表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/144

第4章 その4 クイブロ、村へ帰還する。(アルちゃんと一緒!)



 近づいて来るにつれて、銀色の竜が、どれほど大きいのかが、はっきりとわかるようになる。

 背中に乗ったクイブロ、コマラパ、カントゥータの三人は、竜の巨体に比べるべくもなく、小さく見えた。


 何か叫んでいるのだろう。

 三人とも手を振っている。


 昇る太陽を受けて、銀竜の身体を覆う鱗は、銀と青と緑色に照り返し、きらめいた。


「ローサ、クイブロたちが帰ってきたんだな」

 背後で声がして、ローサは振り返る。


「黙って起き出していくから、心配したぞ」

 夫のカリートだった。

「無茶するな」

 と言いながら、腕に持っていた肩掛けを広げて、ローサの肩や背中を覆うように被せた。


「あたたかい」

 ローサはつぶやいて、肩掛けを首元にかきよせた。

「あんたはいつもそうだった。いつの間にか、そばにいてくれて」


「おれたちは伴侶同士ヤナンティンだろ」

 カリートは、照れたように笑った。


「おまえの荷物は、半分とまではいかないかもしれないけど、おれも手伝うから。持たせてくれ」

 まぶしそうに見上げながら、カリートは、ふとつぶやいた。

「クイブロの嫁御は、どうしたんだろう? 姿が見えないが」


「……おや、ほんとうだ。クイブロの隣にいるものと思っていたけど……?」


 

 バサバサと羽音をたてながら、銀竜は村の入り口から少し離れた地面に降り立った。


「お久しぶりでございます。貴き銀竜さま」


『ああ、懐かしいな。ローサ・トリエンテ・プーマ。そしてカリート』


「はい」

 神妙な声で、カリートは答えた。

「初めて、お目どおりが叶いました。おれの成人の儀のときは、お声を聞いただけでしたので」


『ああ、あれか。悪いな。男に会ってもつまらん。そのかわり、加護は与えただろう。おまえが願っていたとおりに。こう申しておったよな。「おれは幼なじみのローサを助けになりたい。生まれながらに将来は村長になることが決まっているローサ、優しいあの子の涙を止めてやりたい」と、こうだったの?』


「あわわ! 銀竜さま、ご勘弁を! 恥ずかしいです!」

 真っ赤になったカリートは、両手をばたばたと振って慌てたが、銀竜の言葉は、その場にいた全員が、しっかりと聞いていた。


『そうか? わしは感心したのだぞ。まだ好意を打ち明けてもおらぬ、他の男を婿に選ぶ可能性もあるローサに、生涯尽くしたいと、おまえはルミナレスの頂上を間近にして誓った。だから、会うまでもない、加護を授けてやろうと思ったのだ』


「あ、あんた、そんなことを成人の儀で!?」

 ローサまで、顔を赤くした。

「あたしに告白するより前に、銀竜さまに打ち明けるなんて」


「え、怒るのはそこか? 自信なかったんだ、お、おまえに言い寄るやつは大勢いたから……みんな、力も強いし顔もいいし。なぜだか、あいつらみんな、出稼ぎに行っちまって、まだ帰ってきてないけど」


