ヘビが最後に呑み込んだ物の話
女の子は一本のクレヨンを手に取った。濃い青、いわゆる藍色と呼ばれる色だ。
「逆さ虹の森には食いしん坊のヘビがいました」
女の子は呟きながら絵を描いていきます。
やがて、藍色の草むらの陰から眼光鋭くこちらを睨み付けるヘビが現れました。
「ヘビはとても食いしん坊でした。だから、目に入るものは、なんでも、かんでも片っ端から食べてしまうのです――」
逆さ虹の森に一匹のヘビがいました。ヘビはとても食いしん坊でした。
だから、目に入ったものは何でもパクりと飲み込んでしまうのです。
小さな虫を見たら パクリ
地面に落ちている木の実を見つけたら パクリ
なんでも、かんでも パクリ パクリ
すごい食欲です。
食べる分だけ体も大きくなります。
年に何回も脱皮をしました。
知っていますか?ヘビは脱皮する度に大きくなるのです。体が大きくなればなるほど、食欲も大きくなりました。
ネズミやリスのような小さな動物を見つけたら ゴクリ ゴクリ
実のなる木を見たら、鎌首を持ち上げて パックリコ ゴックリコ
ヘビはますます大きく、どんどん食いしん坊になっていきます。
目の前にキツネやクマがいれば グワッ パクリ 一呑みです。
沢山の実のなった木があれば根本に胴体を巻きつけボッキリと折って、幹ごとゴクゴク丸呑みです。
ヘビはますます大きくなっていき、ついに胴体は森で一番大きな木の幹より太くなり、頭から尻尾の先は森をぐるりと一周するほどの長さになっていました。
ヘビがなにか食べ物ほないかと森の中をさ迷っている時のことです、がさがさと目の前の草むらが揺れていました。ヘビはためらうことなく草むらごと一呑みにしました。
なぜって、ヘビがなんでもかんでも見境なく呑み込んでしまったせいで森の食べ物がすっかり無くなっていたからです。
この機会を逃したらまた何日もお腹を減らしたままで森をさ迷わなくはならりません。
ヘビは口にしたものに鋭い牙を突き立てました。ヘビの牙はヘビのお腹の方に緩やかに曲がっているので一度掴まえ獲物は決して逃げることができないのです。ヘビはゆっくりゆっくりと掴まえた獲物を呑み込んでいきます。
見た目は細かった獲物ですが、ずいぶんと長いようでした。ヘビがズンズン呑み込んでもなかなかなくなりません。
ヘビは嬉しくなってドンドン呑み込んでいきます。
ズルリ ズルリ
ズルリ ズルリ ズルリ
ズルリ ズルリ ズルリ ズルリ
やがて――
後には静けさだけが残りました。
逆さ虹の森に風が吹きます。
捻れた木々をすり抜けながら風が誰にともなく問いかけます。
『ヘビが最後に口にしたのはなに?』
『それは自分の尻尾』と逆さ虹が答えました。
空に浮かんだ逆しまの虹が『自分の胃袋に、際限のない食欲に溶かされた』とニタニタ笑いながら答えました。
2019/1/16 初稿
次回は1/17 0時。そして、完結の予定です。