魔女の最高傑作 1
「なんでボクたち呼ばれたの?」どこかどんよりとした空気の中、シオンは興味津々と言った様子でシルキーに詰め寄った。
「それがその・・・。私達も、よくわからないんです」
「突然昨日の夜に、マダムからすぐ集めるように言われたんです」
「とても断れる状況じゃなくて・・・。ごめんなさい」
「ふーん。そっか・・・。でもさ。だったらなんで、そのマダムがいないの?」
「それが、よくわからないんですよね。何処かに連絡を入れているみたいですけど」
「そう!あんなに乱暴に手紙を書くマダム、初めて見ました」
「だから、気をつけてください!きっとマダム、今も・・・」彼女の言葉を遮るかのようにバンと勢いよく扉が開くと、目を丸くしたマダムが入ってきた。
「マダム、なんでびっくりしてるの?ボクたち、みんなによばれたんだよ。きょうのあさ、みんながすっごいうるさかったんだ。マダムがたいへんだーって」そうシオンが一人だけ無邪気にはきはきとした様子で答えたが、翠玲葉はあくび噛み殺し朱牙も不機嫌そうに頬杖をついていた。するとマダムはシルキートリオを一瞬だけ睨み彼女たちを怯せると、翠玲葉達に向かって丁寧に頭を下げた。
「大変申し訳ございません。本来は本日午前9時にお集まり頂く予定でしたが、こちらの連絡のミスでそれよりもお早くお呼びしてしまったようです。・・・せっかくお集まり頂いたので、予定を前倒して報告を始めさせて頂いても宜しいでしょうか」
「うん、いいよ!だからはやくおしえてよ!なにがあったの?」
「シュガさんの住民証の修理と、レーハさんの住民証についてです」
「やったねレーハちゃん!これでやっと、ホントにボクたちのなかまだね!」そう言いながらシオンは満面の笑みを浮かべたが、翠玲葉はマダムの表情が硬いことが気になり喜べなかった。
「さいきんはゴミひろいとかソウジとか、そんなのばっかりだったでしょう。すっごくつまんなかったから、カンゲイカイはおもいっきりハデにしたいな・・・。そうだ!こんどは、シュガのばんだよ。ちゃんとかんがえてよ。ボクだってやったんだからね!」
「シオン様、今はそれどころではございません!」
「そうなの?」
「3日前の夕刻、突然この依頼は受けられないと手紙を頂きました」突然の報告にシオンは驚きの声を挙げ、翠玲葉は驚きよりも疑問を強く感じた。魔法具制作は製作者によって手法が異なるので詳しくは分からないが、修理に関しては手間取るとは考えづらい。何か製作者にしか分からない問題が起きた、ということなのだろうか・・・
「今までにも、こういった事はあったのですか」
「中止になったことは何度かございますが、一方的に断られたのはこれが初めてです」
「もしかしてあのプレゼント、ダメかったのかな?」
「それはありえません!いつもと同じお酒をちゃんと贈りました!」
「そうです!小説だって、今大人気の作家の最新作ですよ!」
「そっか・・・。じゃあ、なんでだろう?」誰もそれに答えられるわけもなく困って黙り込んでいたとき、それまで態度が悪かった朱牙は何かを決意したように一点をじっと見つめていた。
「対策については明日、改めて話し合いたいと思います。ですから本日は解散・・・」
「俺が見てくる」マダムの言葉を遮るように朱牙は言い切ると、もう話は終わっとばかりに立ち上がり扉に向かって歩きだしていた。
「お前が行くなら私も行く!純潔のエルフに会う機会を逃したくない!」その言葉に朱牙は不可解そうに首をかしげ、マダムとシルキー達もポカンとした表情で翠玲葉を見つめた。しまったと思ったが今更その言葉を引っ込めることは出来ず、どうしたものかと暫し視線を彷徨わせた。
「あ、その・・・・自分の魔法具がどうなっているのか、自分の目で確かめたいのです。ですから私も、森まで同行させてもらえませんか」
「ダメだよ、ゼッタイダメ!あそこは魔女の魔力でいつもキレイな精気であふれてて、聖域みたいになってるんだよ!あんなところにいたらおかしくなっちゃうよ」
「・・・私にとっては、むしろこう都合です」翠玲葉が呆れながら返すとシオンは困ったように黙り込み、マダムもも困ったように首を横に降った。
「止めろ。森までは距離があるし道も悪い。お前の足じゃ無理だ」
「それなら大丈夫です。マダム、お願いがあります」




