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分岐点

 

 この世界にきて2回目の朝を迎えた。

 魔塵粒子の回復につとめる為にアカさん召喚を押さえているのだが、未だに全快には程遠い。

 移動時に多少の魔道を使っているのもあるが、ようやく4割ぐらいだろうか。



 この世界では植物が魔塵粒子を排出しているのに気づき、遠くに見える緑豊かな山を目掛けて移動しているのだが、中々辿りつかない。

 いっそのこと残りの魔塵粒子を身体強化に使って走ろうかとも思ったのだが、それはソラに止められた。


「この世界に高速で動く人間はいないにゃ。注目を浴びたら何をされるか分からないにゃ」

「まぁ、一理あるか」


 少しずつ分かって来たのだが、この世界では魔道は感知されておらず、別の何かが発展している。

 光と金属文明とでもいうのか、精密な加工が施された物が多々ある。

 ここに来て最初に見た動く巨大な金属や、光を放つ塔などが最たる例だ。


 そんな所で規格外の人間が目撃されれば危険視扱いされて、拘束されてしまうかもしれない。

 戦闘に勝つ自信はあるが、何せ現地人達の数は物凄い。

 現地人の戦闘能力もわからないまま多勢を相手取れば、たちまち魔塵粒子は尽きてしまうだろう。


 私に向けられる好奇の目が嫌だったので消費の少ない隠密魔道(ステルス)を使っているのだが、この世界ではそれほど効果はないようだ。

 もともと体内の魔塵粒子の流れを外の魔塵粒子に合わせることで見えにくくする魔道なのだが、どうやら現地人は魔塵粒子に疎いらしく、私に気づき視線を向ける者がチラホラいる。

 だからといって何かされるわけでは無いので我慢しておこう。


 そんな事を考えていると、私のお腹が鳴り響く。

 ここに来てから何も食べてないからだ。


「お腹減ったにゃ? いい加減諦めて盗ってくればいいにゃ」

「断る」


 はっきりと断言するも、音は鳴り止まない。

 ソラはその小さな身を使って食糧を調達している。

 食べ物らしき物が立ち並ぶ店を素通りすると何かを咥えているのだ。


 恐らくこの世界でも通貨によって買い物をするのは想像するに易しい。

 だが言葉も分からず、通貨も持たない私は買うことが出来ない。

 そこでソラは盗ってしまえと言うのだが、それは私のポリシーに反する。

『自分の信念を曲げる事は、魔道をも曲げる事になる』とは師匠の言葉だ。

 あの山にさえ辿り着けば、きっと食べる物がある! そう言ってソラの案を突っぱねて来たのだ。


「無理してもいい事ないにゃ。なんならあちきが盗ってきてやろかにゃ?」

「結構だ」


 そんなソラは私に抱き抱えられている。魔獣のくせに体力が無いのだ。

 動きはそれなりに俊敏なのだが、しばらく動くと尻尾をダラリと下げて座ってしまう。

 結局距離が稼げないので私が抱えて歩くしかない。

 これも魔道の発展(ソラで実験)の為だと思い我慢しているが、ソラは気楽なものである。


 もう1つ気づいたことがある。

 魔獣と思っていたソラだが、どうやらただの愛玩動物のようだ。

 数こそ少ないが、ソラと同じ動物を何度か見かけた。

 その全てが現地人に可愛がられている姿を見て分かった事だ。

 他にも2回りほど大きな四足歩行の動物もいた。

 もしかすると魔獣などいない平和な世界なのかもしれない。




 そびえ立つ塔も少なくなり、人が住んでいるだろう建物が幾分少なくなってきた頃、ポツリポツリと何かが落ちてきた。


「雨にゃ。ここでも雨は降るんだにゃ」

「直に激しく降りそうだな」


 地面が色を変え出すと、雨音が大きくなっていく。

 私は近くにあった口が大きく開いた小さな建物に駆け込んだ。


「にゃあ、毛がベチョベチョにゃ」

「ったく」


 仕方なく私の膝にソラを乗せ外套で拭いてやるのだが、「にゃお、にゃ、そ、そこはダメにゃ」などと鳴き散らす。


「も、もういいにゃ」


 拭きかけだったソラは膝から飛び降りると、水分を飛ばすように身体を震わせる。

 出来るのなら最初からしてほしいものだ。


「雨は嫌にゃ。リクの魔道で何とか出来ないかにゃ?」

「いつもなら雲ごと吹き飛ばすんだが、今の状態ではしたくないな」

「……冗談にゃ」


 雨は降り続き私たちが建物から出れずにいると、低く鳴り響く音をたて、大きな物体が目の前で止まる。

 これは現地人が乗り込んでいる移動式鋼製箱の大型版だ。


 ソラは毛を逆立てて肩に乗り、私もまた身構える。

 今まで鋼製箱が私たちの近くで止まることなどなかったのだ。

 プシューと空気が抜けるような音がすると扉が開く。


 中にいた帽子をかぶった現地人が「※◯×〜%☆⁑※?」と喋りかけて来るのだが、当然意味は分からない。

 敵意や殺気は感じないので、何かを私に聞いているのだろう。

 私が無意識に手を顔の前で振ると、現地人はどこか納得した顔をする。

 再び音と共に扉がしまり、移動式鋼製箱は動き出した。


「何だったのかにゃ? もしかしたらにょ()れって言ってたのかにゃ?」

「かもしれないな。乗ってみるのも一興だったかもな」

「あちきはごめんにゃ」


 私にとっては好奇心をくすぐる事件だったのだが、ソラはそうでもないようだ。

 雨が止まずに更に時間が過ぎると、再び移動式鋼製箱が目の前で止まる。


 先程の現地人とはまた違う人間だが、同じように分からぬ言葉を発し、やはり私が手を横に振ると再び走り出す。


「もしかしたらここは馬車の待合所みたいな建物かもしれないな」

「あれは馬車ってことかにゃ?」

「多分な。中には現地人が何人か乗っていただろ? 乗り合わせて移動しているとみれば、馬車と同じと考えておかしくはないだろ?」

「なるほどにゃ。じゃあ次は乗ってみるかにゃ?」


 乗ってみたくはあるが、あくまで推測。

 何より馬車と同じなら通貨が必要な可能性が高い。

 残念だが、まだ情報が全然足りないまま行動するのはまずいだろう。


 すでに辺りは暗くなっている。

 至る所にある発光体のお陰で歩くことに影響はないが、寝床を確保しなければならない。


 ここは雨も凌げる良い場所だが、時間毎に移動式鋼製箱が来るのではゆっくりもしていられない。


「ソラ、行くぞ」


 小雨になった事を確認して、建物をあとにした。

 雨のあたらぬ場所を探していると、ふと遠くから騒がしい声が聞こえてきた。


 何やら争っているようだ。

 現地人達の争いに首を突っ込むつもりは無かったが、遠目で見えたのは一対多数だ。


 普段から一対多数を味わう私にとっては、見過ごすことは出来ない。


「もしかして助かるつもりかにゃ? やめとくにゃ。ろくなことにならないにゃ」


 私はソラの発言を抑えて争いに身を投じるのだが……まさかこれが大きなターニングポイントになるとは知る由もなかった。






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