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「もう良いわ!ねえさっきみたいに、マックスに外に出るように言ってちょうだい」動揺する翠玲葉とは裏腹に、ミリは妙にさっぱりした表情で逆に宥めるような視線を向けた。

「だってもう一時間よ。マックスは大したこと言わないし、そっちの子だって飽きて外を見てるだけじゃない。これ以上続けても意味ないわよ」

「ボクもそれがいいな。マックスとしゃべるのあきちゃった」

「何でそうなるのですか。それでは根本的な解決にはなりませんよ。貴方からも何か言ってください」

「・・・・・!全員伏せろ!」

「え?あ!」

 それまでマックスの意識は、ずっと大海を漂うように浮かんでは沈んでを繰り返していた。しかし波は、何故か急に止まった。そしてはっきりとガラスが割れる音に意識を引き戻されてゆっくりと目を開くと、そこはもはや自分の部屋ではなかった。

「これは・・・藤の枝?」朱牙は悔しげにうなずくと袖で右頬を拭い、翠玲葉とマックスの上から注意深く起き上がった。窓から内部の壁を貫いて放射状に広がり、部屋を占拠する枝々を睨んだ。

「藤って昔ひいジイさんが植えたっていう、あの不気味な藤のことか?馬鹿言うなよ。あそこからここまで届くわけ・・・てか、お前ら誰だよ!」顔を赤くしながら詰め寄られて翠玲葉はたじろぎ思わず黙り込むと、今度は朱牙に向かって語彙を荒げて喚き散らした。

「おい、黙ってないで説明しろよ!何でこんなことになってんだよ」

「いい加減にしろ!身を挺して守ってくてた相手に、礼の一つも言えないのか」

『ねえみんな、どこにいるの。何でも良いから返事してよ』緊張感の無いいつもどおりの無邪気な声に、水を打ったように3人は静まり返った。

「・・・・・そちらは、大丈夫なのですか」

『あ、レーハちゃんだ!良かった。やっと返事してくれた。すっごい大変だよ。服が破けちゃって、靴もどっかいっちゃったんだ。どうしよう、マダムに怒られちゃう』

「・・・怪我は、無いのですね」

『うん。全部かわしたつもりだったんだけど、なんか服が引っかかって気づいたら庭にいたんだ。みんなは中にいるの』

「はい。私とマックスさんは、朱牙さんのおかげで大丈夫です。ですが朱牙さんが・・・」

「擦り傷。少しガラスで切れた。それより外の状況は?」

『すっごいことなってるよ。たくさんの枝が家を飲み込んで、大っきな木のボールみたい。だからさ、こっちからじゃみんなが見えないんだよ』

「閉じ込められた。すぐに脱出したい。だがこちらからは難しい」

「そうですね。仮に道具があったとしても、全ての枝を伐るのは現実的ではありません」そう翠玲葉が言った瞬間、かすかに枝が不自然に震えた。翠玲葉が心配げに朱牙を見ると彼は小さくうなずき、警戒はするように目を鋭く細めて光らせた。

「おい待て!ノコギリも斧も店舗に腐るほどあるぞ!人間も大勢いる!全部集めてこい!それで逃げられる」マックスが割り込むようにそういった瞬間、枝がゴウっと音を立てうねり出した。そして枝達は一斉に壁から抜けると絡み合い再び一直線に再びマックスに迫った。そして彼は声を上げるまもなく、間に飛び込んだ朱牙に突き飛ばされた。

 急な動きに対応できなかった枝は朱牙に向かったが、直後に彼の髪がふわりと逆立ち姿が一瞬歪み空振りに終わった。一方朱牙は勢いよく駆け出すと枝の一本を噛み砕き、痛がるようにうねる枝の間を駆け抜けた。枝の動きは単純で素早いものでもなかったが部屋を駆け回り撹乱する朱牙を執拗に追いかけ、翠玲葉に一抹の不安がよぎった。

『シオン。店舗に急げ。工具。本体に投げろ。気づかれるな。慎重にやれ』

『急いで慎重にやるって、それどういうこと。よく分かんないよ。全然違うじゃん』

『とにかくやれ』

『・・・しょうがないな。よく分かんないけど分かった。やってみるね。じゃあね』シオンの声が聞こえなくなったとき、一本の枝がとうとう朱牙の足に絡みついた。そしてそのまま彼を天井まで釣り上げのを見て、翠玲葉は思わず血の気が引いた。

『構うな』

「でも!」

「やめろーーーーー!」その声に振り返るとそれは朱牙の心配通りの展開だった。翠玲葉は悔しがりながらも大きく息を吐き、両目を閉じると祈るように地面に膝を付き両手を置くと細かく唇を震わせだ。すると辺りに高く澄んだ金属音が響くと、手をついた部分から地面が丸い結界のようにエメラルドグリーンに神秘的に淡く光った。そしてそこから幾つもの緑色の光の玉が浮かび上がると、それは枝に当たってすぐに弾けてキラキラ光りながら消えていった。

『逃げろ。早くしろ。今のうちに』

「・・・どうしてなの?どうしてみんな、ワタシの邪魔をするの?」

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