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重大な齟齬

 1244年5月 クルグス市 王立飛翔実験団






 昼も夜も飛翔軍は戦い続けていた。マガツの空襲は激しさを増すばかりだ。

 いきおい、メルカバの試験は急ピッチで進められ、わたし達は日に何度も搭乗した。想像通りに素晴らしい機体だったが、やはりというか、未完成な部分も多かった。

 

 ここ二ヶ月の試験でほぼ完成にもっていけたのは、機体の素性がよかったからだ。


 操縦に対してはよく調教された馬のように俊敏に反応する。

 さすがに呪槍を二本抱えると少々重さを感じたが、旧型のサブラが空荷の時よりも機動の幅は広かった。洗練された空力特性と強力な発動機のおかげだろう。

 

 量産も開始されており、月末には最初のメルカバが部隊に引き渡される見込みだ。

 

 一段落ついたのは確かだが、わたし達の仕事は終わったわけではない。細かい要改善点や関連する試験項目はまだまだ残っている。

 

 適材適所ということで、呪槍による急降下攻撃の試験は主にわたしが行い、機関砲を使う格闘戦はチプスが担当した。

 アルは基本的な操縦技術は高いのだが、さほど役立っていない。

 

 実験団の仕事は間違いを潰し、正解を探り出すことだ。

 

 機体の挙動や兵装の設定について、いくつか候補を作り、適切なものを選択する。まだ不十分な箇所は操縦者がフォローし、細かく追い込んでいく。この作業を行うにはなにが正しいのか、感覚的に理解していなければならない。

 

 アルにはその判断をするだけの経験がなかった。故にチプスが行った試験の追試をしつつ、技量の底上げをはかっていた。

 

 まあ、わたしやチプスにしても経験は足りてない。どうにか仕事をこなしたというのが実情である。

 

 普通、実験団の操縦者にはベテランが選抜される。

 正直なところ、どうしてこのメンバーが選ばれたのか、わたしにはわからなかった。




   □




 わたしが博士のラボを訪れたのは久しぶりだった。

 肝心のベルファスト博士本人が留守にしていることが多かったせいだ。室内の混沌はいよいよ極まった感があるが、とりあえず無視を決め込む。報告がてら、操縦者の選抜理由を聞いてみたのだが、


「些事だな、くだらん! 貴様はそんなことは気にせんでよろしい。ただでさえ少ない処理能力を興味本位の話に消費するな!!」


 書類に落とした目を向けもせず、博士はわたしの疑問をはね除けた。めずらしく実験団に戻ってきたのだが、またすぐに王都へ行ってしまうらしい。

 こんな調子でいいのだろうか。

 ここしばらく、博士はわたし達が試験を行っているところをまったく見ていないのに。


「別に問題はない。貴様らのことは全部知っておる。情報はすべて把握しておるのだ、私がな! そもそも、私は機体に同乗するわけではないぞ。どこの部屋に座っていようが、同じことだろうが!」


 話しつつ、博士は選別した書類や資料を熱狂的な仕草(あるいはひどく急いで乱雑に)で鞄に詰め込んでいた。


「そもそも私が貴様に期待しておるのは、呪力だけだ。()()()()()()ことにかけては、汎人の右に出る者はおらんからな。呪力が正しく使われていることさえわかれば、貴様らのことなどどうでもよろしい。心底な!」


 相変わらず、えらい言われようだ。

 精霊種にはほとんど呪力がない。また、魔力ではマガツに及ばない。

 

 なにより単純な人口比から考えても、汎人種を人類の主戦力とするしかないのが実情ではあった。


 しかし、するとわたしはともかく、チプスやアルも恨みがましい性格ということになるのだろうか。とてもそんな風には見えないが。


「つくづく貴様の目は節穴だな。だから余計なことは考えるな、時間の無駄だ」


 ふいに手を止め、博士はわたしをねめつけた。

 

「そんなことより、私との約束は忘れてはおるまいな?」


「はい、もちろんです」いよいよ、なにかあるのだろうか?「博士もお忘れではないでしょうね?」


「ふん。無論だ。取り引きだからな、これは」


 戦争の勝利とマガツの全滅を成し遂げること。それがわたしの条件だった。代わりにわたしは博士の命令はなんでもこなさなくてはならない。


「だが、想定よりも飛翔軍の損害が減っておらん。純減にはもっと歯止めがかかるはずだった」


「それは……すると、どうなりますか?」


「戦争に勝つ準備ができる前に、マガツが上陸しかねんな」


 あっさりと言い放たれてしまった。待ってくれ、それは重大な齟齬(そご)ではないか。恐ろしく重大だ! わたしは愕然(がくぜん)とした。

 博士はうっとうしそうに手を振り、

 

「理由はわかっているのだ! マガツ共がなりふり構わず、攻撃し続けているからだ!」と叫んだ。


 ここ数ヶ月、空襲してきたマガツが被る損耗率は平均15%近いそうだ。ニ、三回も出撃すれば、一つの集団が壊滅状態になってしまう数字である。

 

「これほどの損害にはどんな勢力も耐えられん。必ず戦力回復の時間が必要になる。その間、攻撃目標は限定され、空襲の回数も絞られる――はずが、そうなっておらん。結果、飛翔軍の損害は減らないままだ」


「まさか、マガツの巣が増えているのでしょうか? そこでどんどん新しい奴が産まれているとか……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 明けましておめでとうございます。 敵の意図が読めない。 これは博士にしてきつい状況ですね。
[一言] このじわじわと状況が悪くなっていく感じ堪りませんねw なろう小説って終始味方側が優勢なことが多いですけど、たまにはこういうのもイイですよね!
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