開門 2
「これはどういうことなのか、ご説明お願います」
先程のシルキーが消えた窓から、彼女より幾らか年嵩のシルキーが血相を変えて飛び出してきた。そしてその怒気の強めた声に翠玲葉は恐る恐る顔を上げると、思わず目を見開いて固まってしまった。
彼女はきちんとまとめた髪を振り乱しそうそうな勢いのまま一同の前に降り立つと、と教師が児童を叱るように目を吊り上げ詰め寄り、詰め寄られた朱牙はぐっと奥歯を噛み締めていた。
『・・・立て込んでた』
「言い訳は伺っていません!」そう彼女がぴしゃりと言い放つと朱牙は小さく唸り、シオンのほうをじっと強く睨みつけた。それにシオンは最初はその意味が分からないようで、不思議そうに首を傾げていた。しかし少しするとあっと声を上げて、両者の間に飛び込んだ。
「マダム。そんなにおこんないでよ。シュガだって、またにはミスするよ。それにレーハちゃん、びっくりしちゃってるよ。・・・ごめんね、レーハちゃん」
「・・・・・え。あ、はい」すっかりぼんやりしていた翠玲葉は、その声で急に現実に引き戻された。それをごまかそうと慌てて曖昧な返事をすると、シルキーは小さくあらと呟きながらぐっと近づきじっと翠玲葉の顔を覗き込んだ。
「マダム。どうしたの?レーハちゃんのカオ、なにかかついてるの?」そういってシオンまで覗き込むのでさすがに翠玲葉が顔をしかめると、マダムははっとして慌てて二人から距離を取り頭を下げた。
「・・・・申し訳ございません。大変失礼いたしました」
「あ、いえ・・・。頭を、上げてください」
「痛み入ります。改めまして。お初にお目にかかります。私はフェアガーデン家屋敷のシルキーでございます」そうして彼女は上品かつ丁寧に頭を下げるとにっこりと笑みを浮かべた。人間の使用人としても模範的な立ち振る舞いであったが、翠玲葉は驚いたように目を見開いた。そして何かに迷うように視線を左右に動かしていた。
「あ、そうだ!レーハちゃん。アイサツ!アイサツだよ。はやく、はやく!」
「・・・・・翠玲葉と言います。お世話に、なります・・・」シオンに言われるままに翠玲葉は緊張した様子で引きつった表情で告げると、控えめに頭を下げた。そして様子を伺うようにそっと視線を上げると、マダムはまあ良いかといういうように腕を組んで翠玲葉を見下ろしていた。
「『来るものは拒まず、何者であっても頼ってきた者に手を差し伸べる』それがジャスミン荘の原則です。しかし今回は、どういった経緯でご入居となったのですか?」
『シオン』翠玲葉がどう答えようか困って口ごもっていると、それは唐突に言い放ったれた。それに彼女は驚いた表情を取ったがすぐに案の定、というようななんとも言えない表情を浮かべた。
『シオン。勧誘した』
「うん。そうだよ。ねえ、いいでしょう?レーハちゃん。こんなおもしろそうな子ほかにはいないよ。おねがい。ナカマにしようよ」
『・・・説明。してない』そう告げるとバツが悪そうに顔をそらし、それに対し彼女が呆れたように大きくため息を付いた。
『・・・分かってる。責任ある。俺も同罪』そう告げるとマダムをまっすぐに見上げ、そしてすっと視線を翠玲葉に移した。
『・・・・・悪かった。色々』
「・・・え」その言葉に戸惑っているといつの間にかすぐ目の前にマダムがおり、真剣な表情で翠玲葉を見つめていた。
「スイレイハ様、改めて確認致します。貴女もご入居を望まれているのですか?」その言葉に翠玲葉が黙ってうなずくと、彼女は表情を変えぬまますっと離れた。そして一同を一瞥すると背筋を伸ばした。
「お話承りました。・・・スイレイハ様。私共は貴女を歓迎いたします」そこでようやく彼女は表情を緩め、そこで翠玲葉はやっと息を吐いた。しかし安心する間もなくシオンに腕を取られた。
「うん。さ、はやく行こう。レーハちゃん」
「・・・お待ち下さい」




