13:花火
光沢を放つ小さな箱が、手の中にある。小さな指輪が中から顔を出した。澄明に煌めく、美しく切り込まれた石。再び箱を閉じて、デスクの引き出しにしまう。
小夜子に受け取ってもらいたい。そんな事は、叶わぬ夢だろうか。
「悠兄、ご飯だって。すごい御馳走だよ。早く」
仕事部屋の扉を開け放ち、貴史がはしゃいだ声を上げた。促されて食卓のある部屋へ入ると、料理が華やかに顔を並べている。席について、小夜子に目を向けた。
――一緒になろう。
彼女が拒むのは、目に見えている。絶対に首を縦には振らないだろう。小夜子はいつまでも気付かないのだろうか。
俺にとって、何が一番幸せであるかを。
「悠」
凛とした声に呼ばれて我に返った。小夜子が睨んでいる。黒硝子のように、澄んだ瞳。
「物語を考えるのもいいけど、美味しいとか、何か言う事はないの。そんな怖い顔してられちゃ美味しいご飯もまずくなるじゃない」
「話を考えている訳じゃないよ」
お前の事を考えているとは、言えなかった。隣の貴史も窺うように俺の顔を見ている。
「どうしたの?」
答えようとすると、彼女自身がそれを遮った。取り繕ったように、話題を変えるのだ。
「そうだ、貴史君。後で花火をしましょう。私、用意したのよ」
「あ、うん」
二人の会話を聞きながら、目の前に並んでいる料理に手を伸ばした。そのまま、勢いよく口に頬張る。
小夜子の手料理。それだけで、知らずに目頭が熱くなっていた。
夕食を終えてから、花火を持って表へ出た。
樹々の合間から覗く空は、気が遠くなるほど彼方に見える。凍てついた星は高く、今にも零れ落ちて来そうに瞬いていた。
バケツに水を汲み、花火に火を点ける。シュッと言う微かな音の後で、激しい光の滝が舞い散った。蒼白い閃光に照らされる小夜子の顔は、作り物のように見える。
言い出せずにいる言葉。
口にしようとする度に、小夜子が身を堅くするのが分かった。
最後の花火が灰に変わる。立ち上がった俺を、貴史が大きな瞳で仰ぐ。
「――仕事を始めるから」
絵本に取り掛かるため、部屋に戻った。
俺と小夜子は、同じ事を恐れているのかもしれない。




