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季節外れの迷い子 2

「おいおいソフィア、そんなに苛々すんなよ。超次元的なトラブルに巻き込まれるなんて、この街じゃそんな珍しくねえだろう」

「ハリス、話をそらさないで。あんたこそ、何で一人でヘラヘラしてられんのよ。ただでさえ制作が遅れてるっていうのに、6日も作業場に入れないなんて・・・。このまま生誕祭当日に間に合わなかったらどうすんのよ」

「それならそれでいいんじゃねえか?別に頼まれたわけじゃねえんだし、むしろこのままのほうが客がくるかもしれねえぞ。まるまる氷漬けのケーキ屋、そうそうねえだろう?」

「馬鹿なこと言ってるじゃないわよ!楽しみにしてる常連さんたち大勢いるのに、その期待を裏切るなんてありえないわ」

「あの。お二人とも」

「それに誕生祭にちなんだケーキを売ろうって、最初に言ったのあんたでしょう!みんなを巻き込んでおいて、今更何言ってるのよ!」その怒号にハリスが後ろめたさそうに顔をそらし静かになると、翠玲葉はやっと終わったと息を吐いた。

「調査を始めたいのですが、よろしいですか」

「・・・・・・あ。そうね。すぐに始めて」

「依頼しといてなんだけどさ、お前に何とかできるのか?別に無理なら無理でも良いんだ」

「何とかしてくれなきゃ困るわ。そのためなら何だって協力するし、みんなにもそう言ってあるから自由に聞いて頂戴。必要ならすぐに呼び出すわ」

「おい、一応休暇扱いなのに勝手に呼び出すなよ。それに何でもってのは、流石に言い過ぎだぞ」

「店の一大事なんだから、そんなこと言ってられないわ。それよりあんたこそ、さっきからずっと思ってたけど解決するつもりあんの?」

「ソフィア。そんなに焦んなくても、待ってりゃいつか溶けんだろう」

「そんなわけないでしょう!火で溶かしても叩き割っても、次の日には復活してるのよ」二人が再び諍いを始めたが翠玲葉は今回は仲裁を諦めて、店を覆い尽くす一切曇りのない氷に手を当てた。しかしすぐに手を離して不審げに首を傾げると、もう一度両手を当てて目を閉じると細かく唇を震わせた。すると辺りに澄んだ高音が響いた。

「やはり、何も起きないか・・・」そう自分にだけ聞こえるようにつぶやくと、ゆっくりと振り返った。

「この氷からは魔術の気配どころか人の力も一切感じられず、解除の術も反応しませんでした。だからおそらく、これは」

「あなたまで、これがただの氷だっていうの?」まだ興奮が収まらない様子のソフィアをこれ以上刺激しないように、翠玲葉はゆっくりと言葉を選びながら告げた。

「私も信じられないのですが、これは精霊の力である可能性が高いと思います」

 精霊は数多の者の願いや思いが長い年月をかけ、自然物に宿り自我を持った存在である。自然の化身で神とも同一視される崇高な存在であるが、自身や精霊に与える影響を考えてその周囲には誰も近づかないことが多い。翠玲葉もまさかこんな町中で出くわすとは信じられなかった。

「ってことは、ケーキの精霊か?そりゃいいな!六角峰と人魚の海岸に比べたらしょぼいけど、みんなおもしろがるな」

「ハリス、ふざせないで!精霊でも妖精でも、何だって良いわよ。それより大事なのは、解決出来るかどうかよ。どうなの?」

「集中したいので、少し一人にしてもらえませんか」

「わかった。任せるわ。終わったら教えて頂戴」

「ごめんな。あいつ、最近上手く行かなくて苛立ってるだよ。本当は厳しいだけで、そんなひどいやつじゃねえんだけどな」そう言って二人が離れると翠玲葉は大きく息を吐いた。しかしそれ以上考えることをやめて、もう一度両目を閉じるとそっと両手を置いた。予断は良くないと翠玲葉が手元に集中すると、澄んだ氷の奥で小さな力の源にたどり着いた。

「・・・・・・これは、雪ダルマ?」

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