト』
『まさかこれって、警備隊のクルトさんですか』
『すぐに確認致します。少々お待ち下さい』そうしてマダムたちの声が聞こえなくなると、すぐにシオンが不満げに声を上げた。
「まってるのつまんない。やっぱりさ、ここのヒトにきこうよ」
「何度も言いましたがそれはできません。今清一さんも主の怒りを信じているとなれば保守派の勢いが増し、おそらく山を開くのは難しくなります」
「じゃあセイイチが、ひらくっていえばいいじゃん。そうでしょ?・・・セイイチ?ねえセイイチ、なんかいってよ!」
「・・・・・え。あ、悪い。何の話だ?」
「もうしっかりしてよ!セイイチ、なかなおりしてってみんなにオネガイしてよ」
「それは無理よ!」
「なんでユキちゃんがこたえるの?ボク、セイイチにいったのに」
「だってあの人間、アタシと目が合っただけで逃げたのよ。話なんてできないわ」
「え・・・。それ、いつのことですか」
「えっと、確か・・・何日も続いた吹雪が止んで、久しぶりに朝焼けが見られた日だったわ」
「そんなひ、あった?」そう言われてもこの辺りの気候のことはわからない。なので翠玲葉も首傾げるしかなかったが、清一だけは深刻そうな表情で重々しく口を開いた。
「親父が反対派になったのは、お前に会ったからなんだな」
「あの人間、アナタのお父様だったの?似てないから気づかなかったわ」
「よかったね、セイイチ。ゼンゼンにてなくて」シオンのよくわからないフォローに翠玲葉が呆れながら清一を見ると、彼は疲れたように大きくため息を付いていた。
「結局開くしかないのか。でも・・・」
「もしかして先程ぼんやりしていたのは、お父様のことを思い出していたのですか」
「あ、いやそうじゃない。さっきの話、俺が昔聞いた話とは違って」
「セイイチ、困らせてごめんなさい!でもアタシ、ただ頼みたかっただけなの。主様に頼もうとしても兄様に止められたから、もう人間に頼むしかなかったの」
「・・・そもそもさ、なんで和解させたいんだ?」
「たしかにそうだね。なんで?」
「だってアタシは、主様と人間を昔みたいに仲直りさせるために生まれたの」清一とシオンは意外な答えにポカンとしていたが、翠玲葉だけはその言葉が何度もこだました。そして気がつくと崩れるようにその場に膝をついていた。
「何故そう言い切れる?」
「アタシがそう思ったからよ」
「・・・・・それだけ?」
「ええ。そうよ」やっと絞り出した声にも一切動じることなく、アワユキは明るい表情で軽やかに頷いた。さも当たり前のように簡単に言い切る様子に翠玲葉は頭を上げられず、これが精霊たる所以なのかと勝手に納得した。
それが一番知りたいことだった。いくら時間をかけて誰かに聞いても、自分ではどうしても見つけられなかったことだった。やっと見つけたと思っても、いつも最後には・・・・・・
『こちら朱牙。クルトに代わる。直接聞け』
『おーい。久しぶりじゃな。なんでも聞いとくれ』こちらに寄り添っていないタイミングとテンションに、翠玲葉は思考が付いていかず思い詰めた表情のまま黙り混んだ。すると少し意外な人物が一番に声を上げた。
「俺が知ってる話と違うんだよ。昔聞いた話だと雪崩で死んだのは、子供が一人だったはずだ」




