孤独な客人
全員が能力を目一杯使っていた。
フレイはピースメイカーの操縦と触手の触媒化。
術紋の起動と感染モードの発動準備はわたしの担当だ。
マユハは呪力を供給し原初領域でマガツを捕捉する。
本来、こんな風に他者が放った呪術を連携させることはできない。ピースメイカー経由で接続されていればこその技だった。
それでも難しい。
複雑極まる術操作を同時にこなすのだから。
多数のマガツを認識。マユハのおかげだ。
片っ端から呪力を送り込む。
対象となったマガツが勝手に他のマガツを探し、感染を広げてくれる。
放置しても呪圏はどんどん広がっていくだろう。
だが、手は緩めない。
ファウンダーの後継者――マガツの姫を捕捉しなくてはならないからだ。
苦しい。続けざまの施術で呪力の消耗がひどい。
過負荷で脳が焼き切れてしまいそうだ。
――なら、ヤめて。
やめないわ。わたしはお前達を殺しにいく。
できることなら一匹残らずね。
――怖イ。どうして、わたシ? わたシの子はまだなにもしてないのに――理解できなイ。
支払いの時がきただけよ。
つけはたっぷりたまっているんだから、お前だけじゃ払いきれないわ。
――生きていただけ。生きようとしただけ。いけないこと?
いいえ。わたしが許せないだけ。
お前達の存在は世界を壊す。わたしの大切なものを奪うから。
――好きでいるわけじゃない。望んできたわけじゃないのに……。
誰だってそうでしょ。
わたしはお前達を断罪したいわけじゃない。
正しさなんてどうでもいい。
ただ、マガツのあり方は許容できないのよ。
残らず駆逐し、滅ぼさなくては、とても受け入れられない。
――受け入れる? 殺した後に、どこへ? 意味がわからなイ。
マガツという種は滅ぼされる。でも、失われるものはない。
ファウンダーを構成するすべての要素が、この世界に取り込まれるからだ。
そうなって初めてわたし達は受け入れることができる。
別の世界から迷い込んでしまった、孤独な客人を。
身体は分解され、大地や空や海にばら撒かれる。
魂は生命循環に合流し、混ざり合い、新たな命として産まれ出でるだろう。
ピースメイカーの術紋はそのように組まれている。
ベルファスト博士は、はじめからそのつもりだった。彼はホスト役を買って出ていたのだ。
ピースメイカーへの知覚連結がなければ、わたしは博士の真意に気づけなかった。
異界生命たるマガツをこの世界へ迎え入れる方策を練り、実践する。
確かにこれは、やりがいのある研究テーマには違いない。
マガツは世界によって変わるだろう。
世界もマガツによって変わるはずだ。
わたし達はそうやって共に歩むのだ。
――ヤめて。望んでなイ、頼んでなイ。わたシを決める、わたシだけ!!
そうね、わたしだって嫌だわ。
お前達と一緒に生きるなんてぞっとする。
でも、おあいにく様。
わたし達はとっくの昔にタチの悪い男に見初められていたのよ。
次は綺麗に手を切るやり方を覚えるしかないわね。
――ヤめて、ロゼ――ひどイ。望んでなイ、ひどイ、ヤめて!
いいえ、やめないわ。
博士の構想はともかく――わたしは、お前達に恨みがあるのよ。
知らなかった?
□
その先についての詳細は目撃していない。
降下直後に搭乗モジュールは切り離されてしまったからだ。
以降は戦後の現地調査をもとにした推測だが、おおむね正しいはずだ。
隕石のように赤熱しつつ、ピースメイカーは一直線に降下した。
降下からノラド山脈へ落着するまで、寸刻の間しかなかった。
分厚い岩盤を突き破り、マガツ本営をも貫通し、ピースメイカーは地脈へ到達。
発動した術紋がエーテルを吸い上げ、巨大な呪圏を形成した。
この段階でファウンダーはすでに絶命していたはずだ。
十数秒後に術は終息し、呪圏は爆縮――次の瞬間、莫大なエネルギーが解放された。
これにより誕生した超高温の大火球は直径3kmに及ぶ。
人類の手による史上最大の爆発が発生し、三つの山が消滅。ノラド山脈には大穴が穿たれた。
爆煙はキノコ状の雲となり、上端は高度60kmへ至った。
衝撃波は惑星を三周半し、世界にあまねく伝播した。




