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出会い 6

「そんなこわいカオしないでよ。そこそこかわいいカオなのに」怒らせようとしているとしか思えない失礼な言葉に、翠玲葉は眉をより潜めた。そして強引に腕を振りほどき、シオンを睨みながら距離を取った。

「お前何をした!目的はなんだ!」

「モクテキ・・・?」この子供のような一見無邪気でマイペースな態度に、普通の人間ならば流されるのだろうなと翠玲葉ははっきりと思った。しかしこの青年は心を許しては行けないタイプだと確信し、冷静にならなければ息を吐いた。

「それなら教えて下さい。先程の術は黒魔術ですか」

「ちがうよ。つかえるわけないじゃん。・・・・・魔族のチカラなんて」その瞬間、彼の瞳から光が消えていた。そしてその声はぞっとするほど冷たく、なにより憎悪に満ちていた。先ほど怒りを溢れさせた朱牙よりも深く、遥かにおぞましく感じた。

「・・・・・ま、そんなのどうでもいいじゃん」しかしそのときには瞳の光は戻っており、言葉どおり親しげに歩み寄ってきた。何が触れてはならないところに触れたのだろうか、そして変わり身が早すぎやしないかと困惑した。

「あれはね、ボクのママの力だよ。ボクのママ、人魚なんだ。すっごいキレイでうたもすっごいじょうずなんだよ!いまはバラバラだけど、いつかまたゼッタイにふたりでくらすんだ!!・・・しんじてくれないの?」

 翠玲葉は黙ってそっとうなずいた。人魚とは上半身の一部が鱗に覆われた人間、下半身が魚の姿をした亜人族の一種である。生息数だけなら珍しい種族ではないが海中生活を中心としているため、人間達が目にすることは珍しくそれは時折海上に姿を現し歌声を披露するときぐらいである。

 しかしどれだけ歌が美しく素晴らしくても絶対に耳を傾けてはならない。なぜなら人魚に魅せられた者の魂は永遠に海底に繋がれて、浮かんでくるのは体のみだから。

 実際人魚の声や歌は種族問わず他者を惹きつけ、海難事故の死亡率が高い地域ではその直前に歌を聞いたと証言する者が多かったと言う。それ故未だに海を生業とする者たちは人魚を嫌い意図的に避ける者達も多いらしく、好かれている種族ではなかったはずだ。

 翠玲葉が以前読んだ文章と思い出していると彼は急に靴を脱ぎ捨てズボンを巻き上げると、満面の笑みを浮かべながら翠玲葉に向かって脚を伸ばしてきた。反射的に後ろに下がってかわした恐る恐る確認すると、そこには人の足ではなく魚の尾びれが生え膝あたりから入れ墨のようにびっしりと鱗模様があった。確かにそれは人魚のようだったが、そうだとするならばおそらく彼も・・・

「いや、それはどうでも良い。・・・それより答えてください。何故私を連れてきたのですか」

「そんなのきまってるじゃん。キミとおしゃべりしたかったからだよ」翠玲葉が硬い口調で問いかけると固唾を呑んでシオンの返答を待っていた。しかしその返答は意外すぎた。そのためなんと返せば良いのかわからず口ごもったが、シオンは全く構わず少々興奮した様子で再び話し始めた。

「だってさ、シュガがしらない子とおしゃべりするなんでめずらしいもん。いつもならはじめてあった子にはスゴイぴりぴりしてるのに、あんなふうにしてるのはじめてだよ。きっとキミ、フツーの子じゃないよね?」そういうとぐっと距離を詰めてきてじっと見つめたあと、あっと小さく声を出した。

「・・・・あ、そっか。わかった!キミ、エルフなんだ!ボク、はじめてなんだ!へえ・・・でも、なんかおもったよりフツーだね。たしかエルフのみみって、はっぱみたいでながいんだよね。でもキミははっぱだけど、ちょっとみただけじゃわからないね」

「・・・私は、エルフと人間の混血です」

「もっとすごい!それじゃやっぱりぴったりだ!・・・。あれ、なにができるんだっけ?ねえキミ、なにができるの?」

「基本魔術と、あとは・・・。って、違う!私のことはどうでも良いだろう!」

「そんなことないよ。だって、キミはトクベツだもん!」

「違う!」翠玲葉が急に大声を上げて詰め寄ると、シオンは目を見開いて驚き流石に黙った。

 エルフは自然物から発せられるエネルギーを生命力とする妖精族の一種で、魔族以上に高い魔力を持ち不老長寿で多種多様な魔術を行使し、先の尖った長い耳を持つ以外は人間とよく似た容姿をしている。しかしこの世界でも非常に有名な種族でありながら現在は定住地域を持たず遭遇は困難、それ故その存在は事実と想像が混同されている。

 そのとおりである。翠玲葉はそれを身を持って知っている。

「私の力なんて、大したこと・・・」

『見つけた。お前。何考えてる』

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