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急ぎの仕事

 なんであろうとも、やります! 戦いに勝ち、マガツを滅ぼす為ならば。

 博士に誓った言葉を実行する時がきたのだ。


「フレイヤ、フレイと交代して! マガツ殲滅には彼の力が必要よっ!!」


「了解です、中佐。知覚連結を切断し、操縦系統の優先度を前方席に戻します」


 フレイヤの気配が離れ、機体との一体感が消失した。


「最後に――ロゼ・ボルド中佐」


「なに? フレイヤ」


「あなたとみなさんにご武運を。どうか、なすべきことをなし遂げられますように」


「ありがとう、フレイヤ。あとは任せて!」


 操り人形の糸が切れたようにフレイの身体が脱力し――すぐに跳ね起きた。

 同時に激しく咳きこむ。


「がはっ、ごほ、げへっ!! うう……っ、くそっ、フレイヤの奴! 呼吸くらいしておけよ、人の身体を仮死状態にしやがってっ!! これだからデリカシーのない機械女はっ!」


 苦々しい口調で吐き捨てるフレイ。

 フレイヤは汎人に比べれば単純な構成の魔術装置に宿る人工精霊だった。

 いきなり生身の体を預けられ、彼女の手には余ったのだろう。

 

「蘇生したてのところ恐縮だけど、急ぎの仕事よ、フレイ」


「操縦ならもうやってるよ! 僕をなんだと――」


「マユハの触手、いえマガツ細胞を触媒化して欲しいの。大至急」


「――はっ? まさか、それでファウンダーの後継者を探すって? 無理に決まってるだろ、つながりが薄すぎる!!」


 常識的には媒介式で接触できるのは、触媒の持ち主一人だけ。

 この場合はマユハ本人だけのはずだった。

 

 だが、探すことに特化した固有能力(ユニークスキル)を持つ術者なら、話は別だ。


「彼女、死にかけじゃないか! この状態でそんな術操作は――」


「だ、いじょうぶ。やる……できる、わたし……」


 マユハは額にびっしりと汗を浮かべていた。

 もう尋常な様子ではないのは、はた目にも明らかだった。

 だけど、この娘はやる。

 わたしが……因果の連鎖がマユハをそう動かす。

 そうさせてしまうのだ、無理矢理にでも。


「いや、それでも無理だ!! この触媒ではマガツというマガツが探知に引っかかってしまう。後継者を特定するなんて、とてもできない!!」


「それでいいのよ。ファウンダーはこのままピースメイカーで吹き飛ばす。他のマガツはぜんぶ、呪い殺すんだから」


 フレイは上体をねじり、こちらへ顔を向けた。

 自分の耳を疑うような表情だ。だが、聞き間違いではない。


「不可能だ……どれだけ呪力があっても、まるで足りないっ!!」


「ぶっつけだけど、感染モードを応用してみる。対象の魔力をエネルギー源にして、原初領域経由で呪圏を伝播させるのよ」


 近くにいるものではない。

 同じ血につらなるものを無差別に呪いの感染対象にするのだ。

 原初領域を通すなら、距離は関係ない。

 女王の後継者がどこに隠れていても捕捉は可能だ。


「じゅ、呪術が終わるまでに後継者に伝播がたどり着く保証はないだろっ!?」


「そこは賭けね。確率を上げるには、最初にできるだけ多数のマガツを呪うしかない。でも、勝ち目はあるわ」


 因果はそのように連なるはずだ。

 そして、最後にわたしの望みはかなうだろう。


「うひゃうっ!!」

 

 首筋にマユハの触手がからみつき、フレイは悲鳴を上げた。

 うだうだ言っている時間はないのだ。

 

「失礼なひと。乙女の身体に触れるんだから、感謝すべき」


「僕はこういう性癖はないんだよっ!! く、首元を這い回らないでくれっ!!」

 

「フレイ、わたしはこれをやる。悪いけど、君達にもつき合ってもらうわよ」


「君は……自分が言っている意味がわかっているのか?」


「もちろん」


「たった一人に担える呪詛(ねがい)じゃない。失敗すれば、強烈な呪い返しがくる。成功すれば、それはそれで――」


「いいのよ」


 フレイは絶句した。

 おやおや、最初はわたしやアルを道具として使い捨てるつもりだったくせに。

 なんだかおかしくて、頬が緩んでしまう。


「なに? 君、わたしに気をつかっているの? 情が移ったってことかしら」


「……まさか、冗談じゃない。僕は作戦を遂行する。僕に与えられた機能をまっとうする。それだけだっ!!」


 ピースメイカーは跳躍の頂点に達した。

 あとは折り返し。降下攻撃に移行する時だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんかフレイ。憎めないキャラになりましたね。 さあ、あと6回かな?
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