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終末までの道筋

「――跳躍!!」


 フレイヤの号令で我に返り、わたしは上昇操作を行った。

 穂先が天を指し、ピースメイカーは宇宙へ駆け上がっていく。

 フレイヤはほっとしたように、


「方位、上昇角、速度とも正常です。現在の姿勢を維持してください。降下タイミングは――」


「……希望だわ」


「はい? なんでしょうか、ボルド中佐」


「希望よ! ファウンダーは未来を誰かに託したのよ!!」


 託された誰かが戦争を勝利に導くことを、彼女は確信した。

 だから笑った。安堵したのだ。


「あいつは自分をおとりにしたんだわ。わたし達のとっておきを無駄撃ちさせる為に」


 ピースメイカーは二度と放てない、まさに最大最後の攻撃だった。

 この一撃で勝負を決められなければ、もう打つ手はない。


「ファウンダーを殺してもマガツは滅びず、人類は敗北する。そういう仕掛けがされているのよっ!!」



――ふ、ふふふっ、うふふふふっ! かしこい、ロゼは。



 考えられるのは――子供か。

 生物は子孫に命をつなぎ、世代を重ねて進化する。

 ファウンダーは既に単体で進化する域に達してしまった。

 おまけに事実上、不老らしい。

 だから道具しか必要としなかった。

 命をつなぐ子孫などいらなかったのだ。

 

 だが、お前はあえて己を退化させ、次の女王を産んだ。そうなのね?



――正解、その通り。でも、もう間に合わない。もうなにもできない。わたシの勝ち。勝ち、勝チ、カチ――



 うるさい、黙ってろっ!!

 

 思い切りメッセージを叩きつけると、忍び笑いは遠ざかって消えた。

 勝利宣言をする為だけに接触してくるとは、なんて嫌な奴だ!

 

「次の女王が、マガツの姫がどこかの巣に潜んでいるのよ! ファウンダーを殺しても、そいつが新しいマガツを産み、戦争を継続してしまう……っ!!」


 各大陸に点在するマガツの巣は、確認されているだけで30ほど。

 ファウンダーの娘はどこにいるのか。

 もし巣を特定できたとして、攻撃手段はどうするのか。

 

 どう短く見積もっても、準備に数ヶ月はかかる。我々にそんな時間も余力もない。

 

 つまり……人類の負けだ。

 信じられない。受け入れがたいことだ。本当に負けてしまったのか、ここまで来て。

 歯がみするわたしの手にそっとマユハが触れた。


「落ち着いて、ロゼ」


 熱を帯びた指先。掌には汗がにじんでいる。

 きっと苦しいのだ。痛いのだ。


「わかっている、でも――時間がないじゃない!!」


 マユハが無理をしているのは明らかだった。

 この娘は手遅れになりかけている。刻々と命を削られている。

 わたしはなんの手当もできない。隣にいるのに、助けてあげられない。

 わずかな猶予も使い果たそうとしている。


「時間、少しはある。味方もいる、でしょ。わたしもフレイも戦うのははじめて。はじめての冒険だよ、みんなの」


 苦しげに息をつき、マユハはにっこり笑った。


「わたし達、どうすればいい? 教えて、ロゼ」


 真っ直ぐに見据えられ、返答に窮した。

 マユハはいつもこうだ。こっちの都合などお構いなし。



 わたしは振り回されながらも、いつも君に応じてきた。

 

 

 だから、今回も同じ。そう、いつもと同じだ。


 残り時間は短い。やり直しはできない。

 わたし、マユハ、フレイとフレイヤ、ピースメイカー。残り時間は一分少々。

 他の友軍は遠すぎる。支援は期待できない。

 

 手持ちの資源(リソース)はこれだけだ。おまけにファウンダーを殺すだけでは勝利に届かない。

 

 おびえが忍びよってくる。

 恐怖と絶望がじわじわと浸透し、背筋が震えた。

 わたしはごくりと唾を飲み込んだ。

 

 たったこれだけで人類を救う。救えるの、本当に?

 

 わたしは首を振った。

 当たり前だ。はじめから、そのつもりだったはずじゃないか。

 

 ファウンダーは圧倒的に強大だが、基本的に単独だ。人類に学び子供を作ったが、まだ戦力にはなるまい。

 

 一方、わたし達は弱い。だからみんなでやることに慣れている。

 誰か一人頼りではだめだ。全員の能力(スキル)を活用して、連携するのだ。

 活路はそれだ。それしかない!



 腹をくくった瞬間、すべきことがわかり――因果の連鎖が、かちりとはまった。



 何故か周囲の音が消えた。

 ほんの少しの間だけ、わたしは静寂に包まれていた。

 すべてがまばゆく輝き、くっきりと鮮明だった。

 終末までの道筋はわたしの手中にある。

 

「――ロゼ?」


 大好きなマユハ。

 持てる愛のすべてを君に捧げていることが、わたしの誇りだった。


「ごめん、大丈夫。あんな女、とっちめるのに3人もいれば充分よ!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 徐々に徐々に紐が解けていく感はありますが、まだ、塊は残っていますね。あと1週間。
[一言] おおう……、そういうことでしたか。 無理ゲーが更に無理ゲー化していく!w 本当に勝てるのだろうか!?w(ワクワク)
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