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第4章 その10 カントゥータとアトクの対決


          10


「次はおめえか、カントゥータ。少しは腕をあげたかよ」

 アトクが楽しげに笑った。

「三年前は、おれのほうがスリアゴの名手だったんだぜ」


「いつまでも昔のままだと思うな。わたしも、戦う覚悟はできているんだ!」


 険しい顔をしたカントゥータは飛び道具スリアゴの紐を握り込み、振り回した。

 

 ヒュン、ヒュン、ヒュン……

 硬質な高い音と共に、風を切る。


 投石紐ワラカの、ビュンという唸りとは少し違う。


 一本の細い紐に、先の尖った金属製の錘を結びつけたスリアゴと、投石紐は、共に、リャリャグアという家畜の丈夫な毛をより合わせて作られているが、平たい紐の中央に拳ほどの石を挟んで飛ばす投石紐ワラカとは、構造が根本的に違う。

 スリアゴは錘を投げつけて敵に打撃を加え、すぐに紐を引いて手元に錘を戻すことが可能。カントゥータは、この危険な飛び道具を自在に操ることができる。


 村の人間ならば全員が習得している技が、投石紐ワラカの扱いだ。

 日々の生活の中で、幼少の頃より家畜の世話をしながら自然に身につけていくのである。


 これに対してスリアゴは、日常生活においては出番が無い。

 はっきりと戦うための「飛び道具」そのものだ。

 ゆえに戦士しか、使用しない。

 戦いのときにのみ用いられる専用の武器であるがゆえに、技を習熟するけれども実践するには至らない。

 これには、平和なときには、という条件がつく。


 今は、平時ではない。


 カントゥータもローサも、アトクも。そしてクイブロも、村の人々も。そのことは全員が、よく心得ていた。

 アトクは懐に手を入れ、自らもまた、スリアゴをつかみ出した。


 ヒュン!

 切り裂かれた空気が、震える。

 

「どうしたカントゥータ。花の名を持つ、おれの妹。昔はかわいかったのに」


「うるさい! 大兄こそ、キツネ(アトク)みたいに賢かったのに」


 言い争いながら、二人は同じ武器をぶつけ合う。

 すぐさま飛びすさり、互いに相手の力量を測る。


「三年前に村を出たおれが、グーリア帝国の駒となって戻ってきた。村を殲滅せよと、指令を受けてな。だが、おれは命令に従うんじゃない。自分の意思でこうしている。おれを失望させるなよ、カントゥータ」


「勝手なことばっかり。ふざけるな! なんで、すっと、どーんと前に立っていてくれなかったんだ。大兄が、村にいてくれたら」

 カントゥータがスリアゴを放った。


「そしたら、おれは、家族を全員殺して出奔してた。結局は、どうにもならなかっただろうよ」

 アトクは、低く笑い声をもらした。


 彼の放ったスリアゴは空中でカントゥータの投げたスリアゴの紐を絡め取り、ギシギシと軋んで、次の瞬間。


 ブチッと鈍い音とともに、紐が切れる。

 切れたのはカントゥータのスリアゴだ。

 体勢を崩し、あやうく倒れそうになったものの、ぐっと踏みとどまる。


 紐を手元に引き寄せたカントゥータは、ぎりっと歯がみをした。


「切れてる! アトク兄、紐に刃物を仕込んだろ。だが禁断の技だ。なぜなら」


「何をいまさら。おれがまともに戦うとでも。そうだよ、禁じられているのは、自分も傷を負うかもしれねえから、だな」


 にやりと笑い、アトクは右腕を高く上げた。

 手首から血が垂れている。


「だが案じるな。ほれ、もう、おれの血は赤くないんだよ。赤黒いだろ? じきに、おれは死ぬ。いや、とっくに死んでるんだったな。じきに、活動限界ってやつが来る。その前に、派手に、花火をぶち上げてえなぁ……くくくくっ」


「花火……!?」

 はっと、カントゥータは、村の方に目をやった。

 アトクと共に侵入したグーリア帝国の兵士達、通称ベレーザの一団が暴れまわっているはずだ。


「もしや、あいつらは……仕掛けに!?」


「おれに課せられた最も重要な指命は。『欠けた月の一族の村』を殲滅することだ。そいつを、このつくりものの右目に見届けさせてやらなくちゃ、いけねえんだよ」


 アトクは、ふいに、くぐもった音を喉からもらした。


「カントゥータ、おれの気の強いじゃじゃ馬で可愛い妹。おれが斃れたら、この右目を、ここに残しておくな! 消し去ってくれ!」


 切羽詰まった叫びが、赤黒い大量の血と一緒に吹き出した。



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