屋敷の歴史 3
「・・・・・あ!それは、こっちの台詞です」一瞬誰だが分からなかったがよく見ると、彼は今朝と同じ深緑の外套を袖を通さず首にくくりつけており髪は黒く目は赤かった。急に開かれた3つ目の扉から数冊の本を小脇に抱えた出てきたのは、今朝見かけたあの青年だった。
しかし今はフードは被っておらず前髪も分けられていて、ようやく顔をはっきりと見ることができた。思っていたよりも赤い目は鋭くきつい印象だが顔立ちその物は地味で、口調や雰囲気から想像していたよりも少し幼く少年といったほうがよさそうだった。
「聞いたことに答えろ」彼は少しムッとした様子で問い返すと、後ろ手でそっと扉を閉め向き合った。おそらく怒っているわけではないのだろうが、きつい言い方で物理的に上からに見下ろされて翠玲葉はかなり威圧的な印象を受けた。せめてもう少し優しい言葉使いをしてくれれば良いのにな、と思わず眉をひそめた。
「調べたいことがあったので、彼女に案内を頼みました。そうですよね。・・・・え?」そう言って横を見たがもうあのシルキーは居いなかった。翠玲葉は少し焦って彼を見ると、彼は何か考えるようにただ静かに一点を見つめていた。
「ここで勝手に動くな。戻れなくなる」そしてそれだけ言うと何事もなかったかのようにかつかつと歩き出し、呼び止めるまもなくあっという間に横をするりと通り過ぎていった。
「信じてくれたのか・・・・・?」一連の行動に翠玲葉がどこかポカンとしていると、急に中で何かバタバタと慌ただしい音がした。
「おまたせしてすみません!さっきまで掃除をしてて、ちょっと埃っぽいかもしれませんけど」そう小柄なシルキーは詫びを入れると、外のことなど一切知らない様子で改めて翠玲葉に向き直った。
「どのような資料をお探しですか?」
「この街の歴史とフェアガーデン家のことが分かる資料を、120年前から見せてください」
「120年!?」翠玲葉がそういうと彼女は大声を上げ、そして恐る恐るといった様子で問い返した。
「あの・・・。その頃からだと、かなりの量になりますよ。読み終わるのに、どれだけかかかるか・・・。今日中には絶対無理ですよ」
「大丈夫です。全てお願いします」翠玲葉が毅然とした態度できっぱりと言い放つと、彼女は何か観念したようにため息をついた。
「・・・承知しました。でもさすがに一度に全部は持ってこれないので、新しいほうから10年ずつ持ってきますね。読み終わったら教えて下さい。次の分を持ってきます」
「お願いします」
「・・・あの。今更ですけど、それ意味わかりますか?」その言葉に翠玲葉が首を傾げると、彼女は慌てて体の前で両手を振りながら後ろに下がった。
「あ!いや!その・・・。そうじゃなくてですね。それ、昔の人間が書いたものなんですよ。だから持ってきておいてなんですけど、意味がわからないんじゃないかなって。こんな言葉遣い、今は街の老人達でもしないんで」
「大丈夫です。こういった文章は、何度か読んだことがあります。それより10年前は読み終わったので、早く新しい物を持ってきてください」
「そうですか・・・。はい、わかりました!そういうと彼女はそっと浮上し本棚の向こう側へと消えていった。
「・・・・・え!?嘘だ!」




