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森で一番歌が上手かったコマドリの話

女の子はスケッチブックをめくった。


 そして、迷いのない様子でシュシュと素早く絵を描いていく。


 焦げ茶色のバックにオレンジ色の物体が浮かび上がってきた。女の子の言っていたコマドリだろうか?


 にしても、茶色が地面だとすると、地面にコマドリっておかしくないだろうか?


普通、鳥を描くなら木の枝にとまっている所とか描くと思うのだけど。


「コマドリは森で一番歌が上手くて、それがとても自慢だったの――」

 コマドリは森で一番歌が上手でした。


 ヒンカラカラ~

 ヒンカラカラ~


 歌えば森の誰もがうっとりとその歌声に耳を傾けます。

 『なんて綺麗な歌声なんだ』

 『素敵、素敵、もっと聞かせて』

 森の動物たちは口々にコマドリを誉めます。コマドリも誉められる度に誇らしげに胸の毛を膨らまし、一層大きな声で歌うのでした。

 

 そんなある日のことです。

 いつものようにコマドリが森で一番高い木の上で歌を歌っていると、どこからか鳥の鳴き声が聞こえて来ました。


      ヒンカラカラ~


 自分と同じ鳴き声です。

 コマドリは内心ムッとしました。

 森で一番歌が上手い自分が歌っているのにまるでこっちの方が上手いと言わんばかりではありませんか。

 コマドリは胸を張ると大きな声で歌い返しました。


 ヒンカラカラカラカラ~

 ヒーン カラカラ~


 そして、どうだ!と言わんばかり目を見張りました。

 

      ヒンカラカラカラカラ~

      ヒーン カラカラ~

       

 するとどうでしょう。見知らぬ鳥が歌い返してくるではありませんか!それも、同じ鳴き方で!!

 コマドリはますますいきり立つと、もう一度歌い返します。


 ヒンカラカラ

 ヒンカラカラ

 ヒーンカラカラカラ


      ヒンカラカラ

      ヒンカラカラ

      ヒーンカラカラカラ


 別の鳥も対抗するように歌い返してきました。明らかに自分の方が上手いと言わんばかりです。

 コマドリは怒りました。自分の方が遥かに上手いのに、なにを誇らしげに歌うのでしょう。

 恥知らずな鳥だ!

 コマドリはそう思うと、思い知らせてやろうと、飛びっきりの声で歌いました。


 ヒンカララ ヒンカララ


      ヒンカララ ヒンカララ


 しかし、相手は恥じ入るどころか同じように歌い返してきます。

 自分の方が上手いのに。

 黙れ! 黙れ!!

 コマドリは相手を黙らせようと声を限りに歌い続けました。


 ヒンカララ ヒンカララ


      ヒンカララ ヒンカララ


 いくら歌っても相手も歌い返して来ます。


 ヒンガラガー ビンガラーー


      ヒンガラガー ビンガラーー


 やがて、美しかったコマドリの声は枯れ果て、口から血が流れてきました。

 しかし、相手の声も疲れてきているようで、もう聞くに耐えないダミ声になっています。

 もう一息だ。

 そうコマドリは思い、一層力一杯歌いました。だらだらと口から血が流れ出ましたが、そんなことに構ってはいられません。


 ビンガーー ビンガーー


 相手も歌い返して来ます。

 

      ビンガーー ビンガーー


 コマドリは寝食も忘れ、がらがら声になっても歌い続けました。

 

 ビンガーー


      ビンガーー


 ビンガガー


      ビンガガー


 ビッ









 ポトリとオレンジ色の物が木の上から地面に落ちました。

 コマドリです。

 休むことなく歌い続けたコマドリはついに力尽きて死んでしまったのです。




 後には静けさだけが残りました。




 逆さ虹の森に風が吹きます。

 捻れた木々をすり抜けながら風が誰にともなく問いかけます。


『何がコマドリを殺したの?』




 『それは木霊』と逆さ虹が答えました。


 空に浮かんだ逆しまの虹が『それは傲慢な心』とニタニタ笑いながら答えました。




2019/1/14 初稿


次は1/15 0時予定です。

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