出会い 8
「勝手に話を進めないでください。先程から入居といっていますが、一体何処に入れというのいうのですか。全く分かりません」
「キミ、なにいってるの!ボクたち、けっこうユーメイだよ。ね?」そう言ってシオンが首をかしげ視線を向けると、向けられたシュガは呆れたようにため息をついた。
『そいつ。住民ではない』
「え?でも、いろいろはなしたんでしょ。だったら、ボクたちのこともしゃべったでしょう?」
『話しない』悪びれるでもなく淡々とした声が響き渡ると、シオンは大きく目を見開いていた。
「うそでしょ!?なんではなしてないの?」
『うるさい。大声。出すな』そう淡々と言い放つと大声を上げて詰め寄ってきたシオンからすっと後ろに身を引いて距離を取ろ、そして溜息をつくように小さく息を吐いた。
『訊かれたこと。答えた』
「シュガ!」訊かなかったわけではない、そう言おうとしたが翠玲葉よりもシオンのほうが動きが早かった。再びシオンが声を張り上げると、こちらもまた再び不愉快そうに表情を浮かべた。そしてシオンは先程以上に強く声を張り上げた。
「なんでおしえてくれなかったに!この子、ハーフエルフなんだよ。ほっといたらだめだよ!すぐにつれてこなきゃ!」
『危険性。緊急性。共に低い。逃走犯確保。優先』
「それでもさあ。なにかあるかもしれないじゃん!」
『・・・案内所。行かせた』
「案内所?キミも案内所にいたの?」
「え、ええ・・・。でも、どうして」
「やっぱりあそぼうよ!みんなで!パーとはでにやろう。いきぬき。いきぬきだよ!」まだ翠玲葉の言葉は終わっていなかった。しかしそれはシオンの高らかな宣言に遮られ、やはり不快そうに顔をしかめたシュガと目があった。
『ほっとけ。シオン。こういう奴』
「シュガひどい!ボク、ひどくないよ!」
「・・・・・ジャスミン荘?」
「そうだよ。フェアガーデン家のジャスミン荘」その瞬間翠玲葉から表情が消え、思わずかすれた声が漏れた。途中からシュガの淡々とした声が遠くに聞こえ始めた。そのとき翠玲葉は胸の中では様々な感情が駆け巡り、過ぎてなおも鮮明な光景が何度も浮かんでは消えていった。訊きたいこと、訊かなければならないことはまだたくさんあった。そのはずなのにどうしても声が出なかった。
『・・・知らないのか。本当に』その言葉にはっとして顔を上げると、シュガがまっすぐにこちらを見つめていた。しかしすぐに何やら気まずそうに顔をそらした。
『・・・ジャスミン荘。フェアガーデン家屋敷別宅。街唯一全種族入居可能下宿所』家賃賄えない住民。街の奉仕活動行う』
「つまりね。セイギのミカタだよ。わるい魔族をたくさんつかまえてね、ひどい目にあわせるんだ」
『なんでも屋。便利屋。そうも呼ばれる』
「・・・・・フェアガーデン家は没落したのか?」険しい表情の翠玲葉とは裏腹にシオンはキョトンと大きく首を傾げ、シュガもわずかに目を見開き固まった。
「え?・・・ボツラクってなに?」そのシオンの予想外の言葉に翠玲葉がとっさ反応できずにいると、淡々とした声だけがその場に響いた。
『数十年前。政治的権力放棄。自治権、住民に譲渡。だが。今も多数土地所持。街の顔役。有力者の一角』
「・・・信じられない。本家がそんな真似許すはずがない」
「チョウロウ?・・・・・あ、もしかして!それってグレイスがきらってる、あのめんどうくさいおじいちゃんおばあちゃんのこと?」
『詳しいこと。知らない』そこで大きく息を吐くのが聞こえた。それに翠玲葉ははっとして顔を上げると、鋭く細められたわずかに揺れる赤い目に射抜かれた。
『昔は・・・・・昔だ』
「そうだよ。すっごくいいところだよ!だからいっしょにがんばろう!キミがひつようなんだよ!」
「お前。何故・・・」それ以上は声がかすれて言葉にならず、全てから目をそむけるようにそっと顔を伏せた。
「そうだ、シュガ。シュガからもなんかいってよ!」
『好きにしろ。どっちでも良い』
「ちょっと!そんなこといわないでよ!」
「昔は昔、か・・・」そんな二人のやり取りを遠くに聞きながら、翠玲葉はポツリとつぶやいた。そうやって簡単に切り離すことは出来ない。そうするにはまだ心の整理がついていない。だが、今は・・・
「・・・・・分かりました」翠玲葉は神妙な表情で重々しく吐き出すと、その言葉にシオンは素直に歓声を上げて喜んだでいた。一方はその隣は鋭く細めじっとこちらを見つめた。
『良いのか』その鋭い視線に翠玲葉はとっさに目をそらそうとしたが、寸前で踏みとどまり黙ってうなずいた。
『・・・朱牙。俺の名前』
「それじゃふたりともいこう!ついてきて。こっちだよ」




