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季節外れの迷い子 5

「冷凍倉庫異常なし。人為的侵入の痕跡も無い。匂いも関係者の匂いのみ」

「わざわざ確認したいことがあるって来たのに、何にもなくて残念だったな」

「鍵は特注品。複製は困難。冷凍倉庫に入れるのはこの場にいる者のみ。間違いないか」急に鋭い視線を向けられたハリスは、今までの葉独り言じゃなかったのかと少し驚きながらも頷いた。それを確認した朱牙はそうかと小さく呟くと、何かを迷うように腕輪を見つめた。

「でもよ。なんで今更それを気にするんだ?人間の鍵なんて今回は意味ないだろう」

「そうよ!鍵なんて何の意味もなかったのよ!」ソフィアが突然声を荒げると朱牙は目を見開いて固まり、見かねたようにハリスが苛立った表情で彼女の肩に手をおいた。

「おい、そいつに当たんなよ!」

「あんたこそ、よく冷静で居られるわね。厨房はめちゃくちゃで窯も食材も使い物にならないし、これまでレシピノートだって・・・。全て台無しよ」

「全てじゃねえだろう」

「そうですよ店長・・・・・あ、すみません店長!勝手に喋っちゃって、本当にすみません」

「ボブ、謝んな。お前はなにもしてねえだろう」

「は、はい。すみません、副店長・・・」

「ボブ、いい加減にしろ!お前がそんなだと副店長の顔が立たないだろう」

「トオル、お前まで・・・」

「でもこれじゃ再開なんて・・・。まさか、閉店なんてことは!」

「馬鹿なことはいうな!副店長のお陰で軌道に乗り始めたし常連客も増えてきたんだ。変な雪ダルマぐらいで狼狽えるな」

「確かにな。ミヤコの言う通り、今のソフィアじゃまともな菓子は作れねえな」

「なんですって!?」そうして両者が睨み合っていると、急にトオルが飛び出しハリスを庇うようにソフィアの前に立ち塞がった。その素早い動きに驚いたのか朱牙は一瞬目を見開いたが、すぐに何かを察したように小さく息を吐き真顔に戻った。

「別働隊から連絡。お前が原因を店内に運び込んだ、と」

「はあ?誰がそんないい加減なことを言ってるのよ。ありえないわよ」

「お前は変な雪ダルマと言ったがあれは弱った精霊。住処で復活した精霊自身が証言した」朱牙は依然として淡々とした口調で告げると、トオルは目を見開き追求から逃げるようにさっと顔を伏せた。それに皆は驚愕の表情を浮かべ特にソフィアは思わず詰め寄ろうとしたが、髪の隙間から透けて見える赤い目に思わず固まった。

「何故黙ってた。この状況を望んでいたのか」

「違う!冷凍倉庫の氷が切れてたから使っただけで、精霊だなんて思わなかったんだ」

「そんな理由で・・・?」

「それだけじゃない!副店長のため・・・あ!」

「どういうことだ?」

「だって副店長、最近疲れたじゃないですか。だから店が開けなければ良いと思ったんです!!!!」力強く言い切ったトオルに対してハリスは一瞬怒りの表情を見せたが、すぐさま眉を下げて大きくため息を着いた。

「ソフィアもボブも今詰めすぎ。特にソフィアは周りが見えなくなってたから、やる気がないふりして休ませようとしたんだよ。失敗したけどな」

「ちょっと待って。あたしが悪いっていうの?確かに上手くいかなくてイライラしてたけど、それは楽しみにしてくれるお客様のためよ」

「本末転倒だろう。それで店全体の雰囲気が悪くなってたんだぞ」

「確かにみんなに苦労かけたけど、でも・・・」

「いい加減素直に謝れよ。アホソフィア!!」

「アホとは何よ!だいたいあんたこそ、なんでそんなに偉そうなのよ。あんたの態度だって原因なのよ。分かってるの?バカハリス!」

「トオルまで思い詰めてるなんて、分かるわけねえだろう!」そうして二人は暫し黙って睨みあっていたが、どちらともなくため息をついて成り行きを見守っていた店員達に向き直した。

「・・・・・ともかく。これからのことはみんなで話し合いましょう。新作ケーキに関してもね」

「お!やっと折れたな。アホソフィア!」

「余計なことは言わなくていいのよ。バカハリス!」先程と変わって楽しそうに罵倒する二人と何故かホッとしている店員達に朱牙も安心したように息を吐くと、そっと背を向け右腕を口元に近づけた。

「シオン、こちら朱牙。こちらは解決。自白した」

『・・・・ん。あ、シュガ。ねえ、なんで勝手に切ったの。まだ終わってないのに』

「報告。今回は故意ではない。事故に近い事例」

『絶対、悪いと思ってないよね。レーハちゃんもそう思うでしょう』

『本当に、そちらはもう大丈夫なのですか』

「当事者達に任せる。俺の仕事は終了」

『じゃあ、シュガもこっちに来れるね』

『え・・・。それよりもしてほしいことがあります。雪下村と雪崩の情報が足りないので、一度屋敷に戻って調べてください』

『それ無理だよ。だってシュガ、読めないじゃん。新しいのはなんとかなるけど、古いのは難しくて全然駄目って言ってたじゃん』

『え。そうなんですか』

「資料はシルキーに頼め。合流は無理。まだ街から出れない」

『つまんないの。でもさ、それじゃシュガはこれからどうするの』

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