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森のレクイエム  作者: 長月京子
一:森は歌う
9/22

9:くりかえし

 数日が過ぎて、再びじいちゃんが桃を片手にやってきた。夕暮れ時で、黄昏の暖かな光がけだるく帳を下ろす。森では、変わらずゆるい涼風が吹いているようだ。


「じいちゃん、また来てくれたの? 小夜子さんは買い物にいってるけど。……悠兄を呼んでくる」


 じいちゃんを部屋へ促してから、奥の部屋へいこうとすると腕をつかまれた。痩せた手が僕をとめる。


「じいちゃん」

「お前は悠の演技につき合っているのか」

「え?」


 しばらく見あったまま、黙りこむ。静寂の中に時計の秒針が響いて、時が止まらないことを告げていた。

 そこに扉の開く音がする。悠兄が顔をだしたのだ。


「なんだ、じいちゃんか」

「悠兄」


 彼は歩み寄ってきて、玄関の方を向いたまま続けた。


「小夜子がなかなか帰ってこないな。俺、ちょっと迎えにいってくる。じいちゃん、戻ってくるまでゆっくりしていてくれよ」

 いつか、聞いたことのある台詞だった。あれは、いつのことだろう。

「悠」


 鏡の砕けるような、大きな声が響いた。


「いい加減に目を醒ませ」

「どうしたんだよ、じいちゃん」


 悠兄を睨む厳しい瞳の中に、わずかに哀しみが揺らめいていた。


「とにかく、俺は行ってくるから。すぐ帰ってくるよ」


 悠兄は戸惑い、逃げだすように玄関へ向かった。部屋から消える背中が、なぜか遠く小さい。じいちゃんは表情をゆるめ、哀しそうに僕を見た。


「……ついていってやれ、貴史」

「あ、うん」


 突っ立っていた僕を促して、じいちゃんはソファに深く沈みこむ。

 玄関へ向かうと、悠兄はすでに外へでていた。

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