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第3章 その16 銀竜様お手製カ○リーメ○ト


            16


 少し落ち着いてきた、カルナックとクイブロは、銀竜を振り仰いだ。


「アルちゃん! 教えてほしいんだ。加護ってなに?」


「いっぱい貰ったのは嬉しいけど、どれがどれだか」


『そうさのう、加護について説明しておこうかのぅ。おっと、ごほんごほん』


 ラト・ナ・ルアに怒られたばかりであったので、少しばかり気まずそうにアルちゃんは咳払いをした。


 とたんに巻き起こる突風。


 アルちゃんは軽い咳払いのつもりだったのだろうが、居住空間に嵐が吹き荒れたような状態になってしまったのだ。


「バカじゃないの!? アル! あんた今、竜体なんだからっ」


 洞穴にいる人々の中で最も体重の軽い精霊、ラト・ナ・ルアは、ちゃっかり銀竜アルちゃんの翼の根元にしがみついていた。なおかつ左手にカルナックを捕まえている。

 うっかり忘れられていたクイブロは、自力で、ひっくり返った長椅子の下から這い出してきた。


『いやあ、すまん、すまん』

 謝りながらも、いったん竜体になってしまうと今度は人間型になるのも穏やかにはできないということで、アルちゃんは翼を折りたたみ、猫背になって、大きな身体を、できるだけ小さく縮こめるのだった。


『話を戻そうかの。加護というのは、イル・リリヤが創り出した、人間のための補助機能アシスタントだ。ほぼ、ゲーム内における「スキル」と同義だな。それを可能にし実行しているシステムについては説明を省く。要は、どうやって使いこなすか、だろう?』


「うん。どうしたらいいの」


「おれ、強くなれる? ルナを守りたいんだ!」


 カルナックとクイブロは、二人並んで銀竜を見上げる。


『……なるほど。これは困った。ラト・ナ・ルア。おまえの言う意味がわかったぞ』

 銀竜は、ぼそっと呟いた。

『可愛いは、犯罪だな』


「…?」

 二人は相変わらず、きょとん顔である。


『おまえたちは身体が以前より楽に動けると感じているはずだ。特にクイブロ。精霊と契約し、精霊界に半分入りかけている。銀竜の加護を得て、その時期が早まった。今こそ、身体を大事にしろ。おまえは人間と精霊の間に立つ者だ。加護という名の「スキル」は、おまえを助ける』


「おれが精霊と人の間に? ルナは?」


『ルナは既に「精霊」だ。存在としては。自分でもわかっているだろう?』

 アルちゃんの視線の先にいるルナ(カルナック)は、わずかによろけ、ラト・ナ・ルアの差し伸べた腕に支えられて立っている。


「……うん。おれは『ヒト』には戻れない」

 目を伏せて言った。

「でも、『ヒト』と共にありたいって思っているんだ」

 遠慮がちに、顔を上げて。クイブロを見た。


「あたしたち精霊は、カルナックがいる限り人間を見捨てない。クイブロ。だからこそ、あなたの存在は重要。いま、カルナックをこの世につなぎ止めているのは、クイブロと、その家族なの」


 自分と家族が重要だと聞いても、クイブロには実感が持てないが、もう一人、大事な人間がいると、思い出す。

「コマラパは」


「彼は別よ。カルナックの実父なんだし」

 ラト・ナ・ルアは笑った。

「それにコマラパだって精霊に近いわ。聖なる水を飲んでいるし、人間の世界では殺される運命だったんだもの。あたしたちが取ってもいいわよね。カルナックのためには、同じくらい長く生きてもらわなくちゃいけないの。クイブロもね」


『ところで、急いで帰還せねばならんのだろう。いくらここが亜空間で、時間の流れが違うといっても』


「ええ。時間は惜しいわ」

 ラトは頷いた。時折、どこかの様子を見ているのか、「世界」と話し合っているのか、遠くを見ているような表情になる。


『ならば、儂の背中に乗るがよい。麓まで送っていこう。その間に、もう少し説明してやろうほどに』


 申し出を受け、いざ背中に乗ろうというときに、アルちゃんは、小さな布包みを渡して寄越した。

 開けろという。

『自信作なのだ。食べてみてくれんかのう。もちろん精霊でも食せるように、高濃度のエネルギーでできているのだ!』

 照れながら言うのだった。


 細長いブロック状のビスケット(の、ようなもの)であった。

「……カロ○ーメイ○?」

 それを見て、カルナックは、つぶやいた。


『メモリーの中にあった糧食を再現してみたのだ』


 ぜひ食べてほしいという銀竜のたっての願いで、クイブロは覚悟を決めて一かけらを口に放り込んだ。

 その後、盛大にむせたクイブロに、カルナックが、肩に掛けたポシェットから水を出して飲ませた。

「だめだコレ。ルナは食うな」

 クイブロは宣言した。

「さっきもらった加護の中に『料理』って、あったから。ルナの食べるのは、そのうち、おれが作ってやる」


 精霊に近いカルナックは、何も食べなくても困らないのだが、そんなふうには言わなかった。

「うん。待ってる。おいしいの作って!」


「任せとけ!」


 そして銀竜は翼を広げ、羽ばたいた。


「どうするの? このまま外に出られるの?」


「うわ! う、うえに、ぶつかる~!」

 カルナックとクイブロが声を上げる。


『案ずるな。天井が開く。さっき欠片が落ちてきたところだ。みんな、しっかり掴まれ。ただし鱗はやめてくれ。儂がくすぐったいからな。ベルトがいい』


 銀竜アルちゃんは、乗る人が掴まれるようにと、ハーネスのように背中にベルトを掛けたのである。


『さあ、いざゆかん! 空の旅へ! ひゃっほう!』




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