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不可逆の一撃

 常識的には信じられない話だ。

 だが、かつてマガツは現在ほどには攻撃的ではなかったと聞く。

 それにベルファスト博士がファウンダーに抱く想いには、どこか複雑なものがあった。

 両者の直接的接触――交流と呼べるものがあったとしてもおかしくない。


「とにかく、ファウンダーは本営の最深部に潜んでいるわけさ。ピースメイカーならそこまで到達できる」


「いまもそこにいるって保証は?」


「保証なら、僕がするよ。ファウンダーの全長は500mもあるし、桁違いに大きな生体炉を内包していて、エネルギー消費も莫大だ。ロアン大陸に設置されている観測機器でも移動を見落とすことはない」


 フレイはあっさりと断言した。よほど自信があるのだろう。

 わたしには是非を検証できない話だ。これも信じるしかない。

 

「そもそも奴は大きすぎて自力では巣の外に出れない。やるなら何百体もの大型マガツを動員する必要があるけど、そんな兆候は確認されていない」


「わかったわ。あと術の内容を知っておきたいわね。結局、ピースメイカーはなにをする呪物なの?」


 以前聞いた時には答えてもらえなかった。

 感染モードでも炸裂モードでもないなら、一体なんなのか。

 はたして、彼の返事は同じだった。


「施術は槍の術紋が実行するから、知らなくてもいいはずだ。君達はただ――」


「フレイ、そうはいかないわ。呪力はマユハ、術操作はわたしが担当なのよ。操縦しかしない君だけが知っていて、わたし達が知らなくてどうするのよっ!?」


 実際のところ、現状でも術操作は不可能ではない。

 しかし知らずに施術すれば、つぎこんだ呪力の効率が落ちてしまう。

 

 機走車の燃料を飛翔機に入れても動きはするが、規定の性能は出ない。

 いや、それどころか発動機が不調に陥ることさえある。それと同じなのだ。

 

 マユハにしても、目的が不明瞭なままでは呪力を引き出しにくいだろう。

 己の想いで他者を塗り潰すのが呪術の基本である。

 

 まして、これは絶対に失敗できない一撃だ。

 些末なものでも不安要素は取り除くべきだった。


「……」


 フレイはしばし沈黙した。

 この期に及んでなんだというのか。さすがにもったいぶり過ぎだろう。


「……君達に話さなかったのは、理由があるんだよ。マガツの協力者に聞かれたら、ファウンダーは逃走するだろう。居場所はつかめるだろうが、目標地点の再設定にも時間はかかる。もしピースメイカーの射程圏外までいかれたら、どうにもならないしね」


「マユハはわたし達と行くのよ。もうマガツに協力するなんてことはないわ!」


「いや、それは無理じゃないかな」


 否定するフレイにマユハも同調した。


「ごめん、ロゼ。無理だと思う。女王は常にわたしとつながっているの」


「……じゃあ、この会話も聞かれているの?」


 こっくりとうなずくマユハ。

 フレイも承知の上でピースメイカーに乗せたらしい。


「ただ、確かにもう話してもいいな。ファウンダーがまだアプス山脈の本営にいるのは確実だし、これから逃げ出すのは不可能だ。むしろ、聞かせてやるべきかも知れない」


 準備の手を休ませることなく、フレイは語り出した。


「ピースメイカーの狙いはマガツ本営そのものではなく、さらにその下――地脈の集結点だ」


「ちょっと待って。エーテルをエネルギー源にして術効果を拡大するつもりなの?」


「ああ、そうさ」


 集結点ともなれば、地脈を流れるエーテルは膨大だ。

 これを上手く術に組みこめれば、そら恐ろしいほどのアウトプットが見込めるだろう。

 

 だが、呪術とは対象の力を利用して術者の意図を達成する技術だ。

 

 逆説的になるが、地脈の力を利用するなら、術の対象は地脈の力の()()()でなければならない。

 

 呪術と無関係なエネルギーを拝借することはできないのだ。


「まさか……ピースメイカーはマガツではなくガメリア大陸――いえ、この惑星(ほし)自体に呪詛をかけるってこと……?」


「フン、やるじゃないか。正解だよ、中佐殿」


 馬鹿な。惑星は生き物ではない。

 呪詛をかけるなんて不可能じゃないか。そう、それが常識だ。


 だが、どうやらベルファスト博士は不可能を可能にしたらしい。

 

 惑星も長い目で見れば生々流転がある。

 産まれ、成長し、変化し、最後は死に至るそうだ。

 

 もともと精霊種達は、惑星規模の環境変動を研究する学問を成立させていた。

 

 ベルファスト博士はこの知見を下敷きにさらに研究を進め、世界全体の振る舞い――いわば惑星の生態を精査したのだ。

 あとはそれを利用する為の術を編み出せばいい。

 

 ピースメイカーに施されているのは、惑星を呪う術紋なのである。


「狭義では生命とは見なされないものも、やり方次第では生き物として扱うことができる。生き物であれば、呪術の対象にしたり、呪術者になることさえ可能だ」


 そうだ。わたしは実例を目の当たりにしている。

 もとは魔術装置の疑似人格に過ぎなかったフレイヤやフレイは、立派に呪術を行使しているではないか。


「マガツ本営は複雑な耐爆構造になっている。ピースメイカーが落着した地点は物理的な衝撃により広範囲に破壊されるはずだけど、それだけでは不足だ。ファウンダーを確実に仕留めるには、本営を丸ごと吹き飛ばさないとね」


 術の対象が惑星であるだけで、動作としては炸裂モード。

 わたしが重爆撃タイプの群れを撃退した時と同じだ。

 

 違うのは規模だった。

 成功すれば、かつてない規模の凄まじい大爆発が発生するだろう。

 ようやく理解が追いつき、ぞわりと身体が震える。

 

 わたし達はまさに不可逆の一撃を放とうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今まで伏せられていたことが、一気にオープンになっている感があります。
[一言] おお! なるほど。 確かに惑星も見ようによっては生き物ですよね。 いよいよ最終決戦ですか! 滾りますね!!
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