3. 10年前ー現代 ~ 首輪のカヴァティーナ ~
こうして、いくつもの角を曲がり、細道を抜け……、3人は、とある空き家にたどり着いた。
「アオ、アオーーーン!!!」
「クーン……」
昭野の呼び掛けに応じるように、塀の中から聞こえるのは。
「ポチの声だ!」
一瞬喜んだ少女だったが、すぐに困ったことに気づいた。
――― どうやらポチは、塀の隙間から中に入り込み、出られなくなってしまったようなのだ。
「どうしよう……」 再びベソをかきかける少女に、静那は 「大丈夫よ」 と声を掛けた。 ……そして。
ビシビシビシビシビシっ……!!
「キュウンキュウンキュウン……!」
何度も鞭がひらめき、昭野が気持ち良さそうに悲鳴をあげる……!
「 お い き ! 」
「アオ、アオーーーン!!!」
静那の号令に従い、昭野はブロック塀に何度も体当たりした。
その度に、緋色の縄で縛られた肉体に、打撲傷や擦傷が増えていくのだが……
静那の命令に従った結果と思えば、それすらも、昭野にとっては快感なのだ……!
数十分後。
ついに、塀が、崩れた。
「ポチーーー!!!」
「アン、アンッ! アーーーン」
少女とポチとの感動の再会を、静那と昭野は優しく見守ったのだった。
――― 昭野は舌をダラリと垂らしてハァハァしながら。
そして静那は、そんな昭野に傷薬を塗ってやりながら。
§∧§∧§∧§§∧§∧§∧§
……あれから、10年。
舞台の上では、女王・シヅルが客に処刑参加記念の首輪を投げつけている。
静那は、その様をじっと眺めながら、しみじみと呟いた。
「あの時のあなたは、本当に素晴らしいワンちゃんだったわ」
「あの時の静那様は……常にも増して美しかったです……」
「な ん で す っ て ?」
ぐりぐりぐり、と念を入れて昭野の頭を踏みつける、静那。
「ううッ……」
えもいわれぬ快感に、昭野は身をよじり、呻き声をあげる。
「いえ、今もますます、お美しいです……っ!」
「 当 然 よ 」
にんまりと唇を歪め、静那は再び舞台に目を注いだ。 ……御褒美に、明日の弁当のハバネロ唐辛子は2倍にしてあげよう、と考えながら。
――― あの少女に会ったのは、静那と昭野が、入籍した日。
もともと入籍にはさほど興味の無かった静那だが、昭野が余りにも上手に卑屈に頼み込むので、ふたりで市役所へ向かうこととなったのだった。
……それはそれで、今となっては良い思い出だ。
けれども、本当は、戸籍なんかよりももっと大切なことがある…… と、静那は思っている。
「いいこと、お嬢ちゃん」
無事にポチと出会えて喜ぶ少女に、静那は言い聞かせた。
「首輪というのは、首ではなく、心に付けるものなのよ」
「―――!」
「そうすれば、二度とその子も逃げ出したりなんてしないわ」
「―――! はい!!」
少女は、ポチをぎゅっと抱きしめて、深々とうなずいたのだった。 ―――
「さぁ、御褒美よ!」
舞台の上では、首輪を口に咥えて戻ってきた客に、 『女王』 シヅルが再び鞭をふるっている。
「上手に取ってこれたわね?」
「…………ひっひぃぃっ! 痛ひけど、気持ちイイですぅ……!!」
劇場中に響き渡る客の声に、座席のあちこちで男たちがモゾモゾと羨ましげに身をゆする。
スポットライトが照らし出すのは、シヅルの、蔑みと快楽の入り交じったサディスティックな笑顔。
「…………」
その笑顔にあの少女の笑顔を重ね、静那はそっと、微笑んだ。
あの時、静那を見上げていた瞳は、このスポットライトに負けない程、キラキラと輝いていたのだ……。
(まさか、あの子がここにいるわけはないでしょうけど……)
――― あの少女が大切なものに逃げられることは、きっと、もう2度と無いだろう ―――
制作:秋の桜子さま
2020/5/21秋の桜子さまより挿し絵いただきました!
秋の桜子さま、ありがとうございます!
キャラはこちらのキャラメーカーで作成したそうです。
『Picrewの「女の子に負けたい男メーカー」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=6UcLdADhvP #Picrew #女の子に負けたい男メーカー』