表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/110

違和感

12/8 アクション〔文芸〕の日間ランクで6位となったようです。

応援して頂いている皆様のおかげです、ありがとうございました!!

 耳が痛くなるような静寂。

 墜落のショックで頭がぼうっとしたが、身体はすべきことをした。

 

 シートベルトを外し、緊急装備の背嚢を座席の下から引っ張り出す。

 通信機器をはじめ、各種装置類は完全に死んでいる。

 

 機体(サブラ)はもう飛べない。

 

 天蓋を開き、身を乗り出した。

 愛機と呼べるほど長く搭乗したわけではないが、戦友には違いない。

 わたしもやがて、この子と同じところへ辿り着く。

 

「お疲れ様。また、そのうちね」

 

 ぽんと操縦席を叩いて感傷を払い落とす。

 機外へ飛び降りると、足は脛の半ばまで沼地に埋まってしまった。

 

 飛んでいる――いや、墜ちている――最中は気づかなかったが、丘の上には家があった。

 煙突から煙が薄くたなびいている。

 

 上空では中隊のみんなが旋回していた。

 わたしは大きく手を振り、無事をアピールする。

 

 中隊長機がゆっくりと低空をフライパスして来た。

 

 身振りで家の方へ向かうことを示す。

 通じたらしく、バモンド中尉はうなずいて見せた。

 

 飛び去って行く仲間達を見送り、わたしは沼地を歩き出した。




   □




 当たり前だが、沼地は進みにくい。一歩毎に泥に足を取られてしまう。

 羽虫も多く、わたしはすっかり閉口してしまった。

 おかげで上陸した時には、結構な汗をかいていた。

 

 丘の斜面にはコブウシ達が思い思いに陣取り、のんびり草を食んでいる。

 

 この牛は成長が早く乳も肉も美味しいのだが、雄には困った性質があった。

 彼らは正面から自分に近寄る輩は、誰であろうと挑戦者と見なす。

 

 すると額にある頑丈な瘤で不埒者を粉砕すべく、突進してくるのだ。

 

 こんなところで牛相手に殉職しては馬鹿らしい。

 わたしは不用意に正面へ立たないよう、牛達の間を縫って丘を登った。

 一人前の兵士としてはいささか情けない気もする。

 

 まあ、ここは君らの領分よね。空では好きにはさせないけど。

 

 丘を上がって家の裏手にある勝手口までたどり着く。

 煉瓦を積んだ二階建ての母屋と納屋、家畜小屋がある。反対側の斜面には果樹園があるようだ。

 この地方によくある典型的な農家だった。

 

 もう大隊本部にまで連絡が入っているだろう。

 

 ほどなく、迎えが来るはずだ。

 それまではこの家で休ませてもらおう。

 

 食事をもらえれば最高だが、腰を下ろす場所と水だけでも充分である。

 

 わたしは勝手口の扉を開き、家人を呼ぼうとして――違和感を覚えた。

 

「……」

 

 静かすぎる。

 

 もう昼食時なのに、人の気配がまったくしない。

 いや、まさか。ここはわたし達の土地だ。奴らがいるわけがない。

 

 ここでも訓練がわたしの行動を決した。

 

 腰ベルトに下げた護符の束を確認。

 魔術攻撃のダメージを軽減(レジスト)してくれる装備だ。

 

 背嚢を静かに降ろし、中から小銃の部品を取り出す。

 部品と言っても小銃を前後二つに分割しただけの大雑把な代物だ。

 

 中央部で合体させ、ひねるように半回転させると銃の形に組み上がる。

 

 あとは固定用のネジを手締めするだけ。

 銃身は短めだが、中距離までなら支障はない。

 

 たたまれていた銃剣を伸ばす。

 これは鉄製のスパイクで、刃はついていない。

 

 なるべくゆっくり小銃のボルトを引き、弾を装填。

 わたしは銃を抱え、立ち上がった。

 

 引き金に指はかけない。暴発にはご用心、だ。

 

 深く息を吸い、ゆっくり吐く。

 勝手口をくぐり、わたしは廊下を進みはじめた。




   □




 廊下の途中にある扉が開いていた。

 

 のぞくと、台所だった。

 食料庫は破壊され、皿や調理器具が散乱している。

 

 薪オーブンに火が入っているが、誰もいない。

 

 廊下の奥にも扉があった。こちらは半開きになっている。

 足音を忍ばせて近寄り、そっと気配をうかがう。

 

 物音一つしない。

 

 扉を静かに押し開ける。

 居間のようだ。

 

 銃を構え、わたしは中へ踏み込んだ。

 

 扉の横に2階への階段がある。

 正面の窓はほとんどが割れて――

 

「――っ!!」

 

 床に広がる血だまり。

 その上に死体……いや、バラバラにされた肉塊が積み上がっていた。

 まるで趣味の悪いオブジェだ。

 細切れにされているが、一人分ではなさそうだ。

 恐らく二人か三人を細切れにしたのだ。

 

 加害者が人間なら、こんな殺し方はしないだろう。

 

 

 ちくしょう……やってくれたわね!

 

 

 激烈な怒りがわき上がった。

 視界がゆがむ。息が苦しい。


 空でたくさん殺したと思ったのに、まだ足りなかったのだ。


 わたしはなんと馬鹿なのだろう。

 あれっぽっちで喜んでいる場合ではなかった。


 

 殺さなければ。


 

 まだ殺さなければ。

 まだまだ、たくさん殺さなければ。

 奴らの死骸を地の果てまで敷き詰め、天に届くまで積み上げる。


 誓ってそうしてやる!

 

 もう間違いない。ここは敵に襲われたのだ。

 連中はまだいるのか、もうどこかに姿をくらませたのか。

 

 窓際に近寄ろうとした時、上からかすかな物音が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >まあ、ここは君らの領分よね。空では好きにはさせないけど。 ロゼのこういうところ好きですw そして、月並みですけど、やっぱ戦争って悲惨だなって思いました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