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マガツ

「じゃあ、あの時助けてくれたアグリラムはアルが操縦していたの!?」


「はい。間に合ってよかった」


 昔話をしていたら、思いがけない事実を明かされた。

 すでに日はとっぷりと暮れている。


「どうしてずっと黙っていたのよ。わたし、全然知らなかったわ!」


「すみません――いや、あえて言わなかったんです。あなたは自分の憧れでしたから」


「どういうこと?」


「口に出して感謝されるより、胸の内で密やかに誇っていたかった。わかります?」


 アルは果実酒の栓を開け、わたしのグラスに注ぐ。

 淡い黄金色の液体は甘い香りがした。


「あの時、敵の斥候に襲撃された村はほぼ全滅しましたが、村長は殺害される前に緊急通報をしていました。

 救援に伴い、航空支援の要請も出たのですが、各基地の飛翔機は大半が出払っていたんです」

 

 あの日の迎撃戦か。確かにわたしの基地も全力出撃を強いられていた。

 要請に応じられる基地がなく、飛翔学校へお鉢が回ったらしい。

 

「だけどどうしてアルが? まだ生徒だったはずよね?」


「ええ、最終課程でしたが。あいにく、すぐ飛べる機体が教官用と生徒用の2機しかなくて……」


「ああ――生体情報を書き換える暇がなかったのね」

 

 はい、とアルは答えた。

 飛翔機は登録した生体情報をもとに搭載機器類の設定を個体調整(パーソナライズ)する。

 調整により機体に操縦者の呪力を循環させることができ、無意識化制御や構造強化を可能とする。

 機体を操縦者の身体の一部にするわけだ。

 

 逆に未調整では、飛び立つことさえ覚束ない。

 

 登録できる生体情報は単座機なら4人程度。

 生徒用の機体に教官達の情報がなくても不思議はなかった。

 

「自分が教官と一緒に離陸したんですが、途中ではぐれ蟲に遭遇してしまったんです。

 教官は爆装を捨てて空戦する羽目になり、自分だけが対地攻撃に向かった……というわけです」

 

「色々あったのねぇ。おかげでこっちは助かったわ。かなり危ういところだったから」

 

 グラスを傾け、果実酒で喉をうるおした。

 わたしは名前しか知らなかった高級酒だが、さすがに美味しい。

 アルがわざわざ首都から運んできただけのことはある。


「でもあれ、なんだったのかしら。あんな、なにもない村に降下までして……」


 あの斥候――パラライズワーム達は空襲にまぎれ、空から侵入したと聞いている。

 全部で百体近くいたらしいが、脱出する手段はこうじてなかった。


「実は当時、人類領域のあちこちで時折、類似の降下襲撃がありました。いずれも小規模で、すぐに掃討されています」


「ますますわからないわね。攪乱攻撃だったのかしら?」


「最初はそう思われていました。ですが、本当の目的は別だったんです」


 自分のグラスを軽くあおり、アルは話を続けた。

 

「敵は情報収集をしていたんです。相手のことをよく知れば、より有効な戦略が立てられますから」


「――連中がそんなことを? 情報を得る為に全滅覚悟で敵地へ潜入したってわけ?」


「はい、恐らくは。彼らは見た目はああですが、高い知能と社会性を持っていたことがわかっています」


 敵。俗に、穢蟲(けがれむし)

 正式には攻性異生物群“マガツ”。

 

 奇怪な姿形を持ち、最少は犬ほど、最大は戦列艦に匹敵する個体が確認されている。

 

 マガツは南方大陸で発見された、我々とは違う系統樹に属する生命群だ。

 創始女王(ファウンダー)と呼ばれる個体に率いられているらしいが、詳しいことはわかっていない。

 体内に生体炉を持ち、魔術を使うのが特徴だ。


 当初、マガツはやっかいな新種生物程度の認識だったらしい。

 危険ではあったが、南方大陸の奥地にある生息域を侵さなければ問題はなかった。

 

 ところがマガツは徐々に大胆になり、生息域を拡大していったのだ。


 当時、南方大陸はどの国も人口の過半を猪鬼種(オーク)が占めていた。

 やがてマガツの生息域が彼らの農地や鉱山をおびやかすようになる。

 

 好戦的な猪鬼種は邪魔な蟲どもを駆除すべく、連合軍を編成。

 都合四回、奥地への大規模な遠征を行った。

 

 初回はさしたる苦労もなくマガツに痛撃を与え、連合軍は凱旋した。

 

 相手が生身であればマガツの魔術攻撃は恐るべき脅威となった。

 しかし、装甲化された兵器にはあまり効果的ではない。

 

 魔術は物理的な破壊力には乏しい。

 護符装備で効力を減耗させることもできる。

 生命力を消耗する為、連発もできない。

 

 当初はマガツ達の甲皮も薄く、魔術障壁もなかった。

 旧式な装甲兵器と長射程の火器があれば充分、優位に立てたのだ。

 

 マガツは押し返され、生息域は縮小した。

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