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黒い本 12

「半年前。あの御者は古い馬車を買い換えるため、あの男から金を借りた。だが後日届いた借用書の利子は法外で、抗議すると周りにゴロツキ連中現れた。馬車を売却返済しようとしたが駄目だった」

「そっか。あのひと、じつはすっごくこまってたんだね。・・・そういえば久しぶりだね。こうやって話すの」

「話を進める」

「レーハちゃんもおどろいたでしょう?。シュガがニンゲンになって!」

 朱牙は人間と獣人の子供によく見られる、人間と動物の2つの姿を持つ半獣と呼ばれる存在だった。獣人族は見た目は人間と動物を足して2で割ったような姿をしているが、思考回路や精神面といった部分から最も人間に近い種族と言われている。獣人や半獣は身体能力が非常に高く動物の種類ごとに姿や性質が異なるため、同じ種族でも非常に多様性に富んでいる。ちなみに朱牙は狼の半獣で嗅覚に優れており、それを知っていたクルトは直ぐに自分達の匂いを追ってくるだろうと思っていたらしい。

「シオン様、お止めください!シュガさん、話を進めてください」

 あの後クルトの連絡でやってきた応援により、男と少年達は無事確保された。翠玲葉としては御者の青年の聴取に立ち会いたが、連行間近残りの黒魔術所は自宅にあると彼が告白し急遽彼の自宅に向かった。その言葉どおり黒魔術書20冊が発見され、その場で全ての破棄作業を行った。作業は滞りなく進んだが全て終えたときにはひどく疲弊し、どうやらそのまま眠り込んでしまったらしい。そして翠玲葉が気がついたときには屋敷のベットの上でしかも3日も経っていた。流石に愕然としていると朱牙が戻ってきたと連絡が入り、シオンとマダムを含めて屋敷内で集まることとなった。

「あの御者。吸血鬼が利用していた定期配給の運送係。2〜3年前から出入りしていた」

「え!しりあいだったの!?」

「いや。直接会ったことはない。いつもは荷物だけ置いていた。だが奴らから逃走中、鍵が空いていたあそこに飛び込んだ。奴らはやり過ごせたが吸血鬼に見つかった」

「ついてるとおもったけど、やっぱりついてないね」

「殺されると思ったが、何故か奥でハーブティーを出され身の上話までさせられた。それで奴らや金のことを話すと、手当たり次第に持ち物を押し付けられた」

「え?なにそれ?なんでそんなことしたの?」それにシオンは驚きの声を上げ、マダムと翠玲葉も困惑しながら顔を見合わせた。

「わからない。あいつも気味悪がった。すぐ帰ろうとしたが古本を発見、貴重本なら高く売れると言ってしまい、吸血鬼は少し考え来週新しい本を持ってこれるだけ持ってこいと伝えた」

「それを黒魔術に変え、彼に渡したのですね」

「警備隊と俺たちが動き一度は破棄しようとした。だが残りと回収された分も取り返し渡せと脅された」

「それでレーハちゃんとクルトまで、つれていっちゃったんだ」

「実は積み込み作業が終わった後、彼は私達に降りるように言ったのです。ですがおかしいと感じたクルトさんが中で待つと譲らず、彼は強引に馬車を出してしまったんです」

「お前らまで連れてくつもりはなかった、と言ってた」

「これから彼は、どうなるのでしょうか」

「・・・依頼は終わった。気にしても仕方ない」

「そうだよ!やっと終わったんだよ!報告書も日記も!」その言葉に翠玲葉が首を傾げ朱牙もそういえば小さくつぶやくと、マダムも大きく声を上げた

「あ!すっかり忘れていました!!」

「そんな!あれ、すっごいたいへんだったんだよ!!それにもっと早くこいって警備隊のみんなと、報告書書くの手伝ってくれたシルキーにもおこられちゃったし」そう言った瞬間、その場の空気が急に冷たくなりひどいプレッシャーを感じた。そして恐る恐るその方向を見ると、案の定怒りに体を震わせたマダムが両目を釣り上げてシオンを見下ろしていた。

「シオン、何が書いてあった。早く言え!」

「それがね。むずかしいことばばっかりで、なんかヘンになっちゃたんだ。だからわかるようにしといて、って警備隊の子にたのんだんだ」

「分かった。行ってくる」

「・・・え!おい待て!私も行く」そういうと二人はマダムの了承も得ずに慌てた様子で部屋を飛び出した。

「あ、ふたりともいっちゃった・・・。シュガって、やっぱりまじめだね」

「・・・シオン様」

「ほんとはさ、じをかくのもよむのもヘタなのに。いつもしらべながらむりばっかり!これじゃ、いつかたおれちゃうよ。ね、マダム?」

「何度言えば理解して頂けるのですか!!!シルキーに書かせないでください!!!」

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