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第3章 その17 銀竜様と、空の旅


            17



『いざゆかん! 空の旅へ! ひゃっほう!』


 氷河峰ルミナレスの頂上に宿る、銀竜アルちゃんは、ご機嫌だった。


 まずクイブロが背中によじ登って、カルナックを引き上げる。

 ラト・ナ・ルアは、自力で飛び上がった。

 それぞれがしっかりとベルトを掴んだのを確認すると、銀竜は翼を広げ、軽く羽ばたいて、宙に浮いた。


 羽ばたきで浮いたとは思えない滑らかな浮揚である。


『しっかりつかまっていろとは少々脅したが。案ずることは無いぞ。儂はそこらの現住ドラゴンとは違うのだ。保護フィールドを展開しておるからの。落ちはせぬし、上空へ飛んでいっても、冷たい空気で肺が凍ることはない』


 前置きをしてから、浮き上がり、天井を目指した。


 加護の付与のためにいったん千々に砕け欠片を降り注がせた天井だが、とっくに元の状態に戻っていた。


 今、銀竜が近づくと、ほのかに青い天井板の中央に亀裂が入り、左右に開いていく。


 充分に開いたのを見るや、銀竜は勢いよく飛び上がって天井を抜けた。


 銀竜と背中に乗った三人は、空に飛び出した、というより何も無い空に投げ出されたように、体感した。


「うわああああ! 落ちた!?」

 クイブロが動転して叫ぶ。


「まわりじゅう全部、空!?」

 カルナックは、きょろきょろと周囲を見回す。


 前後左右、全て藍色の空だ。

 他には何も見えない。


「アルちゃん、高度上げすぎじゃないの」

 ラト・ナ・ルアは、しごく冷静だった。

「これ、氷河領域を抜けて麓まで乗せてってくれるってレベルじゃないでしょ……」


『悪いがセラニスの目をくらますためなのでな。一気に高度を稼いだ。やつは「魔天の瞳」とか呼んでおったが、地上に小型の監視衛星を幾つも飛ばせている。何故か、ここ最近は静かにしているが、念のため用心しておいたのだ』


「ああ。それ……心当たりがあるわ」

 ラト・ナ・ルアは、「うんうん」と何度も頷いた。


 欠けた月の一族の村で、闇の魔女カオリこと、カルナックの中に眠る前世の意識、並河香織と戦って、こっぴどくやられた後遺症に違いない。


「セラニスの干渉は、しばらくは無いかも。行動するなら今のうちだってことは確かね。良い判断だわ。アルちゃんありがとう」

 珍しくラト・ナ・ルアは手放しで銀竜を褒め、礼を言った。


『なんの。儂も、羽根を伸ばしたかったのでな!』


 ぱんっ!

 音を立てて、翼を大きく広げる。


『実際には翼に頼ってはおらんのだが、気分だ。広い外に出るのも、友だちと一緒なのも、羽根を広げられるのも、しごく、極上に心地よいのぅ……』

 うっとりと、つぶやいた。


「アルちゃん、すごい! おもしろーい! ねえねえ、クイブロ、姉さん、見て! あれ、白くてキラキラしてるの、さっきの雪山? ずいぶん小さいよ!」


 カルナックが楽しげにはしゃぐ。銀竜アルちゃんは嬉しそうに目を細める。


『一気に上がったからの。何もかもずいぶん小さく見えるじゃろ。飛行機くらいの高度か。もっと上がれるぞ。このエナンデリア大陸全土を見渡せるくらいに』


「もう竜が飛ぶ範疇じゃなくない? 人間の記録にあった、宇宙船とかロケットとかいうものよね」

 ラト・ナ・ルアは、感心するのを通り越して呆れている。


『ふっふっふぅ~。儂らは母船へヒトを運ぶこともできるようになっておるのだ。速度を合わせる必要があるし、向こう側の協力がないと危険だがのぅ。それは、いずれ。今は、空中散歩としゃれ込むかの?』


「そうね。大陸全体を見渡せる機会なんて、今をおいては、ないかもしれないわ。カルナックに見せてあげたい。いずれ、この子は地図を作ることになるでしょう。この世界に、まだ正確な地図は作られていない」


『儂の与えた加護の中に、確か「地図作成」があったな。行ったり、見たことのある場所なら、きわめて精度の高い地図を作れる。では、二人に見せておくか。さあ、クイブロ、ルナ! よく見ておくのだ。これが、エナンデリア大陸全体の姿だ。後で、少しずつ高度を下げて、一つ一つの山や川、国を見せてやろう』


 超高空から、銀竜は大陸全体の形が見えるように、ゆっくりと滑空した。


 広大な海に取り囲まれた、たった一つの大陸。


『この世界セレナンには、大陸は一つだけ。あとは海だ。小さな無人島はあるが。いいか、東西を走る二つの背骨、白き峰と、黒き峰。中央に高山台地。無数の川、湖。大森林。様々の思惑、考え方、暮らし方を持つ、あまたの人々の生きている土地を、よく見ておくのだ』


「これ……なんか、どっかで見たような……南米大陸?」

 カルナックは小さな声でつぶやいた。


 前世の記憶がよみがえったのか。

 ただ、大きな声で叫ぶわけではない。

 エナンデリア大陸の形は、かつての地球にあった南米大陸に、よく似ていた。


『そうだな。初めて見たときは儂も驚いたものだ。セレナンの大いなる意思に会ったときに、確かめてみるのだな。イル・リリヤに聞いたところでは、セレナンは世界の構築に、人間達の記憶にあったものを参考にしたというが』


「手短にね! 今は時間がないの。ああ、でも、得がたい機会だものねえ。悩むわ~」

 可愛いカルナックと、その伴侶のクイブロの教育と、時間との争いに、ラト・ナ・ルアは、頭を悩ませるのだった。


『ハッハアー! 悩むでないぞ、ラト。もし望むなら、この後も、いくらでも儂を呼び出してくれれば良いのだ! すぐに駆けつけようぞ』


「え? でも、おれたちは成人の儀のときに、一生に一度、銀竜に会えればいいくらいだって教わったぞ」

 クイブロは目を白黒。


『おまえたちは特別だ。なぜなら、儂の、ともだちだから』

 背中に乗っているので二人には銀竜の顔は見えない。

 けれど、少し照れているような感じがした。


「え! アルちゃん! ほんと?」


「銀竜様と、おれが友だちだって!? 母ちゃんと父ちゃんが聞いたら、驚くぞ!」

 カルナックとクイブロは、手を取り合って喜んだ。


「まさか、銀竜がそんなことを申し出るとは思わなかったわ」

ラト・ナ・ルアは、感慨深げであった。


『ところでさっきの携行エネルギー糧食は、どうじゃった。その、味のほうは』

 恥ずかしそうに、尋ねる銀竜。


「……あ~、あれ。棒みたいな形の焼き菓子っぽいの?」

 クイブロは、返事に困った。


 一口食べて盛大にむせたクイブロは、ルナには、これを食べるなと言ったのだ。

 その形状を見たルナが「カ○リー○イト?」とつぶやいたのは、聞き逃していた。


 ひどい味、なんて可愛いものではなかった。


 殺人的な味だった。


 付与された加護のおかげで、回復力が急激に高まっていたために一命を取り留めたのではないかとクイブロは思っている。


 銀竜ときたら。

 人間に料理名人のスキルを付与できるくせに、どうして自らは、変な味の飲み物だの食べ物を作ってしまうのだろうか。



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