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森のレクイエム  作者: 長月京子
二:森に眠る

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13/22

13:花火

 光沢を放つ小さな箱が、手の中にある。小さな指輪が中から顔を出した。澄明に煌めく、美しく切り込まれた石。再び箱を閉じて、デスクの引き出しにしまう。

 小夜子に受け取ってもらいたい。そんな事は、叶わぬ夢だろうか。


「悠兄、ご飯だって。すごい御馳走だよ。早く」


 仕事部屋の扉を開け放ち、貴史がはしゃいだ声を上げた。促されて食卓のある部屋へ入ると、料理が華やかに顔を並べている。席について、小夜子に目を向けた。


――一緒になろう。


 彼女が拒むのは、目に見えている。絶対に首を縦には振らないだろう。小夜子はいつまでも気付かないのだろうか。

 俺にとって、何が一番幸せであるかを。


「悠」


 凛とした声に呼ばれて我に返った。小夜子が睨んでいる。黒硝子のように、澄んだ瞳。


「物語を考えるのもいいけど、美味しいとか、何か言う事はないの。そんな怖い顔してられちゃ美味しいご飯もまずくなるじゃない」

「話を考えている訳じゃないよ」


 お前の事を考えているとは、言えなかった。隣の貴史も窺うように俺の顔を見ている。


「どうしたの?」


 答えようとすると、彼女自身がそれを遮った。取り繕ったように、話題を変えるのだ。


「そうだ、貴史君。後で花火をしましょう。私、用意したのよ」

「あ、うん」


 二人の会話を聞きながら、目の前に並んでいる料理に手を伸ばした。そのまま、勢いよく口に頬張る。

 小夜子の手料理。それだけで、知らずに目頭が熱くなっていた。


 夕食を終えてから、花火を持って表へ出た。

 樹々の合間から覗く空は、気が遠くなるほど彼方に見える。凍てついた星は高く、今にも零れ落ちて来そうに瞬いていた。


 バケツに水を汲み、花火に火を点ける。シュッと言う微かな音の後で、激しい光の滝が舞い散った。蒼白い閃光に照らされる小夜子の顔は、作り物のように見える。


 言い出せずにいる言葉。

 口にしようとする度に、小夜子が身を堅くするのが分かった。

 最後の花火が灰に変わる。立ち上がった俺を、貴史が大きな瞳で仰ぐ。


「――仕事を始めるから」


 絵本に取り掛かるため、部屋に戻った。

 俺と小夜子は、同じ事を恐れているのかもしれない。

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