開門 4
「お預かりした外套は、ここにかけておきますね」
「しばらくしたら、リーダーとシオン様が来ると思います。そうしたら今後の生活について、幾つか説明があります」
「あ、でも心配しないでください。そんな難しい話じゃないですよ」
「シオン様の話はわかりにくいですが、リーダーがいるなら大丈夫ですよ」
「・・・ありがとうございます」
「かしこまらないでください。もっと砕けた口調で良いですよ」
「大丈夫です。それにここでは、この喋り方のほうが落ち着きます」
「そう、ですか・・・。わかりました!」
「あ、そうだ!せっかくだから髪も結い直しましょう。とりあえず座ってください。どんなのがいいですか?」
「・・・お任せします」翠玲葉は進められた椅子に座ると改めて部屋を見渡した。そこはベッドに小型ドレッサーという最低限の家具だけが用意されたシンプルな小部屋だった。てっきり外見通りの豪華な部屋に通されると思っていたので意外に感じていると、また取り囲むと意を決した様子で口を開いた。
「実は・・・部屋の用意、まだ出来ていないんです!」
「今、急いで用意してます!」
「だから、その・・・。しばらくは、この保護対象者用の部屋を使ってください」
「申し訳ございません!!」頭を下げながら再び明るい三重奏が響きたのを聞いて、彼女達の場合はばらばらになることのほうが普通ではないなのかもしれない、と思った。
「頭を上げてください。私の方こそ、手間をかけさせてしまいすみません。それに私は豪華な広い部屋よりも、こういった部屋のほうが落ち着きます」
「ありがとうございます!」そうやってまた一斉に頭を下げた3人に眉を下げた後、ずっと気になっていたことを口にした。
「ところで。今更ですが、『保護対象者』とは何ですか」そう言い終わった瞬間、3人はしばらく固まった。そして信じられないといった様子で顔を見合わせ、口早にあれやこれやと話し始めた。その様子を翠玲葉が黙って見ていると、ようやく話がまとまったようで一人が代表するようにすっと前に出てきた。
「『保護対象者』って言うのは、何か理由があって特別に屋敷に滞在を許可した方のことです」
「あ!でも、心配しないでください!」
「そんなに変な理由じゃないですから!!」
「スイレイハ様の場合は、警備隊から要請があったんです」意外な名前に翠玲葉は驚き小さく声を漏らすと、3人は慌てた様子でまた早口で喋りだした。
「スイレイハ様の聴取。後日になってしまったから、それまでしばらく預かってほしいって」
「そう、シュガさんから連絡があったんです。でもお出迎えの用意が終わったと思ったら、入居希望になってて・・・」
「それでみんな、ちょっと慌ててしまったんです」
「そう、でしたか・・・。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」
「あ、いや!そういう意味で言ったんじゃないんですよ!
「私達、すっごくうれしいかったんです!やっとシルキーらしいことが出来るって。シュガさんは身の回りのことは全部自分でやろうとするし、シオンはベテランじゃないとどうにもならないから、私達みたいな新人は関われないんです」
「それに!カルコスさんはたまにしか帰ってこないし、リーザお嬢様はもっと全然帰ってこない!」そう言って声を上げた彼女達を見て、あの二人以外にも住民がいるのだということに今更気がついた。
「そういえば、まだ入居の挨拶していませんでした。今からそのお二方に会えますか」そういうと3人は顔を見合わせ、困った様子でひそひそと話しはじめた。そして一斉に頭を下げた。
「ごめんなさい!今日は・・・・無理なんです!」
「その・・・実は、カルコスさんもリーザお嬢様もいないんです」
「住民は、その二人だけなのですか」
「はい!そうです!」彼女は元気よく答えたがそれに翠玲葉は複雑な表情を返し、思わずぽつりとつぶやいた。
「・・・あの二人だけで、本当にやっていけるのか」
「え?なんですか?」
「あ、いや・・・。ところでそのカルコスさんとリーザさんも、混生児なのですか」
「カルコスさんはそうです。ドワーフと人間の混血で、この街でトップクラスの鍛冶師です」
「入居歴も、今の住民の中では一番古いんですよ」
「でも何十年も前に工房を開いて、今はそっちを拠点にしているんです」
「えっと、最近だと・・・・・半年前、裏口の鍵の修理を頼んだときですね」その言葉に翠玲葉は驚き、その表情を見たシルキー達も驚いてしまったようだ。ドワーフとは小人族の一種で、文字通り人間の半分以下の背丈ながら立派な体格と怪力を持ち、高い鍛冶や石工の技術を有している。その能力を求める者は古来から種族問わず多かったが、無愛想で多種族とは交流が乏しい。そのため依頼することはもちろん、実際に受け入れたという話はとても珍しく思った。
「あの、どうしたんですか?私、なにか変なこと言いました!?」
「いいえ、大丈夫です。会えるとすれば、いつごろになりますか」
「そうですね・・・。呼べば来ると思います」
「でも今は忙しいから、来れないかも・・・」
「まあでも、多分来てくれます。義理堅いし」
「そうそう。見た目は怖くて口も悪いけど話せば分かってくれるし、意外と大人なだから慣れればきっと大丈夫ですよ」
「普段のシオン様と、依頼中以外のシュガさんよりずっと楽です!」最後の最後に余計なことを言われた気がしたが、それでも心配してくれていることは伝わったので、しっかりと心に留めておこうと決めた。
「それでは、リーザお嬢様というのは・・・」
「みんな、ボクだよ!レーハちゃんとおしゃべりしたいかられて!」
「あ、嘘でしょ!もう来たみたい!」
「結局、何も出来なかった!」
「でも、シオン様なら少し待たせても大丈夫じゃない?」
「そうね・・・・・。いや、シオン様でもやっぱりだめよ!それにリーダーもいるのよ!」
「ねえ、どうしたの?はやくいれてよ!」
「はい!お通りください!」
「レーハちゃん、ごめんね。ここせまいけどちょっとがまんしてね。すぐにもっといい部屋にするからね」
「・・・シオン様。早く始めましょう。スイレイハ様もよろしいですね」




