求める者
思いがけない台詞を投げられ、動揺してしまう。
「わたしが求めていた? なにをでしょうか?」
「誰かを、だ。ここにはいない、誰かだ」
マガツは自らファウンダーと接続するほどの魔力はない。
代わりに一定間隔で魔力を原初領域に投射しているそうだ。
これを手がかりにファウンダーは眷属を見つける。
目印の松明をかかげているようなものだ。
「接触されたということは、貴様はマガツと同じことをしているはずだ。心がどこか欠けている、満たされていない証左だ。身に覚えはないのかね?」
覚えは——あった。
強く強く、誰かを求める心。
それは無意識に呪力を発動させ、原初領域に響き渡る絶叫となって、ファウンダーを引きつけた。
マガツの協力者達はそのようにして取り込まれたのだ。
恐らくは、マユハも。
最初はメッセージにより、人気のない場所へ導かれる。
半信半疑の協力者は、そこで秘密裏に降下していたマガツと物理的接触を果たす。
以降は、強固な意思疎通が可能になる、というわけだ。
わたしを襲撃した暗殺者もそうなのだろう。
耐え難い境遇から助け出してくれる、誰か。
誰か、誰か、誰か。誰でもいいからここに来て。わたしを助けて。
救いの手を心が壊れるほどに求め——応じてくれたのは、ファウンダーだけだった。
なんという皮肉だろうか。
「フン、なんだその顔は? 言っておくが、マガツに救われる道などないぞ。戦争に勝とうが負けようが、奴らは早々に自滅する」
「……それは、どういうことでしょうか?」
「前にも話しただろう。なにかを産み出すには資源が必要だ。そして、奴らの資源消費は凄まじすぎる」
猛烈な速度で資源を消費している原因が戦争にあるのは確かだ。
だが、博士が南方大陸でマガツを観察している時点で、彼らが生存の為に消費する資源量は尋常ではなかったそうだ。
ほどなくマガツ勢力範囲内の資源は枯渇した。
不足分を外部に求め、彼らは人類社会と衝突したのだ。
「マガツという種は持続不可能なのだよ。世界を喰いつくした後は、滅ぶしかない」
彼らのような種族が出現してしまったこと自体、悲劇なのかも知れない。
生きているのだから、生きればいい。
生物は死んでしまったら、おしまいだ。
バモンド中佐はそう言った。
しかし世界を巻き込み、滅亡へひた走るだけの種族はどうなのだ。
命に観念的な意味を見出しても仕方がないのかも知れない。
それでもマガツがこんな風に進化してしまうとは、およそ信じがたいことだった。
なにがおかしいのか、ベルファスト博士は耳障りな笑い声をもらした。
「クククク——貴様はあれだな。やはり、面白い奴だ。そこだけが、貴様の見どころだな」
なんだそれは。
全然、ほめられている気がしないんだけど。
「いいかね、マガツの生体炉は莫大な魔力を発生させる。大型タイプなら北方巨人族を凌駕するほどにな」
わたしは驚いた。
もしそうなら、マガツはもっと強力な魔術を行使できるはずだ。
「まさか、手を抜いている……力を隠されているのでしょうか?」
「いいや、連中はあれで精一杯なのだよ! ほとんどの魔力は生命活動の維持に使われる。奴らはただ生きているだけで、どんどん魔力を消費してしまうのだ!」
魔力切れは死に直結する為、生体炉は常時フル稼働。
生命を維持する為に、肝心の生命力を魔力に変換し続けているわけで、ひどく効率が悪い。
資源消費が激しいのも当然だった。
「マガツはこの世界に合っていない。拒絶されているのだ」
「拒絶? どういうことですか?」
「ああ——いや、貴様は気にせんでいい。頭は使うなと教えただろう。しょせん、無駄だ」
またそれか。
いっそ清々しいほどの見下されぶりである。
「結局、博士はわたしをどう使いたかったんですか!」
「後のことは、フレイに任せてある。あいつに聞け」
「聞きましたが、思わせぶりな態度で煙に巻かれましたよ。あの子は一体、何者ですか?」
「マガツは殲滅しなければならん。この世界に奴らの居場所はない。いや、与えてはならん……」
質問は無視されたが、それはそれで答えだ。
わたしとアルはろくでもない使われ方をし、フレイの正体もろくでもないのだろう。
つまり、わたしの予想通りらしい。
博士は長々と嘆息した。
「……ファウンダーもまた、求める者だ。誰か……なにかを、強く求め続けておる」
意外な言葉だ。
求めている? まさか、資源の話ではあるまい。
ファウンダーは全マガツを産み出した。
なにもかもを支配し、あらゆるものの上に立つ創始の女王。
そんな彼女に一体なんの不足があるというのだろう。
「生物はみな、どこか欠けている。足りていないから、生きるのだ。でなければ命をつなぐ意味がない」
実はマガツの卵はすべて無性生殖らしい。
様々なタイプが生まれるが、それはファウンダーがもともと持つ要素を組み合わせた複製なのだ。
マガツには雌雄の区別がなく、ファウンダーも生殖はしない。
「代わりに、優れた資質を持つものは種を問わず自らの中に取りこもうとする。ばらばらに分解されるから、取り込まれた相手はもちろん絶命するがな」
「……それは、ただ捕食されただけでは?」
「違う。ファウンダーは取り込んだ相手と融合する。相手の要素で己を変化させるのだ。そうやってより優れた存在になろうとしているのだよ」
個体でありながら、優れた要素を収集してどんどん進化する生物。
我々が苦戦するのも当然な気がする。
「だが、まったく無意味だ。最終的にファウンダーはなにも手にできん」
「それは何故ですか?」
「相変わらず、話を聞かん奴だな。マガツは世界を滅ぼす種だと言っただろう。いかに進化しようとも未来など、ない」
ベルファスト博士はぐったりとベッドに沈み込む。
疲弊しきった老人そのものの所作だった。
独りよがりでエネルギッシュな天才の面影は、もうない。
「博士は……まさか、ファウンダーに取り込まれたかったのですか?」
「フン、馬鹿な。私の方が奴よりかしこい。私はそれを証明した。とうとう証明したのだ。どうしてファウンダーに下る必要がある? そんなことはできん、絶対にな」
博士はもう未来を見ていない。
視線ははるか遠く——過ぎ去った日々を追憶している。
「私はただ……幕を下ろしたいだけだ。長く続く苦しみにな。それだけだ。もう……それだけだ」
彼の時間は尽きたのだ。
きっとわたしがここを訪れるよりも、ずっと前に。




