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アライグマがドングリ池にしたお願いの話

 スケッチブックの真ん中には立ったアライグマが描かれていた。

 アライグマは一人ぼっちで薄紫色の空を見上げている。

 その姿は寂しそうであり、また、どこか途方に暮れた様子だった。 

「ちょっとしたことで怒って周りに暴力をふるう」

 女の子は言葉を切り、少し首を傾げました。

「そう。逆さ森のアライグマはとても短気で暴れん坊でした――」

 逆さ森のアライグマはとても短気で暴れん坊でした。

 

 少しでも気に入らないことがあれば怒って、大声でどなり散らし暴れまわります。


 だから、アライグマは大抵ひとりぼっちでした。それが余計にアライグマをイライラさせるのです。


 その日、アライグマは目を覚ますと顔を洗いにドングリ池に向かいました。ドングリ池は願いを言いながらドングリを投げ込むと願いが叶うと言われている不思議な場所でしたが、実際に願い事をしている者を見たことはありません。アライグマはただのでまかせだと思っていました。他の者もアライグマと同じように思っているらしく、ドングリ池はもっぱら森の動物達の水場として利用されているのです。


 ドングリ池には先客がいました。リスとキツネとクマです。


 リスたちは顔を洗いながら陽気に朝のおしゃべりを交わしていましたが、アライグマが現れるとふっつりとしゃべるのを止めてしまいました。


 それがアライグマには気に入りません。


「なんだ、お前たち。オレ様が来たら黙りこむのか?感じ悪いな」


 アライグマはリス、キツネ、クマと順々に睨みつけましたが、リスたちは互いに顔を見合わせるだけで何も言いませんでした。


 アライグマはますます気に入りません。


 返事もしやがらない!とイライラしながら乱暴にドングリ池に両手を突っ込みました。

 あまりに勢いよく手を入れたせいでパシャとしぶきが飛び、キツネの顔にかかりました。

 キツネは「あっ!」と一声上げましたが特に文句を言うこともなく、ゴシゴシ、ゴシゴシとだまって顔を拭きました。


 さすがにアライグマも悪いと思ったので謝ろうとしましたが、謝る前にキツネは逃げるように行ってしまいました。


(なんだ、アイツ。せっかくオレが謝ろうとしていたのに黙っていっちまいやがって!!)


 アライグマはまた、カーッと頭に血が上りました。


 しかし、怒りをぶつけようにも相手はもう行ってしまっています。仕方がないので、全くもって面白くない奴だ、と一声吠えると火照った顔をドングリ池にザブンと突っ込みました。


 冷たい水で頭を冷やしたアライグマは、少し落ち着きましたが、それも長くは続きませんでした。リスが泥のついたドングリを池で洗っていたからです。

 

「オレが顔洗ってる横でドングリ洗ってるじゃねーよ!」


 アライグマは反射的にリスに蹴り飛ばしました。


 もう、こうなったら止まりません。


 アライグマは頭を抱えて逃げるリスを追いかけ回しました。

 見かねたクマが仲裁に入りましたが、構うものですか!

 アライグマはクマの足に噛みつくと、最後にはクマもリスもアライグマに追いかけまわされる始末です。

 結局、リスとクマもアライグマに噛まれたり、蹴られたりして大慌てでドングリ池から逃げ出してしまいました。


 後にはアライグマが一人残ります。


「ああ、ああ、腹が立つ!」


 アライグマは荒い息を吐きながら、じたばたと何度も何度も足を踏み鳴らしましたが、全然、気が静まりませんでした。


「アイツらの顔を見るだけで腹が立つ。

一人残らずどこかへ消えてしてしまえ!」


 アライグマは大声で怒鳴ると足元にあったドングリを蹴り飛ばしました。


 クルクルクルっとドングリは宙を舞うと、ポチャンとドングリ池に落ち、ワサワサと水面を揺らしました。


 水面はワサワサ、ワサワサといつまでも揺れ続けました。いつまでも、いつまでも……


 不思議なことにそれ以来、森でアライグマを見かけることは無くなりました。

 



 逆さ虹の森に風が吹きます。

 捻れた木々をすり抜けながら風が誰にともなく問いかけます。



『アライグマは何処へいったの?』



 『誰もいない場所へ』と逆さ虹が答えました。



 空に浮かんだ逆しまの虹が『怒りにまかした願いがかなった』とニタニタ笑いながら答えました。


 


 


2019/1/17 初稿



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