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大地

 



「あんたってホントに猫が好きなんだな。ほら、次の店に行くぞ」


 私は今、アカさんとソラを連れて街中を歩いてる。

 風吹に買い物に行くと連れ出されたのだ。

 1人で同行するつもりだったが、アカさんとソラに猛反発をくらった。


「しかし、改めて見ると車ってすごいな」

「はぁ? あんた確か外国の人なんだってね。あんたの国には車がないの?」

「……なかったな」

「どんだけ田舎なんだよ」


 親分さんには遠い国からやって来ていると苦しい説明をしていたが、追求はされなかった。


『アカさん、魔道で動く車って作れないかな?』

『理論的には出来るで。でも、あかん。あそこまで精密に鋼材を細工する技術があらへんわ』

『リクは魔道のことばかりにゃ』


 側から見れば猫と戯れてる私を、突然風吹が覗き込んでくる。


「あんたって髪は黒いのに目は琥珀色なんだな。そういえばいくつなんだっけ?」

「いくつ?」

「はぁ、歳だよ歳」


 風吹は片手を額に置くと大袈裟なため息をつく。


「あぁ、歳か。確か126――」

「126!?」


 危ない。元いた世界での年齢を話すところだった。

 この世界が1年365日に対して元いた世界は1年98日。

 計算すると……。


「いや、34歳ぐらいだ」

「ぐらいってなんだよ。あんたと話してると別世界の人間と話してる気分になるよ」


 思わぬ図星に私とアカさん、ソラはピクリと体を強張らせてしまう。

 確かこの世界の書物にも「女の勘は鋭い」と書いてあった。


「風吹は歳はいくつなんだ?」

「 オレは21だよ。ガキだと思ってなめんなよ!」


 少し照れたようにそっぽ向く風吹。

 意外とすぐに照れる女だ。

 ちなみに呼び捨てで呼んでいるのにも理由がある。

 初めて「風吹さん」と呼んだ時、「馬鹿、さん付けなんて気持ち悪い。白里。いや、風吹でいいよ」とぶっきらぼうに言われたからだ。


 最初の印象では嫌われているものと思っていたが、それは風吹が強がる性格だっただけ。親分さんが世話人と選んだだけあって面倒見はいい。




「さっ、ついた。ここで好きなの選びな。心配するなって。叔父さんからたんまり金は貰ってるんだから」


 連れてこられたのは服屋。

 本で見たような様々な洋服が所狭しと飾られている。

 普段着ている作務衣で十分なのだが。

 作務衣は元の世界の服とも似ており、動きやすく密着が少ない。

 初めてあった時の格好を見て親分さんが用意してくれたものだ。


 風吹は様々な服を持ってきては「身長があるんだからこれが似合う」だの「細身なんだからもっとピッチリしててもいいな」など、世話をやいてくる。


 沢山の服や書物を買い、帰途につくと『リクはいいにゃ。あちきには何にもなしにゃ』とソラがふてくされていた。





 それから2日後の夜。

 私の身体を異変が襲う。

 妙に体が熱く、呼吸が荒い。立とうとすると腰が砕け力が入らない。

 体調を戻そうと魔塵粒子を循環させるが思い通りにはいかず、むしろ意識が遠くなる。

 まるで誰かに呪いをかけられたようだ。


 私はアカさんに念波を飛ばすことも出来ず、うつ伏せのまま意識を失った。










 額に冷たい感触を覚えて目を開ける。

 多少体が怠いが、あの体を蝕む辛さは去っていた。


「おっ、起きたか? まったく風邪くらいで軟弱なヤツだな」


 私の枕元に座っていたのは風吹だった。

 布団の上にアカさんがピョンと飛び乗ってくる。


『おぉ、リクやん目ぇ覚めたか? ビックリしたで。まさかこの世界の病にかかってまうなんて。あの姉ちゃんもめちゃくちゃ焦っとったで』

『病?』

『この世界では一般的な病気なんやけど、リクやんには抗体があらへんかったからな。ちょっと重い症状になったんやろ。でももう大丈夫やで。その分薬の効きも凄うてな、医者も驚いとったわ』


