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抱えきれないほどの木の実を手にいれたリスの話

「秋の実りの季節。

イタズラ好きのリスは普段なら木の上から熟れた木の実を下を通るものたちぶつけて遊んでいる時期です。

でも――」

 女の子はスケッチブックにリスを描き、その周りに小さな青い丸をたくさんを付け加えた。

「その年はとても豊作でリスの大好物の木の実がたくさん実ったのです」

 女の子は喋りながらも、手を休めることなく描きつづける。

 僕は首を横に捻る。

 なんだろう。

 女の子の描くリスが立っているようには見えない。まるで横たわっているように見えたからだ。妙な違和感があった。宙に浮いているか、或いは水の中に浮いているようにも見えた。

「木の実を食べれば食べるほどリスは木の実が欲しくなりました。そして、森中の木の実を集め始めました。

まるで森の木の実は全部自分のものだと言わんばかりに、両手一杯に木の実を抱えて、森の中を練り歩くのです」

 リスが両の手一杯に木の実を抱えて歩いていました。木の実が一つポロリと腕から転げ落ちました。リスはそれを拾おうとしますが目の前が抱えた木の実で塞がって、落ちた木の実の位置がわかりません。当てずっぽうで地面を探っているうちに、また一つがポロリ、さらにポロリと零れ落ち、しまいには持っていた全ての木の実がボロボロと地面に落ちてしまいました。

「ああ、もう、嫌になる!」

 リスはかんしゃくを起こして叫びました。


 季節は秋。今年は豊作で森には食べきれないほどの木の実が実りました。お陰でリスは朝から晩まで好きなだけ木の実を食べることができました。リスは丸々と太り、毛並みも艶々と陽の光を反射して輝いています。それ程食べても木の実は全然余っていました。

 リスは木の実をどうしたものかと悩みました。

 最初は、木の根っこ辺りに埋めて、冬になったら掘り出して食べようかと思ったのですが、埋めた木の実がすぐに別のリスに掘り返されてしまったのです。

 リスは困ってしまいました。

 せっかく見つけた木の実なのです。一個たりとも他の者に渡す気にはなりません。

 そこでたくさんの木の実の抱えたまま、森をうろついては木の実を落とし、落としては拾い、また落とす、を繰り返していたのです。


「ああ、もう、嫌になる!」

 この日、何度めかのかんしゃくを起こして、リスは疲れたように地面にへたりこんでしまいました。

 リスは地面に散らばった木の実を眺めながらため息をつきます。

 これらを拾い集めるのはもううんざりでしたが、このままにして誰かに持っていかれるのも我慢なりません。

 その時です。リスは近くの木にまとわりついている(つる)に目がいきました。

「そうだ、これだ!」

 リスは手を打ち、叫びました。


 


 リスがよろめきながら森の中を進んでいきます。全身に木の実を蔓で縛りつけて、更に何十も数珠繋ぎにしたものを3本ほどズルズルと引きずっていました。

 結局のところ、もって歩くのが一番安心と言うことです。

 重みに耐えかね右に左によろめいていましたがリスはそれで満足なのです。

 汗をかき、歯を食い縛りながら歩いて行きます。

 やがてオンボロ橋にやって来ました。橋を渡れば、家までもう目と鼻の先です。

 リスは、疲れた体を奮い立てて橋を渡り始めました。

 丁度半分程渡った時です。


 ブツン!


 嫌な音と共に橋を支えていた綱が突然切れたのです。


 ドブン!!


 あっという間もなく、リスは川に落ちてしまいました。


「助けてくれ~」

 

 リスは助けを求めましたが、助けてくれそうな者は誰一人としていません。

 いつものリスなら自力で岸に泳ぎつけれるのですが今日は体にくくりつけた蔓と木の実が重くてどんどん下流に流されていきます。必死になって水面を叩きましたが、いたずらに水しぶきが上がるだけでどうにもなりません。

 やがて、リスは水中に呑み込まれ二度と上がっては来ませんでした。



 逆さ虹の森に風が吹きます。

 捻れた木々をすり抜けながら風は誰にともなく問いかけます。



『リスよ、リスよ、何処に行った?』



 『冷たい、冷たい、川の中へ』と逆さ虹が答えました。




 空に浮かんだ逆しまの虹が『大事な、大事な、木の実と一緒に』とニタニタ笑いながら答えました。





2019/1/16 初稿

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