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知覚連結

「――ロゼ? ロゼ、聞こえる? ロゼっ!!」


 マユハの叫びが聞こえ、わたしは覚醒した。

 いつの間にか、半ば意識を失っていたらしい。


「あ、ああ。ごめん、大丈夫よ」


「女王……?」


「ええ、接触して来たわ。君の方こそ、大丈夫なの?」


 青白い顔でマユハはうなづく。

 微笑んではいるが、相当無理をしているようだ。


「ファウンダーの悪あがきか。僕はしっかり鍵をかけているから、問題ないけどね」


「行程は順調なの? フレイ」


「機器は正常、敵影もなし。あと三回も跳躍すればガメリア大陸に到達だよ!」


 フレイの浮ついた口調に神経が苛まれる。

 胸元を冷たい汗が流れ落ちた。とても嫌な感じだ。

 

「ロゼ……いるよ。待ち構えている」


 浅い呼吸をしつつ、マユハはどこか前方を睨んでいた。

 言葉の意味はあえて確かめるまでもない。

 

 そうこうするうちに、ピースメイカーは何度目かの降下を行なった。


「跳躍する」


 大気に下腹を擦りつけ、ピースメイカーは機首を持ち上げた。

 座席に身体がずっしりと沈み込む。降下から上昇への切り替わりだ。

 ピースメイカーはふたたび上昇し、跳躍の最高到達点へと――


「な……っ? なんだ、あれはっ!?」


 愕然としている、フレイ。

 己の能力を過信するからこうなるのだ。


「くそっ、ボルド中佐、敵集団だ!! 成層圏より上方にマガツの群れがっ!!」


 フレイは機器類に感覚を直結しているが、こちらはそうではない。

 窓もない搭乗モジュールからは外界の様子などわからない。

 

 だが、フレイの慌てぶりからして彼の対応能力を越える事態になったことは、はっきりしていた。

 

 機体が揺すられ、警告灯が点く。

 撃たれているらしい。

 

「ちくしょう、つるべ撃ちだっ! な、なんで、こんな……っ!?」

 

 しょせん、彼は知識や操縦方法を知っているだけで、体得しているわけではない。

 おまけに実戦の修羅場をくぐった経験もないだろう。

 

 オペレーターとして優秀であることと、操縦者として優秀であることはまったく異なるのだ。


「――フレイ、操縦をわたしに寄越しなさい」


「はぁっ!? き、君は外の様子さえわからないのに、何を――」


「君がわたしに情報を渡せばいいのよ! フレイヤにできたことが、君はできないわけっ?」


 フレイは機体や観測機器からの得た情報を知覚連結している。

 つまりピースメイカー、いや搭乗モジュールにはPLSが搭載されているのだ。


「いや――しかし、中佐へ接続する為の触媒が……」


 わたしは手袋を脱ぎ捨てると、人差し指の先をしっかりくわえた。

 肘打ちするように素早く腕を引くと、歯で皮膚が切り裂かれた。

 服の金具を外し、中腰になると、


「こちらを向け、特務技官っ!!」


 叫んで、フレイの後頭部を引っぱたく。

 驚いて振り返った彼の口に、「なに……むおっ!?」わたしは血まみれの指を突っ込んだ。

 指を引き抜き、フレイを一喝する。


「急げっ!! わたしとPLSを接続しろっ!!」


「無茶苦茶だっ!! こんな、術処理もされてない血を少々もらったところで……」


 至近弾を喰らったのか、機体が大きく揺れた。

 マユハが悲鳴を上げる。

 

「フレイっ!!」

 

「わかった、わかりましたよっ!! 失敗しても知らないからなっ!!」


 フレイが操作すると、わたしの前にある予備の操縦系に優先権が渡された。

 しかし、これだけではまったくの手探りで操縦することになってしまう。


「僕は血の触媒化と、知覚連結の仲立ちをする術操作に専念する。オペレートは専門家にやらせるよ!」


 なんのことだ?

 聞き返す間もなく、フレイはがくんとうなだれ――すぐに顔を上げた。

 こちらを軽く振り返ると、柔らかく微笑む。


「あら、まあ。お久しぶりです、ボルド中佐。ずいぶんご昇進なさったのですね。おめでとうございます」


「君……フレイヤっ!?」


 言った瞬間に理解する。

 因果の連鎖がまた一つ、進んだのだ。

 

 ぐらりとめまいがした後、わたしはピースメイカーと知覚連結した。

 

 莫大な情報が脳に流れ込んでくる。

 わたしの肌は機体外板に、四肢は可動翼となった。

 

 従来のPLSによる知覚連結とは情報量と精度が桁違いだ。これはもう、融合と言ってもいい。

 

 十数個の物体が凄まじい速度でこちらに突っ込んでくるのを探知。

 中型のマガツ――“アトール”の群れだ。


「あれが自爆攻撃を仕掛けてきているのです。近寄らせてはいけません」


 脳裏に回避方向が示されたが、そう簡単ではない。

 ピースメイカーはもうまともな推進力を持っていない。

 可動翼と姿勢調整用の八つの小型推進器が頼りだった。

 

「く……っ!! 機体が、重いっ!!」

 

 突っ込んできたアトールはピースメイカーをかすめ、爆発した。

 とっさに可動翼をたたみ、機体を回転させて搭乗モジュールを破片の雨から隠す。

 頑丈な呪槍表面に弾かれ、破片は飛び散った。

 

「さすがボルド中佐! お見事な対応でした」

 

「ありがと…っていうか、フレイヤ! 君、フレイの中にいたのっ!?」


 落ち着いた口調でフレイヤは答える。

 

「残念ですが、違います。私は予備の部品のようなものです。あなたと一緒に飛んだフレイヤの情報は、ほぼすべてもらっていますが」

 

 このフレイヤは、あくまでフレイに付属する機能の一つ。

 飛翔機部隊の統合管制をする必要に迫られた時にのみ起動する、予備システムらしい。

 

「フレイも人工精霊ですが、極めて限定された情報だけを処理する早期警戒・統合管制システムと違って、ほぼ汎人と同じ――いえ、汎人以上の多様な知覚、身体の制御、精神活動を行なっています。つまり、私よりもはるかに処理が重いんです」


 わたしとピースメイカーの知覚連結は本来想定されていない。

 不可能を可能とする為、フレイは人格をフレイヤに譲り、持てる全能力を術操作に振り向けているらしい。

 

「警告、四方向からアトール接近中。こちらの包囲を企図しているようです」

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― 新着の感想 ―
[一言] フレイヤ久しぶり! 好きなキャラだったので、また会えて嬉しいです!
[一言] 空中戦はまだまだ続く? そう言えば、次回で100部分ですね。
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