 そうか、この世界の病にかかったのか。

 しかし魔道ではどうにもならないとは侮れない。


 顔を横に向け風吹を窺うと、目の下にはクマができ少しやつれて見える。

 寝ずに私を見ていてくれたのかもしれない。

 ふと、私の着ている服が変わっているのに気付く。

 再び風吹を見ると私の視線に気づいたのか、少し顔を赤らめてしまう。


「あんたが汗かいてたから拭いて着替えさせただけ。……あんたの体見たけど、すごいな」


 風吹につられて自分の体を見る。

 自分では標準ぐらいだと思っていたが、この世界の平均に比べると大きいのだろうか?


「それ、私の知ってる入れ墨とはまた違う。あんたの国の入れ墨なの?」


 私の勘違いのようだ。

 入れ墨……確か親分さんや海斗の体に彫り込まれた絵のことだ。

 私の体にも魔道を効率的に使う為に、呪符に書かれる文字を大量に彫り込んでいる。

 親分さんや海斗のような芸術性は無いが、魔道にとっては最高傑作だと自負している。


「あぁ、私の国では紋様に力が宿るといわれているからな。風吹がずっと看病してくれたのか? ありがとう」

「べ、別にオレは世話役を任されたからしただけだ。それに……あんたは大地(だいち)にちょっと雰囲気が似てるから……」


 しりすぼみに小さくなる声。

 大地に似ているとか言ってたが。


「大地ってのは?」

「……2ヶ月前にいなくなったオレの許嫁さ。まったく今はどこでなにしてるんだか」


 2ヶ月前という言葉が妙に引っかかる。

 アカさんを見ると顔を背けられた。


「その大地はーー」

「なんでもない、忘れてくれ。あんたもう大丈夫だろ? オレももう休むからな」


 風吹は私の言葉を遮って出て行ってしまった。


『ワイもそろそろ』と逃げるアカさんの首根っこを掴みあげる。


『心当たりがあるんだろ?』

『リクが寝てる間にフーちゃんが色々喋ってたにゃ』


 アカさんは観念したかのように話始めた。


 私が倒れたあと風吹は血相を変えて医者を呼んだ。

 診察を終え、ただの風邪だと判断されてもずっと看病を続けたらしい。

 その時に口に出していたのが大地のことだったそうだ。


「不思議だな。あんたを見てると大地を思い出す」

「どうしてどこかに行っちまったんだ」

「大地が居なくなって、オレはどうすればいいんだ?」


 そんな答えの返ってこない投げかけから、少しづつ思い出にまつわる話をこぼしはじめた。

 ある程度アカさんやソラの推測も入るが、2ヶ月前。風吹の許嫁である大地が突然いなくなった。

 大地は親分さんも信頼する若手の出世頭。

 街中に仕事に行くと出て、忽然と姿を消した。


 その行方を探していた海斗が、情報を得る為に敵対会社に殴り込み、返り討ちにあったのを助けたのが私たちだ。


『つまりなリクやん。あくまで可能性の話やで。可能性的に大地は、リクやんと入れ替わってるかもしれへん』


 風吹が言うには私と雰囲気の似る大地。

 そっくりそのまま入れ替える瞬間移動(テレポート)。必要な同じ質量、体積、密度。


 無意識に大きなため息をついてしまう。


瞬間移動(テレポート)の座標が、その大地って人間だったと』

『大地かどうかは分からへんけど、リクやんの代わりに1人の男があっちの世界にいってるのは確定や。まぁ、その……』


 今まで気にして無かったが、アカさんは私の消えた世界の事も世界の記憶(アカシックレコード)によって知っていたはずだ。

 いくらフォローしないアカさんでも覗かないとは思えない。


『アカさん、なんで言わなかった』

『……リクやん気にせぇへんタイプやんか。あとな……その男を保護したんは』

『……ミズリーか』


 アカさんが申し訳なさそうに頷く。

 かつてのライバルだった魔女――ミズリー。


 私は力なく天を仰ぎ見るのだった。




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