「それは、あたしが、全員、こっぴどく振っちまったせいだよ。村には惜しい人材だったけど、暑苦しくてさ」

 ローサは、恥ずかしそうに笑った。

「バカだね。あたしは、ずっと前から、選ぶならカリート、あんただって」


「ローサ! う、うれしいよ」


『そこらへんにしといてくれんかの。このぶんだとクイブロとカントゥータに、来年また弟か妹ができそうだのぅ』

 抱き合っているローサとカリートに、銀竜は声をかけた。


「え? は、はい!」


「すみませんでした。でも、おかげさまで夫婦仲もよく」


『それはわかっとる。おまえたちの将来は、わしが視ておったからの。では、降ろすぞ』

 銀竜は、膝を折る。

 まずカントゥータ、続いてクイブロ、最後にコマラパが、地面に降り立った。


「ただいま、母さん、父さん!」


「おかえりカントゥータ! コマラパ老師さまと、ちゃんと見守りをしてくれたんだね」


「かたじけない。村の大切な働き手であり護り手である跡継ぎのカントゥータ殿を、わたしなどの護衛につけてくださるとは、重ね重ね、感謝いたします。ローサ殿」


「コマラパ老師にはお世話になっておりますから。でも、うちの跳ねっ返りが、護衛などできましたか、心配でした」


「なんのなんの。こちらこそ、助かりました。魔獣も出ましたが、カントゥータ殿は本当にお強い。まるで十人以上の戦士に守られているようでしたよ」


「まあ、お上手な」


「そうだろ母さん。わたしは強いんだから大丈夫だって」


「カントゥータ。おまえは確かに戦士としては一流だよ。でも、謙遜とか自重という言葉は、おまえには無縁のようだね……」

 ため息をついた、ローサは。

 皆から離れ、所在なげに立っているクイブロに、目をやった。


「おかえり。クイブロ。どうしたんだい、しょんぼりして。銀竜さまの背中に乗せていただくなんて、この村始まって以来のことだよ。成人の儀もうまくいったのだろう。おめでとう」


 クイブロは、うつむいた。

「うん。おれとルナはルミナレスの頂上に登った。銀竜様に出会って、加護をもらったよ。でも、ルナは……精霊の森に、連れ戻されちまったんだ!」


 コマラパが前に出て、ローサに説明した。

「わたしの娘、カルナックは、クイブロと二人でルミナレスの頂上に挑み、銀竜様にお目通りが叶い、加護を頂きました。ただ、そこへ、養い親の精霊様たちが訪れ、警告したのです」


 一刻の猶予もない、と。


「村に危険が迫っている。カルナックの身が心配だから、いったん精霊の森に連れて帰る。危機が去ったならば、あらためて迎えにくるようにと」


「……ああ、やっぱり」

 ローサは深いため息をついた。


「今朝の夢見に出てきましたよ。アトクが還ってくる。でも一人じゃ無い。暗い影を、しっぽみたいに長く引きずってた。縁を切ると言って飛び出していった息子だけど、それでもなお『欠けた月』の一族です。村の結界を、アトクなら越えられる」

 ローサは言葉をとぎらせた。


 カリートが続けた。

「いつか戻ったら、村長のローサと、跡継ぎのカントゥータを殺す。村を滅ぼしてやると、捨て台詞を残して出て行ったんです」


「情報屋の『早便』が、アトクが還ってくると噂を聞いたと言っていた」

 カントゥータは、つぶやいた。

「だが、あいつ、どこでそんな情報を仕入れた……?」


「それすら何者かのはかりごとかもしれんな」

 コマラパは断じた。

「やらかしそうなヤツに、心当たりがないでもない……」


『セラニス・アレム・ダル』

 銀竜が言った。

『このところ、おとなしくしていたようだが。陰で何かを仕込んでおったのかもしれんのぅ。性格の悪いやつだからな』

 そして銀の竜は、身体を揺すった。


 銀色の鱗がきらめいて、光が飛び散った、あとには。

 長い銀髪に、フェードラ(ルビー)を思わせる透き通った赤い目をした、背の高い青年が、たたずんでいた。


『しばらくは、この姿でいるとしよう。竜の身体では目立つ。さあ、みんな。村に入ろうではないか』


「銀竜さま。村にお越しいただけるのですか」

 おずおずとローサが尋ねる。


『儂は、その昔に、『本当の』イル・リリヤより使命を授かったでの。長い間、おまえたちの成長を見守り加護を与えてきた、いわば、親……いや、おじいちゃん、か。可愛い曾孫たちの危険を見過ごすわけがなかろうよ。助けてやるとも』

 そして、そっと、つぶやいた。

『ルナにも、約束したのだ。なあ、クイブロ?』


「うん」

 静かだったクイブロが、うなずいて。


「約束した。戦って、勝って。ルナを、迎えにいく!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしよかったら見てみてください
このお話の四年後、クイブロ視点の男主人公一人称です。

リトルホークと黒の魔法使いカルナックの冒険

4章からカルナックも登場しています。
転生幼女アイリスは世界が滅びる夢を見る。~前世は人類管理AIで女子高校生でキャリアウーマン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