集中射撃
街並みはあっという間に目前へ迫ってきた。
ロサイル市の周辺に到達したのだ。
中央街区付近に異様なものがそびえている。雨のせいで視認しにくいが、間違えようもなかった。
以前に画像で見た小型で頑丈な巣――マガツの襲撃巣だ。
巣の上空を蠢きまわる無数の黒点は小型マガツの群れだろう。
予想通りではあるが、圧倒的な数だ。
『襲撃巣を視認! 大尉、このまま突入を!?』
ムンスターからの短距離通信だ。
わたしは声を張り上げた。
「それしかないわね。各機、外部燃料タンクと呪槍を投棄! 機を軽くしろ!!」
感染モードが使えない以上、他のメンバーは襲撃巣に対し実効性のある攻撃はできない。敵の排除に専念すべきなのだ。応答の後、次々にタンクと呪槍が切り離され、地面へ落下していく。槍は起動されていないから、当然呪い返しは起きない。
「ムンスター中尉、配置を任せる! わたしの機体を護衛して!!」
『了解! 全機でボルド大尉を囲むぞ! ミードは右、ファレスは左につけ! マルスは上、ガルウィンは後ろだ! 俺は前に出る!』
中隊は速度を上げ、緊密な編隊を組んで突き進む。
続く十数秒間、わたし達は幸運に恵まれた。
マガツの群れは襲撃巣の近辺をゆったりと舞うように飛んでいる。
まだ目立った動きはない――まだない――まだ――
『気付かれたぞ!!』
リズムが崩れた。
群れの動きがぎこちなくこわばり――次の瞬間、盛り上がった波が砕けるように押し寄せてきた。もの凄い数だ。ちっぽけな中隊など一飲みになってしまう。
『道を切り開けっ!! いいか、意地でも大尉を巣までお連れしろ!』檄を飛ばす、ムンスター。
前方は小型マガツ達で真っ黒だ。
正面衝突の寸前、ムンスター機の先端から発砲炎が伸びた。機首に装備された六門の機関砲による集中射撃。大量の空薬莢が排出孔から吐き出され、機関砲弾はマガツの群れに穴を穿った。
アル達も撃ち始める。
わたしは手出しできない。下手に発砲すると目前を飛ぶムンスター機を撃ちかねない。
おまけに彼我の相対速度は恐ろしく速い。前方にマガツが黒い染みのように現れたと思ったら、瞬時に飛び去ってしまう。お陰で砲弾の威力はかさ増しされるが、ほとんど勘で発砲するしかない。マガツの方はむしろ体当たりを狙っているのだろう。
撃てない代わりにわたしは呪槍に呪力を込めた。
感染モードの槍は際限なく呪力を吸い込んでいく。まるで底が抜けているようだ。
きっと物凄い呪いが発動するだろう。
ロサイルのマガツを一掃できるほどの呪いだ。この一撃で決めてやるのだっ!!
わたしはいきり立ち、ぎりぎりまで呪力をつぎ込んだ。
『注意、後方からマガツ多数っ! ケツを突かれていますっ!!』最後尾のガルウィンから警告が飛ぶ。
『抑えろ、ガルウィン!!』ムンスターが吠える。
『了解、小隊長殿! できる限り、粘ってみます!!』
緊迫したガルウィンの声。
彼はわたしの機体を敵から隠してくれている。
当然ながら、追尾してくるマガツに最初に撃たれるのはガルウィンなのだ。
しかし、もともと彼には機動の余地があまりない。複数のマガツから放たれる無数の尖甲弾。こんな濃密な弾幕を躱し続けられるものではない。必死の操縦も及ばず、ガルウィンは被弾した。
『ちくしょう、撃たれたっ! 撃たれていますっ、捕まえられたっ!!』
通信にさえ破壊音が混じっている。
もういい、離脱しろ――と言ってやりたかった。
だが、駄目だ。駄目なのだ。
彼はわたしの盾だ。
わたしの為に最後まで弾を防ぐのが、彼の役目だった。
『ガルウィン、がんばれっ! がんばってくれっ!!』
ムンスターも励ますことしかできなかった。
がんばれ。がんばって、がんばって、少しでも後に死ね。
手塩にかけた部下にそう言う以外、なかった。
ガルウィンはさらに数秒の時間をもたらした。メルカバの頑丈さと彼の意地がマガツからむしり取った成果だ。そして、それが限界だった。
『――っ!!』
声ともつかぬ絶叫。
振り向くとガルウィンの機体が木の葉のようにめくれ上がっていた。そのままぐるりと縦に回転すると追撃していたマガツに激突。ガルウィン機は四散した。
まだ一人目だ。動揺している場合ではない。
『こちらミード中尉! 自分が後ろを抑えます!』
『よし頼む、ミード!』
ムンスターの許可と同時にチプスの機体が後逸していく。わたしの背後を護る為、今度はチプスが盾になるのだ。たまらなくなり、わたしは叫んだ。
『ムンスター、わたしの右に着け! 前は自分で面倒を見るわ!!』
『――了解っ!』
前方が空いた。
間髪入れず、マガツが正面に滑り込んでくる。
発砲。
引き金を絞るのはほんの一瞬だけだ。それでも数十発が撃ち出され、マガツは肉塊と化した。感情に任せて打ち続ければすぐに弾切れだ。
それでは足りない。
もっと、たくさん、どんどん殺さなくては気がすまないっ!!
突如、前方で無数の破片が吹き上がった。
「警報、上方からなにか落ちてくる!!」
気をつけたところで避けられるものでもない。いくつかの物体が翼に当たったが、幸い機体に損傷はなかった。
今のはなんだ? さほど質量のないものでよかった。もし石材などの重量物であったら、墜落していただろう。
「!?」
押し込まれたように一機のメルカバが降りてきた。天蓋が接触しそうになり、慌てて避ける。
これは――わたしの直上についていたマルス機ではないか。
『す、すみません大尉! ちくしょう、取り付かれたっ!!』




